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嘘を恥で上書きしよう

 カマクラとの闘いを終えて休憩していると、サトウが森の中に散歩しに行くのを確認した。


 何があるのだろうと思い、追いかける。


 「キリヤか?」


 「良く気づいたな」


 「まぁな」


 気配をできるだけ殺して追いかけたつもりなんだけどな。


 背後を警戒してたって事だろうし、何をしているんだろうか?


 サトウの視線を追いかけると、そこにはツルマキさんが女子と談笑していた。


 「お前まさか⋯⋯」


 「違う。そして隠れろ」


 サトウに言われて一緒に木陰に隠れ、聞き耳を立てる事にした。こう言うの良くないんだけどな。


 だけど、次から聞こえて来る会話がその考えを簡単に払拭した。


 「で、どうだったのあの⋯⋯えっと、なんたらなんたら」


 「ちょっ。一文字も覚えてないやんっ! えっとねヤマ⋯⋯なんとか」


 「ツルマキも分かってないじゃん」


 喋りながらそう口にする。


 本当に、ヤマモトと仲良くしていたツルマキさんなのか怪しくなる。


 「でもこれでこっちの勝ちだよね。誰が最初に他校の男子に告白されるか」


 「ちぇ。あんなチョロそうなの狙うとか卑怯でしょ。ただでさえ顔が良いんだから」


 「武器は常に磨くでしょ?」


 他校の男子に告白されるかの、ゲームか。


 その為にヤマモトは振り回され、本気でこの女の幸せを願っているのだろう。


 一時的で僅かな時間とは言えど、ヤマモトは真剣だった。


 「他にもチョロそうなのいたよねぇ。名前出て来ないけど」


 俺とサトウは無意識に立ち上がり、旅館の方へと足を運んだ。


 人の心を弄び嘲り笑う、自覚と共に無意識で拳を握っていた。


 「可愛いは正義、それが許されるのは性格美人と二次元だけだ」


 そんなサトウの言葉さえ届かない。


 ◆


 時間は経過して全員に十分の休憩時間が与えられた。


 ツルマキはトイレから友達のところに戻る為に廊下を歩いている。


 「⋯⋯だよな」


 僅かに聞こえた声に集中しながら、姿を隠して気配を殺す。


 聞こえた内容は自分に対する内容だった。


 「いやぁ、あの女子高のツルマキさんって女性、ちょーかわいいよね」


 「だな。一回告白しようかなぁ」


 「止めとけって。どうせ相手されない」


 自分を褒める会話に天狗になる。


 その男子二人を眺めつつ、名前は出て来ないけど顔だけは覚える。


 (タイプじゃないんだけど〜告白だけは聞いてあげようかな? それもステータスだしっ)


 そんな考えを持って、彼女は反対の廊下から去る事にした。


 ◆


 模擬戦の時間は終わり、昼食となった。


 「キリヤ、隣良い?」


 「もちろん」


 俺とナナミの短い会話の後、人気の無い場所に高速でサトウ達に運ばれた。


 「なんだね」


 「なんだね、じゃねぇよ! 何合宿でちゃっかり距離縮めてる訳?」


 「ふざけんなよ! 合宿は訓練して己の力を伸ばす場所だろ! 何女に現を抜かしてんだ、あぁん?」


 おいサトウ、それはヤマモトにも効くぞ。


 「そうだぞ貴様!」


 「お前自分を棚上げしたな!」


 理不尽な説教を受けて、昼食を食べ終える。


 昼は最初にやった鬼ごっこだ。少し違うのは、ペアを組む条件が追加された。


 今回も捕まえた回数と逃げ切った時間の順位を発表するらしい。


 「まずはペア決めか」


 俺はサトウを見つけ出して、そっちの方向に歩いて行く。


 「ヤジマくん。せっかくだからペアを組まないか?」


 「クウジョウさん。誘っていただいたのに申し訳ございません。既に先約が⋯⋯」


 「そうか。それなら仕方ないね。そんなにかしこまる必要は無いよ」


 サトウの方はタッグ模擬戦でペアを組んでいたタヤスさんに誘われていたが、断っていた。


 まぁ、その光景はさほど驚く光景では無いが、ヤマモトは本気で驚いていた。


 「んじゃ、やりますか」


 「全力出せよ?」


 ヤマモトはナナミがペアを組んであげて、崇めていた。


 一つ、視線を送られたのでコクリと頷いておく。


 「速攻で考えた作戦、遂行させるぞサトウ」


 「ああ。終わりが楽しみだ」


 俺とサトウは拳を合わせ、最初は鬼として動く事が決まる。


 ここは全力でやらないとダメだ。


 スタートの合図と共に走り出す。


 魔眼もフル活用して、逃げる人間を発見する。


 最初から全力、体力の事なんて気にするな。


 サトウとハンドサインで言葉を交わし、見つけ出した相手を挟み込む。


 何の因果か、その相手はカマクラだった。


 「速いなぁ」


 カマクラとペアを組んでいる人間は誰か分からないが、一緒に逃げている。


 この鬼ごっこのルール、ペアと離れすぎるのはダメ。


 故に逃げる時も追いかける時も基本は一緒だ。


 ただし、一時的かつ遠距離じゃない場合に限り戦略において分かれる事は許可されている。


 それが連携となる。


 「挟み撃ちされる可能性があるから注意しろよ」


 「うんっ」


 カマクラがペアの子にそう言うが、既に遅い。


 俺は左目だけを一、二回閉じて合図を送る。


 回り込んで木の上に隠れていたサトウが加速して飛び出て来て、二人の背中を触る。


 「タッチだ」


 「何っ!」


 「全く気配を感じなかった」


 「次行くぞヤジマ」


 「おうっ」


 サトウの気配感知、俺の魔眼と嗅覚と味覚で次々に人を発見する。


 目指すは一位のみだ。


 できるだけ多く、なるべく全員、捕まえる。


 聞かれない為に全て、ハンドサインでやり取りを終える。


 時間切れまで、本気で逃げる人達を捕まえた。


 部長達などの代表クラスの人達を捕まえる事はできなかったが、捕まえた数は一番多いだろう。


 「ヤジマ、逃げる体力は残ってるよな?」


 「問題ない。それに回復させる」


 座って、休憩する。


 休憩時間が終わって、逃げる時に逃げながら少しでも体力を回復させる。


 今回は逃げ切る必要がある。


 「問題は代表クラスの人物だ。特に部長と副部長に目をつけられるのはキツい」


 「それは同感だ」


 部活での模擬戦を見て分かった事がある。あの二人はエグい。


 副部長の足の速度と気配感知は簡単には破れず、部活中何回も気配を消して隠れても副部長に見つかってるくらいだ。


 走りだけで見たら⋯⋯ナナミよりも副部長の方が速い。


 五十メートル6秒台なだけある。本当かどうかは分からないけど。


 こんな森の中でも副部長は正確に気配を感知して来る。俺にはその自信がある。


 「遠くに離れても、一直線に走られて気配を探られたら終わりだ」


 「どうする?」


 「そこで俺は考えたんだよ」


 俺の案を聞いたサトウは呟く。


 「お前最低だな」


 「うるせ」


 俺は他に逃げている人達を発見しては追いかけ通過する。


 他の人達を囮に使う作戦である。


 結果的に逃げ切る事はできなかったが、最大限生き延びた。


 逃げ切った時間と捕まえた数により、俺達はMVPに見事に選ばれた。


 「何か言いたい事はあるかな?」


 マイクを受け取ったサトウは深呼吸して言葉を出す。


 「実は他校に気になる女子がいまして。告白したいと思いますっ!」


 「前に来てください」と手を伸ばして誘うサトウ。


 その手の先に居るのはツルマキさんである。


 ヤマモトが告白し、フッた女。それだけならヤマモトに魅力がなかっただけと結論がつけれる。


 しかしこの女は、人を恋に落とすかのゲームをしていた。


 恋愛感情を自分達の娯楽他のために利用する、俺はそれが許せない。


 「えへへ。参ったなぁ」


 照れながら、ツルマキさんは出て、サトウの前へと立つ。


 「⋯⋯サトウ、違うよな?」


 「ああ。俺が告白したい相手は彼女、タヤスさんなんですけど?」


 名指しの指名、元々ツルマキの奥に居たタヤスさんはわざとらしく驚く。


 ヤマモトの真剣な心を弄んだんだ。このくらいのバチは与えても許されると思う。


 ヤマモトが失恋の痛みを負うなら、俺達は恥をお返しする。


 「は、なんで地味女が⋯⋯」


 タヤスさんが協力してくれた理由、それは学校内でツルマキさんに嫌がらせされていたかららしい。


 ハブられて、地味だのなんだのと陰口を言われたらしい。


 「だいたい、二人とも可愛いって⋯⋯」


 俺達のとぼけた顔を見て、ツルマキさんは何かを察したらしい。


 意気揚々と現れたけど実は勘違い、十分な仕返しじゃないだろうか?


 ヤマモトが喜ぶかは分からないけど。


 胸糞悪いんだ。人の心を利用して遊ぶのが。


 「タヤスさん!」


 ちなみに、サトウは本気でタヤスさんに惚れている。


 今回の作戦の後、本気で告白するらしい。


 さて、俺も心を固めるか。


 サキュ兄としての魅了の方が、何倍も恥ずかしいからなっ!


 「実は俺も⋯⋯」


 サトウの告白に入り込んで、同時に告白する。


 タヤスさんは迷った後に、二人の告白を断る。


 辺りは笑いに包まれた。今後コレをヤマモトにいじられようが関係ない。


 あの時、ヤマモトで遊んだ事を聞いたタイミングで俺達は決断したからだ。


 ツルマキ、人の心を利用したゲームなんて、クソみたいなのを二度もしない事を祈るよ。

お読みいただきありがとうございます

《評価》【ブックマーク】とても励みになります。ありがとうございます

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