sideマナ「全てを受け入れるよ」
最近、兄さんに真奈と言う名前で呼ばれてない気がする。
そんなくだらない事を考えながら自分の部屋へと向かっている。
兄さんの事は嫌いではない。どちらかと言うと好きな方かもしれない。
別にブラコンって訳ではないけど、学校の友達は分かってくれない。
男子に告白された時に「兄さんのような人がタイプだから」とか言ったのがまずかったと思っている。
反省しているけど後悔はしていない。だって本心だし?
「開いているよ⋯⋯」
兄さんの部屋のドアが少し開いており、一筋の光が暗闇の廊下を照らしていた。
階段の電気をつけずに登るクセがあるので、とても目立つ。
なぜそのようなクセがあるかと言うと、暗がりでも普通に行動できるための訓練として兄さんがやっており、真似していたら染み付いたのである。
おかげで多少の暗がりなら普通に見えるし、目がすぐに暗さに馴れる。
「覗いて良いよね?」
不用心な兄さんが悪いのでこっそりと覗こうと思います。
どれどれ。
「なっ!」
驚きのあまり、壁際まで飛び退いてしまった。
待つんだ。兄さんが、あんなモノを検索する訳が無いだろう。
これはただの早とちりだ。落ち着け。
良く、じっくりと観察すれば自分の間違いに気づけるはずだ。
「スーハー」
深呼吸して高鳴る心臓を落ち着かせて、こっそり見る。
兄さんは珍しくパソコンを食らいつくように見ており、真剣な顔でブツブツ何かを言いながらメモしている。
パソコンの画面を見て、内容を確認する。
視力が良い方だから普通に見れてしまう。
「嘘でしょ、お兄ちゃん」
憧れの兄の知られざる性癖を知ってしまった妹の心境を理解してくれる人はいるだろうか?
画面の向こう側に表示されていた内容を噛み殺し、本来の目的を達成する。
ベッドにダイブし、枕に顔を埋める。
「嘘だ嘘だ」
お兄ちゃん、あんな、あんな性癖があるはずないんだ。
小さい頃からずっと探索者を目指していて、ずっとトレーニングしていた兄なんだぞ?
遊びよりもトレーニング、ご飯よりもトレーニング、寝るよりもトレーニング。
何回も体調を崩して生活バランスを整えるようになった兄だぞ?
探索者になりたくて、周りの人が誰も相手しなくなった程に目指していた兄だぞ?
「お兄ちゃん⋯⋯」
憧れた兄は探索者を本気で目指し、それしか見えていない。
だと言うのに、あんな性癖が。
「できる妹(自称)なんだから、受け入れないとね。世の中、そう言う人だって沢山いる。これはお兄ちゃんが変なんじゃない。受け入れられない自分が変なんだ」
良しっ、寝よう!
あ、明日提出の課題があるからやらないと。
ぐぬぬ。
翌日の夕方、アリス姉に昨日見てしまった兄の知られざる性癖を暴露、もとい相談した。
最初は驚くと思ったアリス姉だったが、冷静に頬を人差し指でカリカリしている。
目を一、二度動かして考え事をしているっぽい。
「帰ってから、ちょっとキリヤに聞いてみるね」
「ん?」
知っているのなら話してくれても良いと思うのだが、この反応はいささか予想外である。
兄さんのアレを知っているのなら、素直に知っている事を話すか誤魔化すかと思った。
だけど、兄さんに聞いてみる⋯⋯一体なんだと言うのだろうか。
その疑問が身体の中を巡って離れてくれない。
今晩、帰って来た兄さんをアリス姉は引っ張って行き、声の聞こえない場所で話し合いを始めた。
とても聞きたいと思ったが、聞いてはダメな気がしたのでリビングで必死に待つ。
「まだかな。まだかな」
それから十分後、兄さん達がやって来た。
いまさらだが、最近の兄さんの服装は背中とお尻の方に穴が開いているモノが多い。
探索者として必要な服だろうから、きっと種族的関係だろう。
普段ならその上にもう一枚何かを羽織っているが、今は羽織ってない。
「俺はお前が誰にも話さないと信じてる。だから打ち明けようと思う」
「任せて!」
兄さんとの秘密を他人に漏らす愚かな妹ではないのだ。
「今から見た事でもしかしたら幻滅するかもしれない」
「兄さんがどんな姿形をしようとも、幻滅なんてしないさ」
兄さんの内面を全て受け止めてこそ、真にできる妹(自称)になれると言うもの。
「隠し通す事が難しいと判断して、それに知って仲間外れにされるのは嫌だと思って」
「そうやね」
ねぇ、何っ!
冷静を装っているけどめっちゃ気になるんですけどぉ?
お願いだから何か言ってよ!
あと、仲間外れは確かに悲しいし寂しい。
「やっぱり恥ずかしいよ!」
兄さんが赤面するところなんて初めて見た⋯⋯かわいい。写真撮りたいなぁ。
昨日は色々と考え込みすぎてスマホの充電を忘れたのか、電源が入らない。
過去の自分が無能すぎて泣ける。
「覚悟決めたんでしょ。大丈夫だよ。失望はされない⋯⋯はずだから」
「兄さんの事で失望する事は無いよ。その自信はある」
「で、でも」
歯切れの悪い兄さん。
昨日から引き続き兄さんの新たな一面が見れて、内心嬉しい。
⋯⋯あれ?
「兄さん。今気づいたんだけどさ⋯⋯それってサイズ合ってる?」
服がダボダボな気がしてつい質問してしまう。
それが決定打となったのか、兄さんの顔が真顔になる。
「誰にも言わないでくれ。これは信用した上で、昨日の事が知られてしまったから見せるんだ」
あ、つまりは昨日の事を見なければずっと仲間外れにされていたんだ。
ちょっと悲しいな。
⋯⋯これをネタに甘えようかな。
「行くぞ」
兄さんが手の甲にある種族の種類を表す紋章を浮かべて、種族へと変身する。
家の中だからか、かなり窮屈そうな大きなコウモリの翼に先端がハート型の長い尻尾。
美しく整った顔立ちに身体。
ああ、兄さん。兄さんの新たな姿。
「綺麗⋯⋯」
なにこれやばぁ。
女性であるにも関わらず見惚れてしまう程に綺麗。やばぁ。
真っ赤な瞳は見つめているだけで吸い込まれそうな艶めかしさがあるよ。やばぁ。
「ま、マナ?」
「⋯⋯はっ!」
ついつい我を忘れてしまった。
「昨日見ていた、女性用の防具は女装趣味及び心が乙女って訳では無い感じ?」
「ああ。身も心も男だ」
身体はともかく、心はそうなのだろう。
「ま、まぁ兄さんがそのような趣味があろうとも引いたりはしないけどね」
驚くけど。ビビるけど。否定はしない。して良いはずがない。
でもその時は一緒にオシャレしたり、色々なところに⋯⋯。
「お兄ちゃん」
「なに?」
「今度女性用の下着、一緒に見に行こうか」
「何真顔で言ってんの?!」
身が女なら何も問題ない。お揃いの下着が選べる。⋯⋯サイズがあるかが問題か。
デカイな⋯⋯どことは言わんが。
「それって兄さんの好みが含まれたりしてる?」
「してるよ」
「してないよ!」
アリス姉の言葉を瞬時に否定する兄さん。必死だ。
そうか。なら良かった。
別に小さい方では無いけど、アリス姉程大きくないし。
うん。問題ない問題ない。
「それで、その種族はなんなの?」
「あーマナはダンジョン関連あまり詳しくないもんな」
「うん」
小さい頃の兄さんを見ていると、無意識にダンジョン関連の情報から離れてたんだよね。
だからかなり疎い。
「ヴァンパイアだよ」
「いまさら嘘言うなよ。サキュバスだよ」
サキュバスか。⋯⋯どんな種族なんだろう?
自分の中のイメージを引っ張り出す。
「お兄ちゃんの恋愛対象ってまさか⋯⋯」
「それは誤解だ!」
こうして、兄さんの種族について知ったのである。
種族で性別って変わったりするんだなぁとか思いつつ。
「妹に隠そうとしたんだ」
「だって⋯⋯」
「だって?」
問い詰めると、観念したようにボソリと呟いた。
「兄らしくカッコよくありたいじゃん」
お兄ちゃん⋯⋯。
晩御飯も終わり、アリス姉とドラマを見てから部屋に戻る。
「むっ」
机の上に置いてあるハサミを取ってベッドの下を覗く⋯⋯当然何も無い訳だが。
「最近視線を感じる気がするけど⋯⋯部屋の中には誰もいないよね」
一応クローゼットの中も確認したが、何も無かったので寝よう。
◆
「さすがは主人の妹様。勘が鋭い。これでは護衛も難しいですね。遠目で見守るだけに留めますか」
お読みいただきありがとうございます
評価、ブックマークとても励みになります。ありがとうございます
幼馴染、友人、妹、先生一家に観られているという前提のサキュ兄になります
やったね☆