第三話 綺麗な板
現在都内で美容師をしている柴谷美香さんが小学校2年生の頃の話しだ。
クラスの女子たちの間で宝物集めが流行った。綺麗な石や貝殻などを集めるという女の子らしい遊びだ。
宝物集めが流行って暫くして柴谷は伯父の家に遊びに行った。山の近くで遊ぶ所など何も無い田舎だ。普段なら伯父の家で大人しくテレビでも見ているのだがこの日は違った。宝物探しに出掛けたのだ。
「わぁ、綺麗」
柴谷は伯父の家から少し離れた空き地で綺麗な板を見つけた。色は黒いが艶があって光っている。
「宝物だ」
柴谷は黒い板を小さな鞄の中へと仕舞うと他にも何か無いかと探し始める。
「美香ぁ~、レストラン行くわよ」
暫くして母が呼びに来て柴谷は昼食を食べに行った。
一泊して家に帰る頃には拾った板の事などすっかり忘れていた。
家に帰ってその夜、柴谷と枕を並べて寝ていた母親が寒気を感じて目を覚ます。
「寒い…… 」
母がトイレに行こうと起き上がろうとした体勢で身を固くした。
隣で寝ている柴谷の枕元にお婆さんが立っていた。お婆さんは寝ている柴谷の顔をじっと覗き込んでいる。
「きゃぁあぁ~~ 」
母が悲鳴を上げると同時にお婆さんはすっと消えた。
「何だ? どうした? 」
反対側で寝ていた夫が飛び起きた。
「おっ、お婆さんが……知らないお婆さんが美香の横に立ってたのよ」
妻が震えながら話すが夫は寝惚けていたのだろうと相手にしないで直ぐに横になった。
自分でも寝惚けたのかと思った母もトイレを済ませるとそのまま眠った。
翌日、寝ている母が寒気を感じて目を覚ます。
気配を感じて隣で寝ている柴谷を見ると枕元にお婆さんが立ってじっと柴谷の寝顔を覗き込んでいた。
「だっ、誰なの! 」
母が声を掛けるとお婆さんはすーっと姿を消した。
「あなた起きて! 夢じゃないわよ、お婆さんが居たのよ、着物を着たお婆さんが居たのよ、本当なのよ、見たんだから」
夫を起して説明するが寝惚けていたのだと相手にされない。
「本当なのよ」
母は怒りながら暫く布団の中で悶悶としていたがいつの間にか眠りに落ちていた。
次の日、寝ている妻を夫が揺すって起した。
「出た! 出た出た!! お婆さんだ。着物を着た婆さんが美香をじっと見下ろしてた」
尿意を感じて目を覚ました夫が柴谷の枕元に立つお婆さんを見たらしい。
「だから言ったじゃない……美香に何かあったらどうしよう」
「お寺か神社に連れて行こう」
泣き出しそうな妻を夫が優しく抱き締めた。
翌日、夫は仕事を休み、柴谷は小学校を休ませてお寺に連れて行った。
「いけませんなぁ」
80歳は越えているだろう年老いた住職が柴谷を見て顔を顰めた。
「分かるんですか? 」
両親が詳しい話しをする前に老住職は柴谷に話し掛けた。
「何か拾ってきたでしょ? 見せてくれるかな」
「拾った? 」
柴谷が暫く考えてから大きく頷いた。
「うん、綺麗な木を拾ったの、黒くてピカピカの奴、宝物だよ」
「そうか、そうか、じゃあ、向こうで御経を唱えよう」
住職は両親に目で合図をすると柴谷を本堂へと連れて行った。
両親と柴谷を後ろに並ばせて住職が経を唱える。
「饅頭でも食べるかい」
住職が差し出した饅頭を柴谷が食べ始める。
饅頭を食べる柴谷を見つめながら住職が両親に話し掛ける。
「お嬢ちゃんが拾ったものを持ってきなさい、放って置くと引っ張られるよ」
「引っ張られるって? 」
「あの世へ連れて行かれます。今ならどうにか出来るでしょう、直ぐに持ってきなさい」
不安気に聞き返す母親に住職が険しい表情でこたえた。
両親は柴谷を慌てて連れて帰ると拾ったものを出させた。
「これよ、綺麗でしょ、伯父さんの家の近くで拾ったの」
柴谷が自慢気に差し出すものを見て両親は絶句した。
「なっ……なんてものを拾ってくるのよ、何考えてるの! 」
「いいから、早く寺に行こう」
怒り出す妻を夫が止めた。
柴谷が拾った黒くてピカピカして綺麗な板とは位牌だ。漆塗りで黒光りしている位牌である。
位牌をタオルで包むと両親は柴谷を連れて慌てて寺へと行った。
「やはり御位牌でしたか、優しいお婆さんで良かった。お嬢ちゃんの寝顔を見て連れて行こうか行くまいか躊躇したんでしょうな、良くないものでしたらその日の内に連れて行かれたかも知れませんよ」
住職の話しを聞いて両親の顔から血の気が引いていく、
「どうしたら? これからどうすればいいんですか」
「大丈夫ですよ、御位牌は私が供養しますから安心してください」
にこやかに微笑む住職に連れられて本堂へと入る。
後ろに並んで座らせると住職が経を唱えた。先の経の倍以上の長さだ。
「これでいいでしょう、あとは私に任せてください」
両親と話をした後で住職が柴谷に話し掛ける。
「無闇に拾っちゃダメだよ、石も木も、ものには念が籠もる事がある。お嬢ちゃんだって誰かに拾われてお母さんやお父さんと離れ離れになるのは嫌だろう? だからね拾っちゃいけない」
「わかった」
頷いた柴谷を見て住職は微笑みながらお饅頭を2つくれた。
その日からお婆さんが枕元に立つことは無くなった。
あとでわかった事だがあの時に食べた饅頭は供物のお下がりだ。神様の力が籠もったものである。
「何で位牌を綺麗な板って勘違いしたんだろう、私の家にも仏壇があったから直ぐにわかると思うんだけど……でもねぇ、他にも落ちてたんだよね位牌、みんな同じように漆塗りで黒くて光ってたんだけど何故かお婆さんの位牌だけが宝物のように見えたんだよね」
話を終えた後に柴谷さんが笑いながら付け加えた。
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