第十七話 撮影現場での最初のシーン
『鏡の中の女』は心理スリラー・アドベンチャー映画だ。
女子大生の小愛は、古道具市で一枚の古銅鏡を手に入れる。その夜、鏡の中から一本の手が伸び、彼女を中へと引きずり込んだ。
鏡の中の世界は彼女の知る現実とどこか似ているが、随所に不気味なずれがある。彼女は行けども行けども終わらない路地を歩き、次々とドアを開け、常識では説明できない数々の怪異に遭遇する――ある場面は彼女の記憶の奥底から無理やり掘り出されたかのようであり、またある場面は一度も起きたことがないのに、背筋がぞっとする。彼女は自分が出口を探しているのか、それとも別の何かを探しているのか、はっきりと言えない。確かなことはただ一つ――あの鏡は生きており、彼女自身よりも、彼女がとっくに忘れてしまった隅々までよく知っているかのようだ。
経験するたびに何かを剥がしているようであり、また何かに剥がされているようでもある。次第に彼女は分からなくなる。これらの恐怖の中を彷徨っているのは、自分自身を取り戻そうとする小愛なのか、それとも恐怖によって再構築されつつある別の誰かなのか。
藤崎雪が演じるのは女子大生の小愛だ。
ただ小愛は彼女が演じ、鏡の中の人物は彼女自身だ。
プロレスシーンの撮影が本格的に始まった。カット割りの都合で、撮影スケジュールは予想以上にタイトだった。
藤崎雪は衣装に着替えた後、まずマリハと本読みを行った。――台詞は多くなく、立ち位置も複雑ではなかったので、二人はすぐに合わせられた。
その後、代役が登場し、アクションシーンが始まった。
マリハはリングの上で同じ動作を繰り返した――投げられる、関節技をかけられる、そこから抜け出す、それぞれのカットを異なる角度から何度も撮影し、監督がOKを出すまで続けた。
当初の撮影リストには彼女のアップはそれほど多くなかったが、急遽追加された。監督はモニターの後ろで次々と指示を追加し、ほとんど全てのシーンで彼女の顔のクローズアップを撮影した。理由は単純だった:話題性があるからだ、撮らない手はない。マリハはそれほど深く考えず、ただ一つ一つのカットに真剣に取り組み、投げられれば起き上がり、起き上がればまた投げられた。
藤崎雪はリング下に座り、手に脚本を握っていた。
画面の中の「清優マリハ」というトレンドの残像がまだ頭の中で回っていた。彼女は座り直し、指で膝をときどき叩きながら、ふと一つの考えが浮かんだ――今すぐリングに上がって彼女をぶちのめしたらどうなるだろう。本当に殴るわけじゃない、数回投げてやればいい。押さえつけられ、締め上げられ、リングの上で身動き一つできなくなる味を味わわせてやる。
彼女は理由もなく苛立ちを覚え、その考えがおかしくも思えた。
監督と簡単に打ち合わせをして、自分自身がリングに上がってマリハと対戦したいと申し出た。
藤崎雪がリングに立つと、まるで別人のように変貌した。彼女は肩をわずかにすぼめ、足取りは慎重に、目にはほどよい恐怖を浮かべていた――まるでリングに立っているのがトップ女優ではなく、本当にリングのコーナーに追い詰められた一般人のように。
こういう役者は恐ろしい。一瞬で自分を完全に役に変えてしまう。
彼女はまた、これが演技であり、自分は合わせるために来ているのだとよく分かっていた。幸いここ数日でプロレスの基本動作をいくつか練習していたので、完全に何もできない状態ではなかった――少なくとも立ち方、力の入れ方、投げられても相手を傷つけない倒れ方は分かっていた。
マリハが主導し、素早く藤崎雪の脇をすり抜け、手首を掴んで前進の勢いを利用して彼女をロープの方へと誘導した。
藤崎雪はその勢いで手を上げ、マリハの手首を掴み、力を込めて反転し、体をマリハに押し付けた――動作は鮮やかで、臨時の代役とはとても思えなかった。
越谷美咲は舞台下で冷や汗をかいた。この体勢はあまりにも危険で、ほとんど実戦と変わらないからだ――力を入れ過ぎれば、相手の肩関節を痛めかねない。
藤崎雪が攻撃を始めた。彼女はプロレスの動作を全く理解していないが、ちょうどこの役もそういう設定だった。しかし今の彼女は少し制御を失っていた。
彼女の一つ一つの攻撃や、相手を引く動作には、言葉では言い表せない感情が込められていた――演技上の恐怖ではなく、役の外で溜まっていたものだ。トレンド、成績連動契約、二流会社の足手まとい感、全てが彼女の動作に重なって、殴るたびに重くなっていった。
「CUT! 非常にいい!」
監督がカットをかけるまで、彼女はようやくマリハへの攻撃を終え、くるりと回ってリングを飛び降りた。マリハだけがリングの上に横たわったままだった。
藤崎雪の連続攻撃の中には、何発かは確かに痛かった。
彼女は業界の新人として、こういうことはよくあることだと理解していたし、先輩に恥をかかせるわけにもいかないと思い、痛みをこらえて体を起こした。
マリハの出演シーンはこれですべて終了した。
越谷美咲はマリハを脇の休憩スペースに連れて行き、ペットボトルの水を一本開けて彼女に渡した。彼女はしゃがみ込んでマリハの腕と肩を注意深く調べた。浅い色の肌にはあちこちに赤い痕が残っており、すべて藤崎雪が残した手形だった。
「痛いか?」越谷美咲は顔を上げて尋ねた。
「大丈夫です、痛くないです。」マリハは苦笑いしながら言った。
「本当のことを言え!」
「……確かに……少し痛いです。」
「あいつ、本当に手加減しなかったな!」
「指導のおかげで、この数日間お世話になりました。」彼女は越谷美咲にお辞儀をした。越谷美咲は手を振り、表情は複雑だったが、何かを言いかけてやめ、最終的に彼女の肩を軽く叩いた。
藤崎雪はリング下に座り、目はずっとマリハが去っていく方を見ていた。
彼女が更衣室のドアの向こうに消えるまで。
藤崎雪の笑みは、彼女の優しいイメージを完全に引き裂いていた。それは背筋が凍るような不気味な笑みだった……
「うん……なかなか順調そうだな!」葵は他の撮影現場での仕事を終え、車でこちらに駆けつけた。
「葵! いつになったら私の専属マネージャーになってくれるの?」マリハは服をまくり上げ、前髪を軽く弄りながら、顔を上げた。
「あんたがトップスターになるまではね! 乗れ、帰るぞ!」
葵に心配をかけないため、マリハは藤崎雪と本気の打ち合いをしたことは完全に伏せた。
車の中で、マリハは全ネットワークのトレンドにも気づいた。自分が堂々の一位にランクインしており、彼女にとってはとても嬉しいことだった。
葵は彼女の表情に気づき、表情が少し険しくなった。
「物事は極まれば逆になる。気をつけなさい、誰かが君の揚げ足を取ろうとしているかもしれない。」
マリハは唇を噛みしめ、確かに心の中では少し不服だった。しかし彼女は葵の言う通りだと分かっていた。彼女はそれほど高い評価に耐えられなかった――自分が浮かれるのが怖いのではなく、その熱が自分の周りの人々に燃え移るのが怖かったのだ。両親、まだ学生の二人の妹、彼女は家族の名前も一緒にネットに晒されたくなかった。
「時間ができたらお父さんお母さんに連絡しなよ……」
清優マリハは彼女の本名ではない。本名は小笠原万里葉だ。本名でデビューしないのも、最初に葵が提案したことだった。
葵はこの業界の闇をよく知っていた。
Anthillは清優マリハのレスラーとしての話題性を少しも下げたくなく、凪Filmに撮影の加速と宣伝を催促し、こちらではリーク写真の手配を始めていた。
藤崎雪は焦っていた。
『寄生バラ』の公開日は非常に早いものの、このまま宣伝が続けば映画の話題性が落ちると考え、彼女も宣伝を始める準備をしなければならなかった。




