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 流石に相手が相手なので、準備は念入りにしておく。


 ナズ特性のポーションを何本かの小瓶に移し、ポーチに入れておく。

 予備の短刀のチェックを済ませ、ベルトに装着する。

 もちろん、自分の剣の刃のチェックはさらに念入りだ。


 防具は軽装にする。対ワイバーン用の魔法武具なんて高価な物はここにはない。鉄の鎧とかなら近くの店で手に入るかもしれないが、ワイバーン相手じゃあっても無くても同じようなものだ。


 それなら回避能力優先にする。



「トレイル、閃光弾持ってくよね?」

「ああ······って、フラン。お前も来るのか?」

「当たり前じゃん。まさか一人で挑むつもりなの?」


 フランも似たような準備を自然に進めている。


「相手はワイバーンだよ? いくらトレイルが強いって言っても楽勝って訳にはいかないもん」

「それはそうだが······」


 もちろん、フランが一緒の方が勝率が断然上がる。と言うか、かなり有利な戦いになるだろう。


 だが、ワイバーンの攻撃はほとんどが即死級のもの。フランの肉体強化なら耐えらるようになって安心だが、それでも危険に変わりはない。


「フラン。ありがたい申し出だが、やっぱりお前はここで待ってた方が······」

「なーに言ってるの!」


 バシッと背中を叩かれる。


「私達はスレイヤー屋でしょ? ここが踏ん張り時じゃん! ワイバーン倒して帰ってきたなんて知れわたったら、明日から依頼がモリモリだよ!」

「······ぷっ。そうだな」


 胆が据わってるのも俺の幼馴染みの魅力だ。


「よし! 俺らにとってのビッグチャスだ。フラン、ここで一旗揚げるぞ!」

「おおーっ!」


 装備も準備も万端にして、ナズとターナの二人に留守を任せて出発する。


「お二人とも、どうか気をつけて下さい」

「店長~、オラまだ何も恩返し出来てねえずら~。無事に帰ってきてくり~」

「ああ。二人とも何か美味い物でも作って待っててくれ」

「行ってくるね!」


 二人から離れ、馬車で待機してくれていたマルセの元へ向かう。ワイバーン出現エリアの近くまで送って行ってくれるそうだ。


「マルセさん。悪いんだが、一つ頼みがある」

「なんでしょうか」

「俺らにもしもの事があったら、俺の金はあの二人で分けていいって言っておいてくれ」

「かしこまりました。しかし、そんな事にはならないと信じております」

「サンキューな」


 少しスピードの速い馬車で目的地を目指す。


 揺れる馬車の窓からフランが物珍しそうに外を見る。


「へー、貴族の馬車って凄いねー。部屋みたいだよ」

「そうだな」

「私達のお店にも一台欲しいね」

「ワイバーン倒せば買えなくはないな」

「なら頑張らなきゃ!」


 しばらくの間、フランとたわいもない会話をして過ごす。


 こういう時は変に緊張しても仕方ない。何時もと変わらない平常心を保って、いざ戦闘になった時に集中できるようにリラックスしておくのが大切だ。



 ──ゴロゴロゴロッ──


「ここまででよろしいでしょうか?」

「ああ、十分だ。ありがとうマルセさん」


 平原に入って少ししてから馬車が止まる。

 俺とフランは降りて、自分達の武器の最終チェックを行った。


「それでは私はこれで。トレイル様、フラン様。どうか無事の帰還を」

「ああ」

「任せて下さい!」


 去っていく馬車を見送り、俺らは周囲を警戒した。


「行くぞフラン。上空に注意だ」

「オッケー。フォーメーションは?」

「一応俺が前に出る。まあ、こんな所じゃあんまり変わらんがな」


 二人で草の海へと足を踏み入れていく。

 もちろん、草原と言っても多少の緩急はあるし、たまに岩などもあるから完全な平原と言う訳ではないが、不利な地形に変わりはない。


 となれば、先に見つける事が重要となる。


「左手に林か。悪くないな。沿って進むぞ」

「うん」


 幸いにも、近くに林が続いている。なるべくそこから離れないように歩いていき、ワイバーンの痕跡を探す。


 もし、俺らのどちらかが戦闘不能になったら、最悪逃げ込めれる場所は覚えていた方がいい。


「フラン、少し早いが今の内に肉体強化魔法をかけてくれ」

「オッケー。我が血よ、器よ、鋼よりも強く、風よりも速き力を得よ。フォースアップ!」


 詠唱の終わりと共に身体の血流が速くなるような感覚と、軽い眩暈を覚える。

 動機が速まり、少し汗が滲む。


「ふう。ほれ、ナズから貰った増強剤だ。飲んでおけ」

「うん」


 二人で小ビンのポーションを一気飲みする。


「よし、行くぞ」

「うん!」


 肉体強化は二時間くらいしたら効果が落ちてくる。それまでにワイバーンを見つけたいたころだ。


 肉体強化魔法のお陰で五感も研ぎ澄まされているので、風上から吹いてきた焦げ臭いにおいを捉える事が出来た。

 そして、僅かな血の臭いも。


「トレイル、この臭い······」

「誰か襲われたのかもな」


 人の物かは分からない。臭いを辿って進む。



 ややして、文字通り焼け野原になった跡を発見した。


「······これは酷いな」

「うっ······」


 そして、そこには10人近い人間の死体が転がっていた。


 幾つかは焼死体で、そうでない物も激しく肉体を損傷していた。人間の姿をそのままにした物など一つか二つくらい。

 他にも馬の死体も幾つかある。

 装備などからして、どうやら軍の者達のようだ。


「けど、対ワイバーン用の装備でもないし、移動型のバリスタや魔道術砲(アーツカノン)も無い。討伐隊じゃないのか?」

「うん。たまたま鉢合わせただけ、なのかな。うっ······」


 すぐ近くの上半身と下半身が別れた死体からフランが目を逸らす。


「無理しないで向こうに行ってていいぞフラン」

「ううん。お仕事だもん。ちゃんと痕跡の調査しないと。それに、追跡魔法(チェイス)使わないといけないし」

「そうか。なら、頼むぞフラン」


 フランが死体の間を歩きながら杖を回す。


「風よ、光よ、意志の旅人よ。時を教え、我らに真実を導きたまえ」


 詠唱を繰り返しながら歩き回る。

 すると、薄い靄のような物が現れ、空へと伸びていった。


「空か。となると、遠くへ──」


 ──オオォ······──


「っ!! フラン!」

「!!」


 フランと距離を取って散会する。

 それと同時に、空から凄まじいプレッシャーが迫り


『ギャオオオオオオオオッ』


 鳩尾の内側までビリビリと震わせるような咆哮が草原を駆けていった。


お疲れ様です。次話に続きます。

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