「商人の話」
「虎次郎」
「はい」
「この前の商人、ずいぶん詳しいのう」
「何がでございます?」
「いろいろ知っておる」
「商人ですから」
「砂鉄を買いに来ただけではないのか?」
「商売をしていれば、自然と耳に入るのでしょう」
「鳥の城が落ちたことも知っておった」
「はい」
「四の国の前線のことも」
「はい」
「東側の戦況まで」
「そのようです」
「どうしてじゃ?」
「商人は国から国へ移動しますから」
「戦っておる兵より、色々な国を見ておるのか」
「そういう者もおります」
「すごいな」
「はい」
「では、東の国では何が売れておる?」
「そこですか?」
「大事じゃろ」
「……確かに大事ではあります」
「何を買って、何を売っておる?」
「そこまでは聞いておりません」
「では、聞いてみよう」
「何と聞かれるので?」
「最近、何が売れておるのか」
「それだけで?」
「それだけで十分じゃ」
「戦況より商売の話を先に聞かれるとは」
「商人は商売の話なら喜ぶじゃろ」
「おそらく」
「それに」
「はい」
「物の動きを見れば、人の動きも分かるかもしれん」
「……」
「米が大量に動いていれば、兵が集まっているとか」
「はい」
「鉄が増えれば、武器を作っているとか」
「はい」
「道具が売れれば、人が増えているとか」
「……」
「違うか?」
「いえ」
「姫様」
「うむ」
「商人から聞く話は、案外大事かもしれません」
「そうじゃろ?」
「はい。戦場の報告とは違う角度から、国の様子が見える」
「なら、仲良くしておこう」
「はい」
「砂鉄も持ってきてもらわねばならんし」
「それも大事です」
「次に来たら、ちゃんと話を聞こう」
「何を聞きます?」
「鳥の城のこと」
「はい」
「四の国のこと」
「はい」
「東側のこと」
「はい」
「それから」
「まだございますか?」
「団子がどこで一番安いか」
「……」
「何じゃ?」
「最後の情報だけ、妙に熱心でございますね」
「大事な情報じゃ」
「姫様にとっては、でございますね」
「うむ」
「では、私も聞いておきます」
「さすが虎次郎じゃ」
「団子のためだけではございません」
「分かっておる」
「本当でございますか?」
「うむ」
「では、安心しました」
「それと」
「はい?」
「商人には、団子も出してやろう」
「なぜでございます?」
「また来てもらうためじゃ」
「なるほど」
「商人も人じゃからな」
「はい」
「人に来てもらうには、まず大事にせねば」
「……姫様らしいお考えです」
「そうか?」
「はい」
「では、次に来たら歓迎じゃ」
「承知いたしました」
「ただし」
「はい?」
「団子は一人二本まで」
「姫様が一番食べそうですが」
「私は客ではないからよい」
「そこは公平にお願いいたします」




