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 家に帰り、早速ナズ達に薬屋での事を話す。


「と言う訳で125ゴールドになった」


 ──カチッ──


 金貨と銀貨を打ち合わせてみせると、フランもナズも驚きと喜びを混ぜたように表情を変えた。


「へえー! ナズちゃんは普通よりも道具や設備も無い中作ったのに高級ポーションに劣らないだなんて凄いね!」

「はい、私もびっくりです。まさか、自分の作った物が売れるなんて」

「つくづくお前をクビにした軍は馬鹿揃いだな。まあ、そんな事よりだ。ほれ、ナズ手出せ」

「?」


 ナズが差し出した小さな両手に金を乗せる。

 すると、驚きの声を上げた。


「えっ!? トレイルさん、これって······」

「ん? 金だよ。ちゃんと貰った全額だぞ」

「いえ、それは分かりますが、そうではなくて、あの、これを······私に?」

「ん?」


 おいおい、何なんだその反応は。


「おい、ナズよ。いくら俺が金にだらしない男だからって他人様の金をふんだくる程落ちぶれちゃいないぜ?」

「いえっ、そういうつもりではなくっ······わ、私が受け取って良いんですか?」

「良いも何も、お前が稼いだ金じゃんか」


 そう言うと、ナズはオロオロとしだした。


「で、でも。元はと言えば、あのポーションの原料はトレイルさんが持ってきた物ですし、売ってきたのもトレイルさんですし······」

「薬草はついでに持ってきたモンだから気にすんな。売買の事も、あの薬屋がこれからの客になるかもしれないと思ったから取引関係を深めたかっただけさ。俺だって得してるんだ」

「で、でも全額なんて······」

「お前が自分の力で作った薬が売れたんだ。だからその金はお前がちゃーんと受け取れ」


 恐縮しているその肩をポンポンと叩いてやる。


「お互い先行き見えないんだ。持ってて損はないぞ?」

「······」


 ナズは何か考えるように掌の上の金を見ていたが、やがてぎゅっと握りしめた。


「ありがとうございます。トレイルさん。こんな私に······」

「はは、本当大げさだなあ、お前は」


 うるうるとしているナズの頭をフランが撫でる。


「やったねナズちゃん。これなら好きな物買えるよ」

「い、いえ! 貯金します! あっ、その前にフランさんの家に支払わないと!」

「も~、大丈夫だよー。叔母さんだってしばらくは平気だって言ってたし、お金ならトレイルが最初に払ってくれたから」

「で、でも······」

「いいんだよ」


 フランがナズの手を取って笑いかける。


「トレイルも言ってたでしょ? これはナズちゃんが稼いだお金なんだから、自分の為に使わなきゃ」

「フランさん······」


 いよいよ涙ぐむ。この子は涙脆いな。


「ま、どうしても受けとれないって言うんなら、俺が倍にしてきてやるぜ?」

「え?」

「くくく、ナズよ。俺はモンスター討伐以外にも取り柄があってな。ずばりギャンブルの天才よ!」

「ええ?! そ、それは流石に······」


 困ったように金を引っ込めた。


「もう、トレイルもお馬鹿な事言ってないで掃除手伝ってよ。もう少しで二階が片付くんだから」

「おお、そうか。なら今日はやっとベッドで寝られるな」

「はい、お布団も干したので今晩使えると思います」

「今晩、使える······ほう······」

「もうっ、まーたエッチな方向に妄想してるでしょ?」

「ご明答だフラン。今晩にもベッドが使えると女に言われたらそりゃもうお誘いの言葉──いててっ! 冗談だっ、冗談!」

「あははは······」



 軽口叩きながら三人で二階も綺麗にしていく。家具はほとんど無いため、殺風景でガランとした部屋ばかりだが、十分に生活出来そうだ。




 気が付けば夕方になっており、今日は初仕事成功を祝ってやや奮発し、美味そうな食材を多めに買ってきた。


 外──もはや庭とも言うべきスペースで焚き火しながらフランが腕を奮う。


「うん、良い味付け。トレイル、ナズちゃん、出来たよっ」

「おお、うまそーっ」

「わあ、これはミルクスープですか?」

「うんっ。新鮮なミルクが入荷されてたから買っちゃった。それに、お金はかかんなかったしね」

「おい、人様の金で生きてて恥ずかしいと思わんのかフラン」

「どの口が言うのっ! どの口が!」

「この口さ。そして、この口は──ズルズル──」

「あっ、もう! トレイルってば直接飲んでる! はしたないよ。ちゃんと盛ってあげるからお皿貸して」



 三人で火を囲んで温かい食事にありつく。金がまあまあ入ったからか、今日は一段と美味く感じる。


「うめえ」

「美味しいですっ」

「沢山あるからね。どんどん食べてね」


 フランの料理はやっぱり美味かった。


 しかし、どういう事かナズは浮かない顔をしていた。


「どうした? ナズ。嫌いな野菜でも入ってたか?」

「いえ、そう言う訳では······」


 なんとなく歯切れが悪い。


「? 言いたい事あるんなら言ってみな。フランの料理が口に合わねー、とか」

「いえっ! そんな事は決してないです! ただ······いつまでもフランさんの家に迷惑かけられないなって······」

「私は迷惑なんかじゃないけど······」

「でも、マリーさんも言ってましたよね。経済的に余裕がある訳じゃないって。だから、私も早く出てった方が良いなって思ってて······」


 そう言ってから、ナズが上目遣いで俺を見てきた。


「あ、あの。トレイルさん。その············大変厚かましいお願いなんですけど······もし、良かったら······」

「ああ、みなまで言わなくていいぞ。ここに住めよ」

「!!」


 真っ赤な瞳がまん丸になった。


「い、良いんですか?!」

「良いも何も、初めからその予定だったからな。言ったろ? 行き先探しといてやるって。それに、マリーさんがここを俺に貸してくれたのは元々そういうつもりでだ。お前さえ良ければ、次の新天地が見つかるまでここに住めよ」

「·········」


 ナズはしばらく何も言えずに、俺の事を穴が空く程見ていたが、その目からポロポロと涙がこぼれ始めた。


「あ、ありがとうございます。本当に······このご恩は一生忘れません······」

「はは、ほんと大げさだなあ。それに、タダって訳じゃないぞ。俺がたまに薬草類を採ってくるからポーション作ってくれ。それを売って金にするから何割か配当をくれ」

「! それはもちろん! ぜひやらせて下さい!」

「後は、俺の夜の添い寝パートナーとしても活躍してもらう──ごふっ!?」

「このスケベトレイル!」

「あ、あはは。それはちょっと······考えておきますね」


 最後の方は小さな声になり、ナズは俯いた。



 こうして、ナズの行き先もひとまず確保出来、俺らの死活問題は何とか先送り出来たのだった。



お疲れ様です。次話に続きます。

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