48
本日5本投稿予定です。
投稿後、一週間ほど間を空けます。よろしくお願いいたします。
「ハックション!」
「わっ、トレイル風邪?」
「ずっ、いや。多分誰か噂でもしてんだろ」
多分悪い噂を。
「まあ、俺の店の噂でもしててくれりゃあいいんだけどなあ」
これから投資に金がかかるからな。依頼がバンバン来てくれるようになれば心配もなくなるんだが。
ワイバーンが近くをうろついてるため、念のために俺とフランは拠点に居る事にした。
もし、ワイバーンがこの町にやってきて、ここが襲われたらヤバいからだ。
今はみんなで庭に固まっている。
「ナズさ~、オラ怖えだあ~。ワイバーンなんかに狙われたら助からないずら~」
「だ、大丈夫だよ。多分ここまでは······」
と言いながらも、ナズも不安そうな顔を空に向け、怯えた目を震わせている。
「ワイバーン······私、本物見た事ないんだよね」
「オラは死体なら見た事あるずら。一度討伐隊が倒してきたのを解体したことあるだ」
「そうなの? やっぱり、大きいの?」
「大きいなんてもんじゃねえだ。家よりでけえずら」
「あ、あわわ······」
まあ、個体差もあるが、確かに全モンスターの中でも最大級の部類に入る。
「ねえ、トレイル」
「ん?」
「トレイルはさ、どう思う?」
「どうって、何がだ?」
「えっと、つまりね」
フランが躊躇するように声を落とす。
「これって私達にとってはチャンスでもあったり、なかったり」
「おお。俺の幼馴染みは何時からそんなに目ざとくなったんだ」
「もう、茶化さないでっ」
フランの言いたい事は分かる。
「もちろん、討伐は魅力的だ。けどな、誰も依頼してないんじゃタダ働きだ。流石にワイバーン相手に無給で挑む気はないな」
「そっかー。だよねえ」
まあ、素材回収だけでも相当な儲けにはなるだろうが。
なんたってワイバーンは角も売れるし、牙も売れるし、鱗だって売れるし、臓器に骨、それに翼膜も売れる。
売れないのは目玉とか脳ミソとか、肉くらいだ。
一頭倒して手に入る素材だけでもかなりの金だ。
だが、討伐依頼が無ければ討伐料は無いし、最悪なのは倒した後に軍に死体を回収されるかもしれない事だ。
ワイバーンは最優先で研究されているモンスターだ。軍が素材などを強制的に横取りしていく可能性もある。
そして、何より。ワイバーンは流石に手強い。
こちらも戦うとなれば命懸けだ。
「軍が俺らに依頼してくれればいいんだけどなあ」
「そうだねえ」
「なあなあ、店長はワイバーンに勝てるんだかや?」
俺とフランの会話に、ターナとナズが興味津々といったように入ってきた。
「トレイルさんとフランさんは戦闘経験が?」
「あー、あるぞ」
「私も。二回だけ」
「そ、それで」
ナズがゴクッと唾を飲んだ。
「倒したんですか?」
「ああ、倒したぞ」
「ほ、ほんとずら?!」
「す、凄いです!」
驚愕する二人。
確かに、一般人からすれば凄い事かもしれん。実際、対モンスター戦闘のプロであるハンターですらワイバーン討伐は誰でも出来る事じゃないからな。
だが······。
「それなら、いざとなれば安心ずらね!」
「いや、そうとも言えない」
「えっ?」
「ワイバーンは簡単な相手じゃない。それに、俺だって倒した事があるのは四回だけだ。おまけに内三回は師匠立ち会いの下、しかも多少の援護付きだ。もう一回は軍に居た頃。こん時は大人数で、おまけに対ワイバーン用兵器もあった」
「······じゃ、じゃあ、今の装備でだったら?」
「わからん」
「······」
なんて事を話していると、庭先にゴトゴトと馬車の音が響いてきた。
「ん? なんだ? 客か?」
「違うんじゃない?」
俺らが顔を見合わせていると、扉が開いて、中からスマートな紳士が現れた。
「あ、あの人って確かこの間来た·····」
現れたのはマルセだ。ラインフォース家の家令だか執事だかをやってる。
この間、俺らで保護した魔人の少女を引き取りにきた紳士。
「すみません、失礼いたします」
律儀に一礼してから、敷地内に入ってくるマルセ。
何の用かと、俺らも立って迎える。
「マルセさん。どうかしたのか?」
「トレイル様。お忙しいところ申し訳ありません。お仕事の件でお話に参りました。今はご都合いかがでしょう?」
「仕事?」
もしかして、この間もらった金をやっぱ返せとかじゃないだろうな。
「時間がありませんので単刀直入に申し上げます。ワイバーンを討伐して頂けないでしょうか?」
「なに?」
ワイバーン討伐。
「つまり、スレイヤー屋としての俺に正式にワイバーンを倒してくれって話か?」
「その通りでございます。以前お伺いした時、トレイル様は新しい商いを始めたと仰られました。その事を我が当主代行に伝えたところ、ぜひ依頼したいという話になりました」
「そうか」
マジかよ。まさか本当に客として来たとは。
「だが、わざわざ俺に金払って依頼しなくても、ラインフォース家ならすぐに私有兵を出せるんじゃないのか?」
「実はここ最近、領地のいたる所でモンスターによる被害が増えており、既に私有兵団を方々に配置してしまっている状態なのです。それに、ご存知のように正規軍は軍縮や人事の入れ替えにより指揮系統が正常に機能しておりません。つまり、事態に最も迅速に対処出来るのは、一個人でありながら騎士団クラスの戦力を有した貴方だけなのです」
「それは少し買いかぶり過ぎだが······」
だが、これは滅多にないボーナスチャンスだろう。
「分かった。だが、引き受けるかどうかは報酬次第だ。それと、ワイバーンを撃破した際に死体の扱いをどうするかハッキリしておきたい」
「心得ております。前もってこちらでそれらの依頼内容を纏めて参りました」
マルセが懐から高級な革で仕立てられたメモ帳を取り出して読み上げる。
「討伐達成報酬金は30,000ゴールド。素材は内臓器官以外の全てをそのまま回収しても問題ないという内容です」
「マジ?」
30,000ゴールドとか大金、人生で持った事がない。若い職人の年収に匹敵するくらいだぞ。
しかも、内臓器官は無いとは言え、爪や牙、翼膜に鱗だけでも素材回収して売れば、それでも数千ゴールドか一万近くになるだろう。
「本当にそんなに報酬が貰えるのか?」
「ワイバーン相手ならこれでも安いのではないかと、心配しております」
「いや、そんな事はない。もちろん引き受けさせてもらう」
「ト、トレイル。目がお金になってるよ?」
こいつは大仕事だ。
お疲れ様です。次話に続きます。




