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「ん~~~~っ······ふぅっ。よし」


 ベッドから降りる。少しビビリながら体を動かしてみたが、痛みは無い。


「······」


 肩の傷や脇腹なども見てみるが、新しい肉が盛り上がって傷口が完全に塞がってる。薄い皮膚がもう生まれてるが、張った感じはするからあまり激しく動かさない方が良さそうだ。しばらくは現場に出られんだろう。

 第一、俺の剣はフェンリルとの戦いの最中、俺の放った技の反動に耐えきれなくて折れちまった。


 ターナに打ち直しを依頼しているが、まあ復帰するまでは無くてもいいだろう。



「よしよし」


 部屋から出る。廊下にはちょうど起きたばかりの冒険者が二人居た。


「おっ、ようマスター。怪我の具合は?」

「ああ、お陰でな」

「大変だったなマスター。けど、フェンリルを一人でやっちまうなんてな。後でビール奢るから武勇伝を聞かせてくれよ」

「お、サンキュー。けど、大した話じゃないぞ?」


 下の酒場へ降りると、朝飯を食っていた他の冒険者らも同じように声を掛けてきてくれた。


「マスター、今日で退院か?」

「そのつもりだ。まだクエストには行かないけどな」

「そうしてくれよ。あんたが居たら大物クエストは全部持ってかれちまう」

「いや~、当分は勘弁だぜ」

「謙遜しちゃって。マスター凄いじゃない。あたしらも負けてらんないね」


 ここを冒険者ギルドにしてからというものの、近隣の冒険者がよく集まってくるようになった。


 冒険者は一つの場所に値を下ろす事はないが、拠点が確保出来てる場合は数週間から数ヶ月の間居座って活動する。

 つまり、ここに居るほとんどの冒険者はすっかり顔馴染みになってしまったという訳だ。




「トレイル様、御全快をお祝いしてスペシャルスイートケーキを焼きました。どうぞお召し上がり下さい」

「おお、マジか。ありがとなリサ」


 ワイワイ賑わう酒場のカウンターにて、甘ったるい色合いの乙女ふんわりなケーキを頬張る。


「うめ~」

「ポッ。そんな惚れただなんて······」

「言ってない、けど、確かに惚れるくらいえめえ」

「なーに、朝から口説いてんの」


 横の席にヒョイっとシヴィが座り、手にしていたフォークで横取りしてくる。


「おい、行儀悪いぞ」

「あんただってあたしのチキンフライによくやるでしょうが。ん~、甘ーい」

「くそ、飄々と人様の物を盗むとは。その魅惑的な容姿といい、まさに泥棒猫だな」

「や~ん、そんなケダモノの目で見ちゃいや」

「フシャーでございます。トレイル様は私のケーキを食べながら、他の女性との甘いお時間も楽しんでいます。キシャーのフーフーッでございます」

「朝から賑やかねえ」


 キッチンから出てきたマリーさんが、近くの席に料理を置いてから戻って言った。


「どう? 怪我の具合は」

「もう大丈夫っす。現場復帰はもう少し見送りますけど、ここで出来る仕事はやってこうかなと」

「そう。でも、無理は駄目よ“ギルドマスター”さん?」

「その呼び方はまだ照れるっすねえ」

「ふふ。私も最初は女将って呼ばれるの恥ずかしかったわ」



 ギルドマスター。それが俺に与えられた称号だ。


 療養期間中、皆はお見舞いと言って部屋に来ては現状報告や相談、連絡などを行っていた。


 その過程でこんな話題が上がった。



『せっかくだし、トレイルの正式な名前決めない?』

『正式な名前?』

『店長とか、代表とか、責任者みたいなのじゃなくてさ。トレイルだけの、冒険者ギルドならではの呼び名みたいなの』

『おお、それは大事だな。うーん、そうだなあ』

『“イケメンお茶目ナイトリーダー”と言うのはいかがでしょうか?』

『ちょいと肩書きが長過ぎるな』

『それでは“貴婦人の引き立て役ナイト”なんていかがかしら?』

『だから長えって······』

『うーん、そうだなあ。あっ、オーナーは?』

『それでも良いっちゃ良いが、オーナーはどれかって言うとマリーさんだしな』

『あのっ。私、ちょっと自信あるアイディアが······』

『お、珍しく強気だなナズ。どうぞ』

『この前、冒険者の方が酔って、こう言ったんです。「あのマスターはどこだ?」って』

『マスター?』

『酒場の責任者だからそう言ったみたいです。ですから······ギルドマスター、なんてどうでしょうか?』



 もはや議論の余地が無いくらいにカッコ良かったんで、その案は即採用された。俺は『ギルドマスター・トレイル』となったのだ。我ながらカッケエ響きだ。



「トレイル様。皆様は本日のクエストを全て午前中に終わらせるそうです。そして、午後は予定通り()()()()()()しようと目論んでおります」

「おう、そうだったな。それまでお前さんやマリーさんの手伝いをさせて貰おうか」



 今日は俺の回復と合わせて、皆で“記念品”を完成させる予定なのだ。




 午前中は厨房の仕事を手伝ったりしたが、「休んでなさい」と言われて多くはやらず、部屋や庭でのんびりと過ごして時間を潰した。


 やがて、他のメンバーがそれぞれの仕事などから続々と帰ってきて、昼飯を摂って午後に備えた。



 そして、午後。


 ギルドメンバー全員が揃ったところで、いよいよ俺が仕上げをする時がきた。それがすなわち俺の回復祝いでもある。


 庭に出て、テーブルを一台持ってきて設置し、それに向かって筆を取る。


「うーん。俺のマークは何が良いだろうな?」

「え? 剣でしょ、普通に」

「剣ねえ。物騒だからトランプとかにするか、俺を表すのにこれ以上ないアイテムだぜ」


 テーブルの上に置かれた楕円形の板。ただの板じゃない。これは看板。


 そう、俺達の冒険者ギルドの看板だ。



『ねえ、トレイル』

『うん?』

『お店の看板作ってみたんだ、どう?』

『おー。良い感じじゃんか』

『ルッカちゃんとフルト君がデザインしたんだよ』

『ど、どうかな?』

『僕らなりに考えてデザインしたんだ』



 看板にはギルドのマークが大きく描かれている。

 一本の剣が柄を上にして縦に真っ直ぐ貫き、その前で二つの手が握手を交わしている。


「僕らは色んな種族の人間が集まって出来た組織だ。そして、僕らの一番の強みを考えた時、それは単なる専門的な能力ではなく、信頼。違う言葉で表せば絆であると思った。それは、地域であったり、まだ見知らぬ人とであったり、冒険者であったり。もっと多く、もっと広く人と地域と繋がっていき、戦うという意味を込めてこのマークにしたんだ」

「そこまで考えてたのか。てっきりフレンドリーさを表してるのかと」

「一言で説明するならそんなとこさ」


 ニヤリと笑うフルト。


「そして、ここからが僕らの遊び心さ」


 マークの周りには、一見すると落書きのような絵が描かれている。

 杖や弓、ポーションのビンや本、オタマにカチューシャ。


 そう、ここに居るメンバーが自分で選んだトレードマークを印してあるのだ。


「もう他の皆は描いてあるよ! あとはトレイルだけだよっ」

「ふふふ、何を描きますの?」

「剣にしようかとも思ったんだけどなー。マークが剣だし、ヴィオラも愛用のドラゴンスレイヤーだもんなあ。うーん······」


 何か良い物は無いだろうか。やはりカードとか?


「ん?」


 なんて風に辺りを見回していたら、ふとした物が目に止まった。


「あ」


 座った姿勢のまま、手を伸ばしてそれを取る。


「どしたのトレイル?」

「いや、これを見つけてな」

「あ、クローバーじゃん。しかも四ツ葉っ」

「へえ、ラッキーじゃん」


 四ツ葉のクローバーか。

 ギャンブルする前に験担(げんかつ)ぎにと探してもなかなか見つからないのに、何故か今あっさりと発見してしまった。


「······そうだ。これにしよう」

「え? クローバーにすんの?」


 フランが意外そうに言う。


「いいの? ずっと残るマークだよ?」

「おう。なんか良いじゃん。幸運の象徴なんてよ」



 最初一人っきりの時はマジで途方に暮れた。

 そこへ偶然が重なって、色んな仲間達が加わって今の俺があるんだ。


 これを幸運と言わずしてなんと呼ぼうか。


「よし、決めたぞ。俺のマークは四ツ葉だ。縁起が良いし、何より描くのが楽そうだ」

「あたっ。もーう、いいの? そんな理由で~」

「でもトレイルさんらしいです」

「マスター、頑張るずら~」


 贅沢に緑の顔料をふんだんに使う。


「おお、良い色だ。高かったろ?」

「それなりに、ね。まあ、レースで失った額よりは大した事ないさ」

「トレイル君が何でも描けるようにって、色んな色をヴィオラさんが手配してくれたの」

「おーっほっほっほ! 泣いて感謝する事を許可いたしますわ~!」


 四つのハートのような葉っぱ。それをゆっくり仕上げる。


「あっははは。やっぱり、思った通りトレイルって絵が下手くそだねー」

「おい、お前の弓矢に愛のハート描いちゃうぞ」

「駄目でございます。描くならこちらのカチューシャでないとイヤイヤなのです」

「まったく。子供みたいね」


 皆に見守られながらのお絵かきなので少し恥ずかしいが、俺にしてはそこそこ上手いクローバーが描けた。


「出来たっ!」

「お~っ。でも、緑色がかわいくて結構いいかも!」

「だろ~? 早速掛けてみようぜ」


 元々酒場の看板が掛かっていた場所。リフォームの時に古い看板は壊れかけていたので、すでに外してしまった。


 今ここに皆の個性を込めた新しい看板が堂々とその座を継承したのだった。


「おーっ、良い感じだな~」

「今ずらっ、フルトさん、ルッカさん」


 感心して見上げていると、ターナ、フルト、ルッカの三人が何やら長細い箱を持ってきた。


「お、何だ? 回帰祝いのプレゼントか?」

「そうずら!」

「トレイル君、開けてみて」


 促されるままに蓋を開けてみると、そこには一振の剣があった。


「お?! もしかして、俺の剣か?」

「んだ!」

「僕らも少し手伝ってね。手に取ってみてくれ」


 鞘も新品だ。思わず浮き立つ気分で手に取ると、馴染みのある重さが伝わった。


「重さはあえてあまり変えなかったずら」

「けど、性能は段違いだと思うよ」


 ──キンッ······──


 鞘から抜き出た刀身は、日の光を受けて焼き付くように光った。


「おお、すげー。めっちゃ綺麗だ。しかも、この感じ······」


 手に馴染むと言うか······。俺の体から剣へ、剣から俺の体へ。そんな風に力が流れて循環するような感覚。


「気づいたかい?」


 フルトが笑う。


「君用にカスタマイズしたんだ。ターナ君が頑張ってくれてね」


 ターナが目をキラキラ輝かせる。


「ワイバーンの角と、フェンリルの筋繊を織り込んで打っただよ! 魔力のデンドーリツ?ってのが凄いらしいずら!」

「つまりね、それは剣だけど魔法の杖と同等の性能を供えてるの」

「マジ? てことは······」


 俺の属性付与がさらに強化されるって事か。


「すげえ! ありがとなターナ。フルト、ルッカ」


 三人が照れるように笑う。


「ねえねえ、トレイル!」


 フランがピョンっと横に立った。


「ちょっと掲げてみてよ!」

「おう、そうだな。よーし」


 今日は良い天気だ。良い天気過ぎて暑いよな。


「いくぞ、アクアソード!」


 あまり得意ではない水属性を付与して剣を空に向かって振った。


 すると、どうだろう。


 ──ズオオオッ──


「お、おおっ?!」


 まるで海岸に打ち付ける波のような激しい水の塊が宙へと舞い上がり、それは高く弾けて辺りに雨のように細かくなって降った。


「おお~、すごーい!!」

「まあ、雨ですわ。涼やかなこと」

「はい。夏にはピッタリな技でございます。さすがはトレイル様」

「いいねー。あ、小さな虹が出来てるねえ」

「ふふ。芝生が喜んでるわ」


 想像以上の効果に、自分の心が浮き立つのが分かった。


 太陽の光を刃に真っ直ぐ受けて輝く俺の新しい剣。


 その眩い銀色の反射の中に何かあるので目を細めてみると、そこにはちゃんと嬉しい文字が入っていた。


『トレイル・ラックス』


「よーし! 早速クエスト行くかあ!」

「駄目! ちゃんと療養するの!」


 フランの叱責に、その場でどっと笑いが生まれた。


 剣も笑うように細かく光って瞬いていた。













 ──────────────────




 それから、トレイル達の冒険者ギルドはさらに活躍し続け、その名声はどんどん広まっていった。


 モンスターに脅かされる地域には次々にギルドの支部が出来ていき、その勢力は当人達が考えているよりもずっと早く拡大していった。


 月日は流れ、大陸中にその名が知れ渡り、いつしか冒険者ギルドという存在は人々と密接で親しまれる物へと変わっていった。


『種族は問わない。身分も問わない。性別も問わない。年齢は14以上からなら誰でも』


 初代ギルドマスターであるトレイル・ラックスの定めた冒険者ギルドの組織訓は後世にまで残り、今日もまた若人がその門戸を叩く。


 過酷で、危険で、決して楽ではない。

 しかし、自由で、広大で果てしない世界へと飛び出す冒険の世界。


 多くの人が夢を見て、あるいは生きるために冒険者へと身を投じた。



 あるいは、人間とは生まれた瞬間に夢を追い、あるいは生を追いかける冒険者なのかもしれない。





 やがて数百年経ったある日······。



 ──ミッスル地方、ウイードスギルド──



「はい、冒険者の登録ですね。それでは簡単な質問をしていきます。水晶に手を乗せたまま正直にお答え下さい」


 冒険者ギルドの受付にて、白いダボダボのローブに身を包んだ少女がなにやら手続きをしていた。


 受付嬢の指示に従い、その小柄な少女は水晶に手を置いた。嘘発見器のような軽いテスト道具である。


 質問を全て終えると、受付嬢は頷いて用紙をその少女に渡した。


「こちらにお名前を書いて下さい」

「分かりました」


 眠たげな表情の少女。眠い訳ではなく生まれつきだ。言われた通り名前を書く。


 用紙を受け取った受付嬢がその名前を確認する。


「それではメンバーカードを作成します。少々お待ちください」

「はい」



 数分後、白ローブを揺らしながら少女が冒険者ギルドから出てきた。


「冒険者かあ······」


 その少女は自分のギルドメンバーカードを見つめて呟くように言った。

 カードには『チェニア・ラックス』と自分の名前が刻印されている。


「······まあ、のんびりやってこうかなあ。今日明日の生活に困ってる訳じゃないし」


 気の抜けるような呑気な声で一人呟き、チェニアなる少女は通りの雑踏へと消えていった。










 ────おわり────




お疲れ様でした。これで終わりとなります。

ここまでのご愛読、本当にありがとうございます。スローライフ的な物を目指して書いたのですが、いかがだったでしょうか。


たくさんのブックマークや、応援のいいねなどありがとうございます。毎日とても励みにしております。少しでもその期待に応えられたなら幸いです。


よろしければ最後にこの作品の評価を付けていただけると、今後の活動の励みになりますので、ぜひぜひ宜しくお願いいたします。



もう少し続けようかと考えていたのですが、この先の展開を上手く纏めていく自信が無く、キリが良い所で終わりにしようと思いました。


もし、他に作品を書けなくなったりしたら続きを出すかもしれませんが、基本的にはここで終わりとなります。


最後に。

宣伝なのですが、この最後に出てきた少女の物語も既に書いてありますので、もし興味を持っていただけたら是非ご一読の方よろしくお願いします。(タイトルは『追放チキチキSランクパーティー~』という始まりになっております)



それでは、長くなってしまいましたが、ここで後書きを終わらせて頂きます。


もう一度、ここまで読んでくださりありがとうございました。

またどこかでお会い出来れば幸いです。

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