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 統合国家中枢──首都・トゥレール──




 大陸の最西端に位置する、海を有した都市。

 大陸最大の都市の一つであり、複数存在した国を纏めた統合国家の中枢である。


 魔王との戦いで、大陸中に存在していた国はほぼ一つに統一されている。


 様々な要因はあるが、魔王によって有力な王族の大半が滅ぼされてしまったのが大きい。


 そして、由緒正しき王が統治していたこの国が、人間にとっての最後の王国でもあった。


 数年前、王は国政から身を引いた。最後の王権の事実上の消失であった。



 東に堅牢な山脈の壁、肥沃な土地、巨大な港と、大陸の東側を繋ぐ交易路を有したここは正に王者の地であり、全ての地方の代表や産業の代表者が集う大都会であった。


 現在のこの地は、民衆とその代表たる執行議員によって治められる都市であり、それはこの国、大陸全体の姿でもあった。




 王城を見上げる場所に位置するセレモニーホール。

 真っ白な半球体の建物は、大陸の技術の粋を尽くして建てられた未来的な建造物であった。


 一度に三千人以上を集められる大ホールでは、学術講演、劇、音楽会、パーティー。あらゆる文化的イベントが開ける。


 そしてそのホールの上階には、執行議員達が国家運営の指針を決定する講堂が存在する。この巨大統一国家の頭脳に当たる中枢の中の中枢であった。


 講堂以外にも多数の部屋が存在しており、それらは各政党の執務室や資材室として機能している。



 その一角に、現執行議員最大の勢力である新興派も執務室を構えてあった。



 ──コト──


「ふう······」


 新興派執務室の並んだ机。


 その中でも一際立派で、最奥の窓際に置かれた机の人物がペンを置いて小さくため息をついた。


「会長、少し休まられては?」


 近くの机に座る美しい青年が、気遣わしげに声をかけた。

 その青年の整った目鼻立ちはともかくとして、その耳の大きさからエルフであるという事がすぐに分かる。


「そうね。そうしましょう。ちょうど家から届いた茶葉があるわ」

「私が淹れます」

「ありがとう」


 そう言って微笑むのは、若い女性であった。

 長い髪を三つ編みに纏め、質素でありながら気品のある清潔な服に身を包み、姿勢正しく席に座っている。


 特別に美人と言うわけでもなかったが、その目元も口元も、そして佇まいの全てに理知的で気品のある雰囲気が滲んでいた。



「そうだ。私も故郷から送られてきたお菓子があるのです。少し硬いですが、クッキーでして」

「ちょうど良さそうね。頂きましょう」


 すぐに良い香りが微かな湯気と共に立った。


「ふう······。美味しいわね」

「会長、やはりお疲れなのでは? ここ数日間ずっとこちらにお見えになっています」

「やることが山積みですからね。ふふ、休暇はまた来月に延期かしら」


 執務室には席が30近くあったが、居るのはこの二人だけであった。


 今は春と夏の間の季節。この世界では『強芽(グロウリー)』と呼ばれる時期であり、この時期を2区分にした暦の後半の月であった。


 この時期は各地で種蒔きや水田の調整などが行われて忙しくなるため、多くの職業が纏まった休みを取る。いわゆる長期休暇だ。


 しかし、この二人は仕事をしていた。



「保守派の動きはどうなってるかしら?」

「やはり、各地で有力な地主を買収しているようです。次の代表指名(いわゆる選挙、それの投票)で議席を倍に増やそうと躍起です」

「そう」


 会長と呼ばれた女性は憂いを帯びた目で窓の外を見た。


「それどころではないのに」



 女性の名はオリヴィエ・セルクルスと言い、男性の名をパーヴォン・ポワントールと言った。

 二人は、今現在の国家運営の代表者である『執行議員』と呼ばれる政治家であり、その中でも特に勢力の大きい“新興派”と呼ばれる政党の人間であった。


 新興派とは、貴族などの身分を失くして全ての人間に平等な権利を与え、新しい体制の社会を築き上げる事を目的とした党である。


 当然、貴族達から成る“保守派”と呼ばれる政党との関係は険悪で、政治的方針も、思想も全て反発しあっている。



 そんな犬猿の仲の党ではあったが、悩みの種は共通する部分も多かった。


 それは、復興。

 安定した社会体制。充実した産業。破壊されたライフラインの復旧。人口の回復。

 放棄された町や村。各地に残された前哨基地や砦の解体。


 そして、もう一つ。

 モンスターによる被害。



「ほぼ全ての港町での漁獲量が減っているし、木こりも減ってる。汚染された農地の完全な浄化には二百年掛かるなんて言われてるわ」

「それに、地方にはまだ無数のゴーストタウンが存在しており、そこが野盗やカルト教団の拠点になる事も多いそうです」

「壊滅した町の復興のためには木材も石材も、何より人材が足りないわ」

「この二十年で人口増加率は回復していますが、まだまだ人手が足りません」


 百年以上も続いた魔王との戦い。

 それは人間社会に深すぎる爪痕を残していった。

 魔王滅亡から二十年の月日が経っても、復興は半分も進んでいない。


 魔王出現前の、かつての繁栄を取り戻すにはあと百年はかかるとも言われている。


「モンスターの被害報告も深刻ね」


 オリヴィエが深いため息を吐き出す。


「せっかく開墾した土地を荒らされたという報告が、20件。船を沈められたと言う報告も6件。野外定期市が襲われたのが12件。街道で襲われた旅人、商人、兵士、その他市民は数えきれない」

「それも、この都市の近くに限っての話ですからね。ここの辺りは比較的整備も行き届いているにも関わらず、です。全体で考えれば······もはやモンスター被害の無い場所など存在しないでしょう」

「原因は分かってるのかしら」

「研究機関がもうすぐ報告書を纏める頃です。しかし、そこでも人事異動があって、予定よりも遅れるとのことです」


 パーヴォンの言葉にオリヴィエは何度目になるかも分からないため息をついた。


「研究機関も軍の管轄下だったわね。軍縮の件はもっと慎重に議論すべきだったわ」

「仕方ありません。財政的に維持が困難なのは事実でしたから······」


 二人は少し黙ってカップに目を落とした。


「あら、いけない。せっかくの一休みだったのに、また情勢の話。今はお茶を楽しまないと」

「ええ。あ、クッキーもどうぞ」


 二人は無理するかのように笑った。


 カップに口を付けて目を瞑るオリヴィエ。


(モンスター被害······。野生化した彼らを逐一対処するのは組織だった軍隊では難しい。かと言って、ハンターの数は多くないし、彼らの目的は素材。お金にならないモンスターの討伐は引き受けてくれない)


 ほうっと口から漏れる吐息。しかし、それはやはりため息だった。


「何か良い手は無いかしらね······」


お疲れ様です。次話に続きます。

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