【エピローグ】
金本慎二には、懲役三年の実刑判決が下った。
執行猶予はつかなかった。
新聞には、また小さな記事が載った。数行の文字。それだけだった。
健はその記事を、工場の仮設テントの中で読んだ。
火事から三ヶ月。
保険の手続きは、弁護士が段取りしてくれた。思ったより早く話がまとまり、工場の再建は来月から始まる見通しが立っていた。
出てきた時に、帰る場所がなくなると……やり直せません。
あの時、弁護士に言った言葉が、今になって違う意味を持って戻ってくる。
自分のためだけやなかった。
あいつが帰って来られる場所も、残したかったんかもしれん。
「……三年か」
小さく呟く。
長いのか、短いのか、分からなかった。
ただ——罪悪感だけは、はっきりと残っていた。
俺が先に動いた。俺が名前を出した。あいつの逮捕を、止められなかった。
止めなかった。
工具を置く。手のひらを見る。油の汚れが、深く染み込んでいる。
(……早う出てこい)
声にはならない言葉が、胸の奥で転がる。
出所したら、何をするんやろ。
また美容師なのか。
刑務所上がりの理容師も、多いと聞く。腕さえあれば、やれる仕事や。
あいつがやりたいことを、やればいい。
それを、どうこう言うつもりはない。
ただ——
戻って来られる場所だけは、作っておきたかった。
工場が戻れば、仕事もある。二人でやれば、もっとまわせる。慎二の腕と口なら、客の一人や二人すぐ引っ張ってくるやろ。
そんなことを、ぼんやりと考えた。
根拠はない。
それでも——そう思える自分が、少しだけ不思議だった。
そのとき——
「こんにちはー」
シャッターの隙間から、軽い声が飛び込んでくる。
顔を上げる。
アヤカや。
相変わらずの派手な格好で、ひらひらと手を振っている。
「慎二くん、三年なんやてね」
ぽつりと言う。
「あの時、目の前で連れていかれて……びっくりしたわ」
少し間を置いて、
「うちが刑事さんに言うたから……」
珍しく、声が少しだけ沈む。
「……うちのせいかな」
健はしばらく黙っていた。
「……ちゃうよ」
短く答える。
「あいつが、選んだことや」
アヤカは少しだけ考えてから、またいつもの顔に戻る。
「……そっか」
それ以上は聞かない。何も知らないまま、また笑っている。
「じゃあね。工場、早く直してねー」
軽い足音が遠ざかっていく。
静けさが戻る。
工具を握り直す。また、手を動かし始める。
来月には足場が組まれる。再来月には屋根が戻る。
一つずつや。
油の匂いと、金属の音だけが、静かに続いていた。




