元の生活に戻るまで
帰りのバスに乗り込み、行きと同じ席に座る。
「⋯⋯キリヤが女の子に告白したのは、さすがにびっくりした」
「ん? そうだね」
皆の前で玉砕すれば俺達も笑いモノにされるだろうが、問題は無い。
ヤマモトは普段はアレだが、心をゲームに使われて良い人間ではないのだ。
ナナミにも少しだけ事情を話して協力してもらっていた。
「ヒソラさんに謝られたよ」
「そうなの?」
「うん」
驚きだ。
あの様子だったら謝るなんて想像もできない。
一体どんな心境の変化があったと言うのか。
「カマクラくんに叱られて、私に渋々って言った様子で謝って来た」
「ヒソラさんはカマクラの事が好きだったのかもな」
あくまでも適当な推察だけどね。
カマクラがどれほどナナミを気に入ったか知らないが、敗北を知った彼はもっと強くなるだろう。
これからさらに強くなったカマクラと再び剣を交えるのを楽しみにしていよう。
「ごめんナナミ。眠いから寝る」
やはり普段の寝る時間を削ると、問題が起こるな。
目を瞑り、意識を闇に落とす。
「キリヤはあの女の子の事⋯⋯寝ちゃったか」
ちなみにサトウなんだが、あの後真剣に告白してしっかりとフラれたらしい。
良い雰囲気だと思ったが、相手にはずっと初恋の相手がいるとなんとか。
結果だけ見れば、ヤマモトもサトウも女に惚れてフラれて、いつも通りに戻ったってところだろう。
恋愛繋がりで確認すると、部長と副部長にはあまり進展は見られなかったな。
時間が経過し、駅に到着するとナナミに起こされる。
「起きて」
「⋯⋯ッ!」
殺気を当てられて咄嗟に起きる。
怖い起こし方をされたが、目は完璧に冴えた。
家へと到着する。
「やっぱり我が家が一番落ち着くな」
ドアを開けると妹が寝ていた。ドアの前の廊下でだ。
「身体冷えるぞ」
「ふにゃ? 兄さんおかえり。アリス姉がご飯作ってるよ」
「そっか」
俺はリビングへと向かい、アリスが作ってくれた料理を食べながら合宿の話をした。
「鬼ごっことかくれんぼを訓練に使うって⋯⋯遊びを普通の観点で見れなくなりそう」
妹の言葉はごもっともだな。
遊びを訓練に活かす、まぁ単純で分かりやすい事ではあるけどね。
「キリヤ、もうすぐ中間テストだけど、勉強は大丈夫?」
普段なら寝る前に少しだけ勉強しているが⋯⋯どうだろうか?
ここの学校、テストって難しいらしいんだよね。
それとなく部長に聞いてみたら、赤点ギリギリらしいし⋯⋯副部長は満点近いらしい。
「化学が不安かな。教えて」
「任されよ」
毎日二時間近くの勉強をしている俺に対し、ノー勉でテストの点数はいつも負けてる。
と言うか、満点以外のテストをアリスから見せられた事が無い。
記憶能力がかなり高いんだよね。教えるのも上手い。
中間は近いけど、日頃やっている事でもあるし⋯⋯ダンジョンに行っても怒られないよね?
両親に相談したら、テスト週間は勉強に集中しろとの事だったので、アリスの部屋で勉強会となりました。
「ナナミも同じ状況か」
「うん。成績が低いと探索者を辞めさせられる」
我らは未成年、親の電話一つでギルドから登録が打ち消される。
そんなのは困る。
しっかりと首輪を繋がれた俺達はアリスを中心に本気でテストに挑む。
勉強に精を出しても筋トレは忘れない。頭を動かしながらも身体の一部も動かしておく。
「落ち着きのない二人だねぇ」
時はあっという間に過ぎ去り、テストの時間がやって来た。
応用とか難しかったが、アリスがテスト対策で用意してくれた問題の方が難しかった。
それでも分からないところやケアレスミスと言うのもあったりする。
集中力は切らさなかったが、結果は返って来るまで分からない。
「どうだった?」
「ふっ。結構ピンチだぜ」
「大丈夫だ。赤点は回避できる⋯⋯多分な」
ヤマモトとサトウはギリギリか。俺はぼちぼち。
「ナナミとアリスは?」
「アタシはいつも通りかな。分からないって思ったところは無かった」
「半分は自信ある」
各々の感想をいただき、テスト返しの週間へと時は進んで行く。
結果が帰って来るまでダンジョンはダメらしい。
SNSにその辺の事情を面白おかしく伝えると、高校生だからと理解を示してくれた。
アンチもいるけどね。
「ユリ達の身体が訛ってないか不安だな」
外で召喚してやりたいが、特別な条件が無いとそれは不可能。
俺に準備できる代物ではない。ユリ達の描かれたカードを眺めながら考える。
「仲間は増えている。強くなっている。進化もしている。アイリスとローズに武器を買って、ホブゴブリンの一体に盾を持たせるのもアリか」
色々と今後の事を考えていたら、日が暮れた。
全てのテストが返却され、各々の順位や合計点数の書かれた紙が渡される。
俺の平均は90.5と高い部類。
中学時代もこんなモノだ。古文がちょっと悪いので、今後の勉強時間のリソースを少しだけ古文に振ろうと思う。
ヤマモトの平均は42.5、サトウは83.5だった。
「サトウてめぇ裏切りやがったな!」
「いやぁ参ったなぁ! たまたま、たまったま山勘が当たったようだなぁ!」
テスト期間中、サトウとすれ違った事があるのだが⋯⋯奴の目には隈が薄ら浮かんでいたのを見ている。
努力した者はその分報われる、と言う事だ。
ナナミは95.5で高くて、二つほど百点のテストがあった。
「凄いなナナミ」
「ありがとう。キリヤも惜しいのが多い」
「嬉しい事言ってくれるね」
ちなみにアリスの平均点数は100である。ホンマにやばいと思う。
さらに付け加えて言えば、俺達に教えている間は問題作成ばかりしていて、自分の勉強はあまりしてないと思われる。
「いやぁ難しいかったね。対策問題作っていたからギリギリなんとかなったって感じかな?」
嘘には聞こえない。アリスがこう言うのは初めてだな。
教えるには自分が理解してないとダメで、対策問題を作る傍ら学んでいたのか。
何はともあれ、俺はダンジョンに行く権利を死守したのだ。
今日は速攻で帰ってダンジョンに行く。絶対に行く。
「キリヤ。ナナミンと一緒にカフェ行くけど、来る?」
「俺は呪縛から解放された。行くべき場所、やるべき事がある」
「そっか。命大事に気をつけて行ってら」
俺はまず、アイリス達の武器を買うためにギルドの二階を目指す。
◆
「ありがとうねアリス。お陰で助かった」
「それはお互い様。勉強は助け合いだよ。それよりも早く行こ、数量限定のパフェが無くなってしまうっ!」
二人は無事に購入し、角のテーブルを使用する。
様々なフルーツを乗せたパフェは見ているだけで満腹になるボリュームだ。
「そう言えば、合宿で何かあったの? キリヤと下の名前で呼びあってたけど」
「うん。仲良くなった」
「そっか。それは嬉しいよ」
スプーンが止まらないアリスに対して、ナナミの手の動きは緩やかだった。
それを疑問に思ったアリスはナナミを見つめる。
「実はさ、キリヤが他校の女子に告白したんだ」
「へぇ⋯⋯え?」
アリスの手が止まる。
(あのダンジョンや探索者とかにしか興味を示さない男が⋯⋯女子に告白したの?!)
なにそれオモロー的な顔をするアリスだったが、ナナミの表情を見て真剣な顔になる。
「それでね。なんか、分かんないんだけど。それを見た時⋯⋯心臓が締め付けられたように苦しくなった。こんなの初めてで、理由が分からない。アリスは、分かる?」
(お、めっちゃベタなの来たな。見てた訳じゃないし、何があったのか分からないな。ナナミンは嘘言わないし、キリヤが恋とか考えられないし⋯⋯勘違い?)
知らないところで何が起こっているのか、アリスには分かっていない。
(恋心って、自分で自覚した方が良いよね)
率直に言うのは控える事にした。
「ごめん。分かんないや。他にはある? キリヤと一緒にいると、鼓動が速くなるとか」
「それだと気配が消せない。いつも通りだよ」
常に冷静に気配は極力薄く、それがナナミである。
「これは難儀だねぇ」
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