表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
YAWARAMICHI  作者: ウィリアム・J・サンシロウ
赤神龍馬編
153/155

DESERTEDISLAND・トンデモハップン・悪魔との遭遇

未知の集団に蹂躙され―――

無人島に流れ着いたとしても―――

君は柔道が楽しいか?

「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


「うわぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!?」


「一本ぉ"ぉ"ぉ"ん!!」


 日本武道館で行われる新人(ぺーぺー)戦。

 数ある試合のうちの一つが、あまりにも呆気なく決着した。

 観戦していた選手達は、その隙を一切与えない圧倒的な試合運びに、思わず息を呑む。


「へぇ……赤神(あかがみ)さんの試合、もう決着ついたのかよ。何秒ぐらいだ?」


「11秒ぐらいだな……組み合って、軽く右に揺さぶってからの背負い投げで一本勝ち。相手もそこそこ戦えるやつだったのによ、まるで歯が立ってなかったぜ」


「うげぇ……現実(マジ)かよ。俺、このまま勝ち進んだら赤神さんと当たるんだけど」


「ご愁傷様だな。怪我しねぇように頑張(きば)れよ~」


 周囲の選手達が各々に感想を交わす中、試合場では赤神が乱れた道着(まとい)を整えていた。

 手慣れた所作で身なりを正すと、そのまま畳に倒れている相手選手へ右手を差し出す。

 突然の行動に一瞬戸惑いながらも、相手選手はその手を取り、静かに身を起こした。

 

「わ、わりぃ赤神」


「礼はいらんよ。……周囲が少し騒がしいが、気にするなよ。猿山(ありま)(みちづれ)は、ろくな言葉を吐かないからな」


「……」


「む? どうした。怪我でもしたのか……?」


「あーいや、何でもねぇ。それじゃ、次の試合も頑張(きば)れよ」


「あぁ。応援、感謝(あざ)っすな」


 短い言葉を交わし、一礼を交えてから、2人は試合場を後にした。

 赤神の対戦相手であり(かぶと)()いだ彼は、実力(ウデ)差に打ちのめされながらも、その振る舞いにどこか清々しさを覚えていた。


「あれが高校No.1選手……現実(マジ)で俺と同学年(タメ)の高校2年生なのかよ……? なんつーか、妙に大人びてるっつーか……ありゃ敵わねぇよ……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 人ごみをかき分け、赤神は皇焔学園(こうえんがくえん)の選手達が、会場内の拠点としている場所へと向かう。

 出迎えた選手から飲料水を受け取ると、一口含み、喉の渇きを静かに癒した。

 周囲では他の選手達もすでに試合を終えており、それぞれが次の一戦に向けた準備に取りかかっている。


「……みんな、順調に勝ち進んでいるようだな」


「そりゃなぁ。こんなところで躓いてたら、先が思いやられるだろ」


「……なんだ、虎右魔(こうま)か。試合が終わったばかりか? 結果は……聞くまでもないか」


「はいはいっと。お前も今のところは問題なさそうだな?」


「今のところはな。だが、試合に絶対はない。想定外(とんでもハップン)な強敵が現れる可能性もある。油断はできん状況だな」


想定外(とんでもハップン)な強敵ねぇ……無差別級だと、黒城(こくじょう)とか阪木原(さかきばら)あたりが危険(やべ)ぇか?」


「そうだな。他にも仁王(におう)兄弟あたりの曲者もいる……気を抜かずに行かんとな。虎右魔も、あいつには気を付けろ」


青桐(あおぎり)か。あいつ、1年のくせにやたら精悍(ごつ)いし、ランクも俺より1つ上と来たもんだからな……こっちは内心、穏やかじゃねぇし、どっちが上か、しっかり理解(わか)らせてやらねぇとな……!!」


「ふっ……頼もしい限りだな。ランクはあくまでポイント順、実力(ウデ)順ではないからな……1年坊にきっちり洗礼を浴びせてこい」


「へっ!! 言われなくても……ん!? お、おい!?」


「天井が……爆発っ!? なんだ、これは……!」


 なんたる光景、吃驚仰天(おったまげ)―――

 誰も予想だにしていない事態が、突如として勃発した!!

 神聖な日本武道館の天井が爆ぜ、穿たれた大穴の向こうから、謎の集団が姿を現す!!

 黒い道着(まとい)に身を包んだ彼らは、銀髪の男を先頭に、天より降りるかのように赤神達のもとへ舞い降りた。

 その口から発せられる絵空事(ありえんてぃ)な言葉の一つ一つが常軌を逸しており、会場は瞬く間にどよめきに包まれていく。

 だが、その空気に呑まれる素振りは、赤神にはない。

 傍らの三船(みふね)へ短く指示を飛ばすと、赤神は一歩、迷いなく踏み出した。

 その足は自然と、黒い柔道着(まとい)の集団へと向かっていく――!!


「虎右魔、ここを頼む」


「おう。龍馬も気を付けろよ」


「あぁ……!!」


(……何者かは知らんが、この大会にとって招かれざる客であることだけは理解(わか)る。 ……十中八九、実力行使になるだろうな。高校柔道No.1の力――存分に発揮するとしよう……!!)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……むぅ」


 2020年9月5日、日が沈み始める時間帯。

 放課後の練習に向け、各々が柔軟体操に取り組む中、道場の片隅で赤神は仁王立ちのまま、壁を鋭い眼差しで見据えていた。

 昨日の新人(ぺーぺー)戦の最中、突如として攻め込んできた男達――

 Rivolu(リヴォル)zione(ツィオーネ)獅子皇(ししおう)と名乗る銀髪の柔道家に敗北した記憶が、いまだ彼の脳裏を離れない。

 意気(がちしょんぼり)消沈(ちんでんまる)である。

 それに加え、周囲を寄せ付けないほどの殺気が静かに滲み出ており、それを見かねた三船が、呆れたように赤神へと歩み寄っていく。


「おい龍馬……ぼちぼち練習始まるぞ」


「…………あぁ」


「……あの黒い道着(まとい)の集団について考えてんのか?」


「あぁ」


「アイツら、明らかに(パね)ぇ連中だったけどよ……龍馬、お前、赤龍(せきりゅう)呼応(こおう)を使ってねぇじゃねぇか? 今回は瞬殺されたけどよ、次に戦う時はその技を使えば……」


「……それでも、勝てる気がしないんだ」


「あ?」


「多少は食い下がれるかもしれん。だが、結果は変わらんだろうな。格闘家は、相手と組み合うことでおおよその実力(ウデ)を把握できるというが……昨日、実際に組み合った限りでは、俺が勝つ未来が見えなかった。それほど差がある……ということだ」


「……現実(マジ)かよ」


「ふぅー……奇妙(みょうちきりん)な連中が現れたものだな。あいつらが来年の大会に出てくるとなると、色々と話が変わってくるが……」


「……あの、赤神先輩、三船先輩、少しいいっすか」


「ん? どうした、岡田(おかだ)


「監督からの伝言っす。今、マスコミ対応に追われてて、練習には少し遅れて来るらしいっす。先に赤神先輩達に伝えておいてくれって言われました。2週間後の9月19日に、練習試合をすることになったらしいっす」


「練習試合? どことだ?」


「確か……堕天(だてん)高校っす」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 9月19日土曜日、日付が変わって間もない時間。

 堕天高校が拠点を構える父島へ向かうため、専用の輸送船に乗り込んだ皇焔学園の面々は、客室のカーペットに雑魚寝していた。

 靴下とカーペットの湿った匂いが混じり合う空間は、かすかな寝息に満たされ、重たい静寂(あおいろ)に沈んでいる。

 ほとんどの選手が睡眠(せく)っている中、赤神だけが1人、売店横の丸椅子に腰を下ろしていた。

 一定のリズムで膝を揺らしながら思考に沈むその背へ、ノートパソコンを片手に、ある人物が静かに歩み寄る。


「おう、赤神。悲観(ブルー)、入ってんな。まだ寝れねぇのか?」


伊達(だて)監督……まあ、そうっすね」


「大方、あの黒い道着(まとい)の連中のことで考え込んでたんだろうよ。違うか?」


「いえ、その通りです。なにぶん、あそこまで完敗したのは久しぶりでして。どう対処すべきか、考えていました」


「だろうなぁ……俺も、お前があそこまでやられるのは信じ難いが……あの獅子皇ってやつ、見た限りただ者じゃねぇ。プロの人間が相手にして、ようやくって感じだ」


「その認識で間違いないですね。まさか、公式戦に出ていない選手で、あれほどの人間がいるとは……」


「それだけ世界(しゃば)は広いってことだ。今まで公式戦に出てねぇのは気がかりだが……これからの1年で、アイツらを超えりゃいいだけの話だ。違うか?」


「いえ、違いありません」


「おう、それでいい。こっちもトレーニングメニューを見直しておくからよ、今はとりあえず就寝(おかん)しときな。皇焔学園専用の船っつっても、片道24時間が12時間になっただけだ。練習試合に響くぜぇ? 腹が減ってんなら、売店から適当に食いもん持ってきな」


「いえ……勝手に持っていくのは……」


「遠慮すんなよ。売店っつっても、形だけの補給場所みてぇなもんだ。船の備蓄も100分の食事が1週間分はあっからよ。ほいじゃ」


 煙草(しょっぽ)に火をつけながら、その場を後にする伊達監督。

 その背が闇に溶けていくのを見届けると、赤神は丸椅子から腰を上げ、気分転換に窓の外へと視線を向けた。

 唸りを上げるエンジン音とともに、船は黒々とした海面を切り裂き進んでいる。

 その光景は、揺れ続けていた赤神の心を、わずかに鎮めていった。

 だが、その静けさは長くは続かない――

 次の瞬間、視界の先にそれは現れた。

 夜空に浮かぶ人影が―――!!


「……ん? なんだ、あれ……人影!? ……うおっ!? なんだ!?」


 浮遊する人影が現れた、その瞬間――海面が、嵐でも来たかのように荒々しくうねり始めた。

 船体は激しく揺さぶられ、各所から悲鳴めいた軋みが連続して響く!!

 そして――

 壊れるはずのない堅牢な輸送船の壁が、音を立てて軋み、次の瞬間には見るも無残に、割けるチーズめいて引き裂かれ転覆(しも)っていく!!

 海水が亀裂から船内へ入り込み、赤神の体を乱暴に覆っていく!!


「な……!? 何が起きているんだっ!? っ……!? あの人影は……悪魔……!? うわぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っ!?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 どれほどの時間が経ったのか――

 暗い視界の奥で、鼻孔をくすぐる磯の香が、赤神の意識をゆっくりと引き戻していく。

 手のひらには、砂の粒子が張り付くようなざらつきが残っていた。

 やがて意識が浮上すると、そこは見知らぬ海岸線の一角。

 島の入り口であるかのような場所――浜辺へと打ち上げられていた。


「……!! 龍馬!! 目が覚めたか!!」


「……虎右魔、か? ……ここは、どこだ? ……無人島?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ