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良い村であった。長閑で、広大な農地を有した場所だ。畜産も盛んなのか家畜小屋も多く見られるし、村のシンボルらしき風車が誇らしげに回っている。
だが、すれ違う村人らの表情は暗かった。
村を見渡せる丘の上に立派な家があり、そこが村長宅であった。
案内してくれた男がその玄関ドアをノックする。
「村長、耳寄りな話を持ったお客がお見えになっています」
『······分かった』
「さ、入ってくれ。後は村長に任せる」
中へ入ると、そこは広い居間になっており、村長であろう老人が椅子に深く座っていた。モンスターにやられたのか、顔の辺りに鞭で打たれたような傷が残っていた。
「すまない、少し傷が響いていてな。このままで失礼する。ワシがこの村の責任者のワイルだ」
「俺はトレイル。こっちは相棒のフラン」
「サフラーヌです。初めまして」
「二人ともお若いの。さ、そこの席について」
対面の席に座るとワイル村長が手元のビンとカップを引き寄せた。
「今は女房が出払っていてお茶を淹れるのも出来ない。これはウチの村で採れたベリーを使って作ったジュースだ。代わりに飲んでくれ」
濃い紅色の液体が入ったカップを二つ勧めてくる。遠慮なく貰うと、少し野性味ある甘酸っぱさが口に広がった。ハーブの香りが鼻を抜ける。
「わあ、美味しい! すごく爽やかっ」
「ああ、美味いな」
「気に入って貰って良かったよ」
それまで元気の無かった老人の顔が初めて明るくなった。
「これは村自慢の品でな。ルゴダの町や他の町にも出しているんだ」
「そうなんですね。うん、これは売れますよっ」
「はっはっはっ。ありがとう、お嬢ちゃん」
少し雰囲気が和やかになったところで村長の顔が真面目に戻った。
「さて。本日はどのようなご用件かな? さっき耳寄りな話と聞いたが······」
「ああ、本題に移らせてもらうよ」
俺は、モンスタースレイヤー屋の事と噂を聞いてやって来たという話を伝えた。
「そんな職業があったとは。世の中は広いな」
「まあ、出来立てホヤホヤの商売だからな。で、どうだろう? 依頼はあるか?」
「······いや。止めとこう」
予想外な返答に俺もちょっと驚いた。
「なんでだ? 困ってるみたいだから悪くない話だとは思うんだが。やっぱり報酬金が気になるか?」
「いや、代金はよほどの額でなければ払える。村の生命が懸かっているんだ。出し惜しみはしない。だが······君らのような若い人間に危険な事を頼むのは······この間雇ったハンターも大怪我を負って帰っていった。二人だけでは無理だろう」
どうやら俺らの身を案じてくれているらしい。
「そうか。それなら多分心配無用だとは思うが······なら、村を襲ってるモンスターが何なのか教えてくれ。それを聞いてから無理かどうかこっちも判断する」
「分かった」
村長は事の経緯と、判明しているモンスターについて話し始めた。
まず、モンスターは一体ではなく複数。何十体と居るらしい。しかも一種類ではなく数種類。
「初めは森の中に入ってた者が襲われた。スライムくらいだったから大した事はなかったのだが······」
その後、サイス・マンティスやメルトスラグ、キラーリーチなどの虫型を中心にしたモンスターが近隣に頻出するようになり、被害は日に日に増大していった。
「村を守るために働き盛りの男はみんな戦士になってしまったから農作業がここ一ヶ月ロクに出来てなくてな。皆の負担も大きくなるばかりだ」
「なるほど」
同じ時期に現れるようになったモンスター達。いづれも下級に分類されるのがほとんどだが、非戦闘員には脅威だ。
「徒党を組んでる感じはあるか? 例えば同時に現れるとか、連携しているかとか」
「いや、その気配は無い。むしろたまに争い合ってる時もあるが。どうやら縄張り争いをしているみたいだが」
「なるほどな」
ピンと来るものがあった。
「村長さん。この件、とにかく依頼してみないか?」
「なに?」
「確かな事は言えないんだが、もしかしたら一掃出来るかもしれない。大量発生の原因に思い当たる節がある」
「な?! 本当か?」
腰を浮かしかけて、痛みに呻いて座り直す村長。
「げ、原因が分かったとは本当か?」
「いや。まだ確定じゃない。どうだろう? もし依頼してくれるなら調査と討伐の両方を請け負うぜ」
「そうかっ、ぜひ頼む! いくらだ?」
「モンスターの討伐数にもよるが、ひとまず周囲の奴らを一掃する。一体につき30ゴールドくらいでどうだ? ただし、中級、上級モンスターを討伐した場合は数百ゴールドから数千ゴールド上乗せだが、それでもいいか?」
「構わないともっ、村が救われるなら1万ゴールドだって払う!」
「そこまでは取らんと思う。とにかく行ってくる」
手を合わせ続ける村長を後に、俺はフランと共に外へと出た。
「トレイル、ピンと来たって言ってたけど」
「昔、俺らの村でも似たような事があったの覚えてないか? ほら、やたらと小型モンスターが村に流れ込んで来た時の事」
「あっ、あったね。そっか、あの時は確か······」
と、話し込んでいる時だ。
──ザッ──
目の前に立ちはだかる人影が現れた。
お疲れ様です。次話に続きます。




