表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
YAWARAMICHI  作者: ウィリアム・J・サンシロウ
白桜龍聖編
139/152

INFORMER・アカチャン・北海道大会決勝戦

化かし化かされの駆け引きの応酬―――

狙いが不発に終わったとしても―――

君は柔道が楽しいか?

『厳しい暑さが続いております本日、若者達の意地とプライドを懸けた戦いが幕を開けます。本日の実況は、私、藤澤達彦(ふじさわたつひこ)と――』


太江順子(ふとえじゅんこ)がシコシコお送りしま~す』


『北海道大会は、例年通りであれば昨年の覇者である聖鏡(せいきょう)高校が、今年も優勝候補の筆頭となります。白龍の二つ名を持つ白桜龍聖(はくらりゅうせい)選手を擁することで、その地位はより揺るぎないものとなったでしょう。そのほかでは、廻偵(かいてい)高校、千ケ崎(せんがさき)高校、旭川(あさひかわ)第三高校が有力と見られます。太江さん、いかがでしょうか』


『そうね~……どの高校も精悍(ごつ)いから、予想するのは難しいわね。上からも下からも汗が出ちゃいそう。でも、やっぱり1番は聖鏡高校かしら? 今回のオーダー表を見たけれど……ほら、全員が左利き(ひだりぎっちょ)なのよ。いやらしいわね……曲者感がさらに増したと言っていいわ。他校も負けないように頑張(きば)ってほしいわね……!!』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 時計の針は黙々と時を刻み、気づけば真昼をとうに過ぎていた。

 各会場の試合は佳境へと差し掛かり、団体戦決勝を控えた選手達は、会場2階の観客(パンピー)席で、それぞれ携帯食を口にしている。

 決勝へ駒を進めた一校は、聖鏡高校。

 前評判どおり危なげない試合運びで勝利を積み重ね、全国大会への切符を目前とする位置にいた。

 主将の狐塚(こづか)を中心に、レギュラーメンバー5名は、団体戦準決勝の試合を見つめていた。

 この勝者が自分達の決勝の相手となる以上、その瞳には、いつにも増して強い光が宿っているのだった。


「……廻偵高校と千ケ崎高校やな。天方(あまかた)、どっちが勝つ思う?」


「ん~? そりゃ廻偵でしょ~あそこ東郷(とうごう)禿頭(はげちゃびん)がいるし~単純に全員のランクも高いし~」


「せやろなぁ……まあ、薄々そう思うとったけどな……そんで厄介(ヘース)いことに、今年は仁王(におう)もおるしなぁ」


「いや~戦慄(びび)ったよね~仁王の転校先が、よりにもよって廻偵高校なんてさ~下の方の仁王はどんな心境~?」


「いや、別に……兄貴がどこにいようが、ぶん投げてやるだけっすよ!!」


「おぉ~頼もしい~」


「ふんふふ~ん♪」


「なんや白桜、ずいぶん上機嫌(うはうは)やなぁ?」


「公式戦のピリつき感が昔懐(どよう)かしいだけだもん!! いや~いつ来ても血が騒ぐって言うか」


「はっ、こっちもこっちで頼もしい限りやで。ん……? どうやら決着ついたみたいやな。勝ったのは……廻偵高校やな」


「まぁ、大方の想定通りじゃのう」


 雌雄を決する戦いに決着がつくと同時に、監督の金田一(きんだいち)が口を開いた。

 普段の戯事(ちょけ)けた様子は影を潜め、決勝に向けた最後のミーティングが静かに始まる。

 その傍らでは、マネージャーの秋沢(あきざわ)姫浦(ひめうら)がハンドカメラを構え、開始寸前までデータ分析に没頭していた。


「事前に伝えた通り、廻偵高校の選手はウチと同じように曲者が多い。恐らく知恵比べに近い戦いが繰り広げられることじゃろう。しっかり頭の中を覚ましていくようにのう。特にあそこの監督……白雪美鶴(しらゆきみつる)のやり方には気をつけねばのう……」


「確かその白雪美鶴の父親に、金田一監督は傷害(いわ)されたんでしたかいな?」


「そうじゃのう……ワシがいつも天才を潰したいぃ~!! って怨嗟(ぶーたれ)とったろ? その天才にあたる人物が、白雪武(しらゆきたけし)って男じゃ。ワシ、現役時代に何度も挑んだんじゃがのお……こっちの戦い方を丸裸にされて、完膚なきまでに叩きのめされたわい。そこからじゃのう、ワシが頭を使った戦い方を摸索し始めたのは」


「……その娘である白雪美鶴も、相当厄介(ヘース)いんやろか?」


「あぁ。恐らく父親と同じ理論を受けついで、それを指導に取り入れているはずじゃ。相手を徹底的に分析して、弱点を突いてくる戦い方をのう。昨年優勝したからと言って気を抜かんようにな。データは蓄積していくものじゃし……相手に仁王も加わった以上、昨年通りにはいかんかもしれんわい」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 決勝戦へと駒を進めた廻偵高校の面々が、相手選手に一礼し、静かに試合会場を後にしていく。

 控え選手からタオルや飲み物を受け取りながら、体温が落ちすぎないよう、大きめの防風衣(シャカシャカ)を肩へと羽織る。

 監督の白雪は、先ほどの試合を簡潔に総評すると、視線を前へ向けたまま、決勝の相手である聖鏡高校について語り始めた。


「はい、準決勝、(おつかれさま)でした。危なげなく駆逐(ぜんごろし)できて、見ていて安心できる内容でしたっと……けれど、次の相手はそうもいかないわ。昨年の優勝校――聖鏡高校が相手なんですもの。ねえ、東郷君」


「ダハハハハハハッ!! 左様ッ!! 軽々と勝てる相手なら、昨年泣く必要などなかったからなぁッ!? 今年こそ、あいつらを叩きのめしてやるわッ!!」


「よろしい。みんな、相手選手のデータは頭に入っているわね? 今年は……仁王君のおかげで、より鮮明なデータが手に入ったのですし、しっかり活用するように。けど、仁王君……本当(マジ)でこれで良かったの? 一応、元チームメイトなのでしょう? 協力しなくても、別に私は抹殺(ねむら)せたりしなかったわよ?」


「あぁ、構わん。アイツらの目標は全国大会で勝ち進むこと……当然、あの黒い柔道着(まとい)の連中にも勝たねばならん。自分らが丸裸にされた程度で揺らぐようでは、全国に出ても勝ち進めんだろう。その壁になれるのなら、密告者(あかちゃん)めいた振る舞いの罪悪感など特にないな。それに……いや、何でもない」


「あら、そう……ならいいのだけれど。それじゃあ皆さん、最後の総仕上げといきましょうか。聖鏡高校の方々には悪いけど……今日は泣いて帰ってもらうわよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『さあ、間もなく団体決勝戦が始まります。両校のレギュラーメンバーが、畳の上に5人、横一列に並び立ちました』


『いよいよね……私、胸熱(まえがき)で体が火照ってきちゃったわ』


『ここで、決勝戦のオーダー表を確認してみましょう。両校とも、普段のセオリーから一歩踏み込んだ構成をしてきていますね』


~聖鏡高校~

先鋒:罪炎那月(ざいえんなつき)   身長171㎝ 体重72.1㎏  炎属性

次鋒:天方天鼓(あまかたてんこ)   身長182㎝ 体重80.4㎏  雷属性

中堅:白桜龍聖(はくらりゅうせい)    身長162㎝ 体重59.1㎏  氷属性・風属性・龍属性

副将:狐塚幻翔(こづかげんと)   身長175㎝ 体重65.4㎏  風属性・氷属性

大将:仁王阿錬(におうあれん)   身長189㎝ 体重97㎏   山属性


~廻偵高校~

先鋒:皇海(すめらぎかい)      身長171㎝ 体重65.5㎏  水属性

次鋒:風間啓太郎(かざまけいたろう)  身長168㎝  体重59.7㎏  風属性

中堅:東郷平八(とうごうへいはち)   身長180㎝  体重80.7㎏  炎属性・氷属性

副将:鬼灯凛(ほおづきりん)    身長176㎝  体重72.3㎏  雷属性

大将:仁王吽錬(におうごうれん)   身長191㎝  体重101㎏  山属性・水属性


『両校とも、先鋒にエースやポイントゲッターを置いていませんね……太江さん、これはどのような意図と見ればよいでしょうか?』


『そうねぇ……エース格を削る狙いで、あえて捨て駒を先鋒に据えた感じかしら。結果として、両校の思惑が被ったわけね。いやらしい采配だわ……オーダー表を見るだけでゾクゾクしてきちゃう……!!』


『さあ、この食わせ者同士の一番……どんな試合運びになるのか、固唾を飲んで見守りましょう……!!』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「神前に礼!!」


「……熱望(おねがいしゃっす)


熱望(おねがいしゃっす)!!」


「お互いに……礼!!」


「……熱望(おねがいしゃっす)熱望(おねがいしゃっす)


熱望(おねがいしゃっす)!! 熱望(おねがいしゃっす)!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 聖鏡高校柔道部北海道大会決勝戦先鋒

 高校生ランク84位 焉火を宿し者 「罪炎那月(ざいえんなつき)

       VS

 廻偵高校柔道部北海道大会決勝戦先鋒

 高校生ランク237位 水鏡の尊師 「皇海(すめらぎかい)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


開始(はじめ)!!」


「……こいっ!!」


「行きますぞぉ~!! No.52……死戒(しかい)!!」


 試合が始まるや否や、皇は右手の人差し指を天へと突き上げた。

 その指先の上空には、禍々しい邪気をまとった古本の一頁が宙を漂い、ひらりと力なく畳へ落ちていく。

 やがて、落下した箇所を中心に波紋めいた呪気が広がり、試合会場の畳全体を覆い尽くした。

 目の前で広がる異様(ひょん)な光景に、罪炎は冷や汗をつたわせる。

 皇はその反応を真正面から受け止めるように、両者へ課す戒めを高らかに示したのだった!!


「これより20秒間、横捨身技の使用を禁止しますぞ!!」


「……っ!!」


「ふっふっふ……!!」


(罪炎那月、3月10日生まれ。血液型はA型、左利き(ひだりぎっちょ)。好物はキムチや明太子といった辛味系。炎属性の技を操り、主戦法は捨身技を使用すると……当方、事前調査は万全ですのでな。となればまずは、得意分野(おはこ)の一角を封じさせていただきますぞ~!!)


「……ぐぅ!!」


「さてさて……と」


(この罪炎殿、聖鏡高校の面々が噂江(うずえ)のビルへ襲撃(カチコミ)する原因を作ったお方――こちらも調べは済んでおりますぞ。事情が事情でいとほしいですが……今ここは真剣勝負の最前線!! もう一度、泣いていただきますぞ~!!)


 出方を探るように一定の距離を保ちつつ、じりじりとにじり寄る皇。

 一方、使い慣れた捨身技の一部を封じられた罪炎は、昨日のミーティングで交わされた言葉を胸の奥で反芻していた。

 金田一監督から託された自身の役割――その重みを、静かに噛みしめながら。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『よいか罪炎。北海道大会の決勝は十中八九、廻偵高校との一戦になる。その先鋒は――お前さんじゃ』


『……先鋒、ですか』


『そうじゃ。お前さんの役目は2つある。まず1つ目。捨て駒として、相手のエース格を徹底的に削ってもらうぞい』


『……捨て駒』


『うむ。奴らの主軸は東郷と仁王――いずれもランク100位以内の強者じゃ。どちらかが先鋒で来た場合、粘りに粘って消耗させる。勝てそうなら勝ち切れ。だが無理と見れば、序盤から攻め続け、後続が確実に仕留められるまで削り切るんじゃ』


『……理解(わか)りました。あれ、でもその2人が出てこなかった場合は?』


『あり得る話じゃのう。その場合が2つ目の仕事よ。鬼灯、皇、風間――その3人の誰かが出てきた時はだ』


『……』


『できるだけ情報を引き出し、そのうえで勝ち切れ』


『……情報を、引き出す』


『これは仁王が転校した影響が大きいのう。やつがどこまでワシらの情報を向こうに渡したのか――そこが読めんのじゃよ。だからこそ直接戦って、相手の情報の深さを見極めてこい。よいな罪炎。思うているよりも重大な役目じゃ。肝に銘じて挑むのじゃぞ』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふー……No.83灰燼(かいじん)(かま)え……!!」


 己が身に業火を宿し、身体能力も技の威力も一挙に引き上げる技。

 その代償として、時間の経過とともに自身の体力を容赦なく削り取っていく――罪炎は、諸刃めいた危うい技を繰り出していった。

 短期決戦に持ち込む気配を察した皇は、腰を深く落とし、いつでも反撃に転じられる構えで身を固める。

 対して短期決戦に臨むフリをする罪炎は、表情(つら)ひとつ動かさず、静かに相手を掻乱(ゆす)りながら、出方と状況を探り続けていた。


(……俺は俺の仕事に集中する。少しでもこれで……償いになれば……!!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ