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男の娘魔王様の如何ともし難い日常 〜異世界化した未来の地球に転移した魔王は姫になる〜  作者: 和三盆光吉


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31話 恐るべしメディア!



 ハンター協会には公式ジャージがある。

 有りふれた地味なデザインで色も赤と青の2色のみ、左の胸元に『日本ハンター協会』と刺繍されているのが唯一それらしい特徴。


 お風呂上がりの魔王は赤のジャージを着てソファーに座り、まったりと時間を過ごしていた。

 床の上には青のジャージを着たヒカルが正座をして、まるで「待て」を命じられた犬の様にしおらしくしている。


 スマホをいじり、冷えたミルクコーヒーで体を潤し、カンナからの連絡を心待ちにする。時折ヒカルがチラチラとこちらを見るので、暇潰しの話し相手に丁度良い。


「ヒカルがここに居る理由は?」


 夏の風鈴を思わせる透き通った高い声。

 長い髪を耳にかける仕草は艶めかしく扇情的である。

 ヒカルはプライドと好意の狭間で揺れながら、会話が始まった事を心底喜ぶ。先程お風呂場で見てしまった魔王の全裸に当てられて、頭の中がそれ一色に染まり魔王の事しか考えられなくなったからだ。


「婆ちゃんに置いていかれてさ、他に行く当てがないんだ。リムリアスは婚約者だから受け入れてくれるよな」


 スマホは東京まで電波が届かないと言う。

 昨夜はスタンピード騒ぎで藤家の関係機関にも連絡が取れなかったと言う。

 迎えがいつになるか分からないので同居したいと言う。


「可愛がっている孫すら放置とはピーターらしい」


 魔王はさもありなんと頷く。

 彼女なら不条理、非常識など屁とも感じない。


 昔、魔王に懐いて付き纏った幼い少年がいた。

 いつも棒切れを振り回して『剣神』になって魔王を守ると息巻いていた。


 そんなある日、ピーターはやんちゃ盛りで微笑ましい少年にナイフ一本持たせて、魔獣が闊歩する山に置き去りにする暴挙に出る。


 ピーター曰く「生きて帰ったら剣の師匠を紹介してやる」


 魔族の諺にもある。

 「親猫は子猫を飼い主のベッドに潜り込ませる」

 日本で言う、獅子は千尋の谷にである。


 魔王は懐かしい想い出に「ふっ」と笑みを作った。


「リムリアスは婆ちゃんと親しいみたいだな」


「まあ、長い付き合いだ。それよりも、リムリアスでは言いづらかろう、リムと呼ぶ事を許す」


「そっか。ならリム、腹が減った。何とかしろ」


「なに? 我はヒカルの母親ではないぞ」


「でも婚約者だろ。メイドがいないんだから仕方ないだろ。妻なら夫に尽くせよ」


 何処までも反省のないお坊ちゃま。

 婚約などピーターが勝手に言っている戯言だ、魔王は了承していないし、する気もない。男と結婚するなど御免被る。


 「はぁ」と溜め息をつき、魔王もそろそろお腹が空いたなと、スマホに目を落とす。時刻は12時25分。


 すると丁度、ピロリン!スマホの着信音が鳴った。


「カンナからのメールだ。なになに?」


 無料メールアプリ『BOIN』だ。魔王は早速メールを開く。


『大変でござるリム! 一大事でござるリム! 今すぐ食堂に来るでござるリム!』


 緊急事態を思わせる慌てた文面。

 魔王は何事かと眉間に皺を寄せる。

 もとより食堂で合流予定である、カンナが来いと言うなら何を置いても駆け付けるべし。


「食堂へ行くぞヒカル」


「ようやくか、俺は伊勢海老が食べたい」


「伊勢海老? そんなメニューはない。モーニングもランチもAかBの2択だ」


「マジかよ! 貧相だな!」


「嫌ならその辺の草でも食っていろ。ヒカルには雑草がお似合いだ」


「ふざけんな! 馬鹿にするな! 俺は好き嫌いのない本物のグルメだぞ!」


「それは偉い。なればこそ雑草で良かろう。身の程を知れ、スケベ小僧」


「女のクセに生意気だ!」


「我は男の子だ」


「あ、うん? そうか。でも、女の子で良くない? 俺、リムを大切にするぜ」


「良くない。キモい」


 童貞少年が偶然に身近な女の子の裸を見ると、それだけで惚れてしまう事が多々ある。

 夏のプールとか、修学旅行のお風呂タイムとか、幼馴染とのラッキースケベとか。

 今のヒカルの状態がまさにそれだ。

 これは男の本能なのでどうにもならない。悪い事でもないので咎める必要もない。

 時間経過で熱が冷める事もあれば、初恋を貫いて生涯を共にする事もある。そういうものだ。


 それはさておき。


 赤と青のお揃いのジャージを着て、並んで歩く美男美女。後光すら差しそうな尊い姿に、すれ違う人々は「ふぅ〜」と見惚れてしまう。


 やがて艦内食堂に到着。

 すると食堂内が騒がしい。

 いつもより人が集まっているのは明らかであり、ヒカルは魔王を守リながら人垣を割って進む。


 食堂には大型テレビが1台壁に掛けてある。

 利用者は食事をしながらテレビを観たり観なかったり。

 しかし今は、集まった職員やハンター達、料理長の俵巻芋左衛門も作業の手を止めてテレビに集中していた。


「あっ! リム来た!」


 画面を見入っていたカンナが魔王に気付く。

 周りには両親の鈴木宗矩、キャサリン夫婦。

 筑波ハンター協会支部長のデカ巨乳、大太羅ユーリ。

 頼れるぽっちゃり巨乳お姉ちゃん伊藤美和。


「騒ぎだな。何事か?」


 カンナに歩み寄る魔王とヒカル。


 ヒカルは魔王の肩を抱いていた。

 人垣を突破するのにそうする必要があったからだ。

 着ている服はお揃いのハンター協会公式ジャージ。

 艦内売店で普通に買えるので、家着として都合が良いからだ。


 これは見様によってはペアルックである。

 お似合いの美男美女がラブラブしている。

 そう捉えられるのも仕方ない。


「ヒカル! リムから離れなさいよ!」


 カンナは烈火の如く怒り狂って噛みついた。


「婚約者か馬の骨か知らないけど馴れ馴れしいのよ! ジャージまでお揃いでいやらしい! 下心丸見えなんですけど、リムはアンタなんか相手にしないんですけど!」


「イキナリなんだよ、うぜぇ〜ぞカンナ」


「気安く呼ぶな! リムは私のよ! 離れろ!」


 2人の間に割って入り、無理やり魔王の腕を抱いてヒカルから引き離すカンナ。発育途上のおっぱいが当たるので、魔王的には楽しい嬉しいご褒美。


 しかし周囲の反応は「あらあら」か「はぁ〜……」のどちらか。少々気不味くはある。


「カンナ、仲が良いのは微笑ましいが、今はそれどころじゃねえだろ」


「お父さん、だって」


 ドワーフっぽい鈴木宗矩の言葉にシュンとなる。

 するとエルフっぽいキャサリンが、魔王とカンナを母性に満ちた微笑みで迎える。


「リムちゃん、いつもカンナと仲良くしてくれてありがとうね」


「キャサリン殿、無事で何よりだ」


「リムちゃんも大活躍みたいで、ほらテレビを見て」


「なんぞ?」


 それはチバラキTVのお昼のニュースバラエティー。

 チバラキ県民なら、昼食のお供に何となく観てしまう長寿番組。『お昼の坂東太郎』


 それを観るユーリの顔は苛立ちに満ちて怖かった。

 美和の顔は困惑半分、不快感半分である。

 魔王は顔を上げて画面を観やる。

 ヒカルも倣う、カンナも合わせて観る。

 そして全員が観た。


『昨夜発生したスタンピードの新境大橋防衛線に、突如として現れた謎のお姫様。彼女は一体何者でしょうか?』


『そうですね。ヒーラーなのは間違いないでしょう。噂では数週間前からハンター協会事務所で受付をしていた美少女と同一人物ではないかと。支部長ユーリ女史の親族だとの情報もありますし、上流階級のお嬢様なのは間違いないでしょう』


 女性キャスターとおっさんコメンテーターの会話。

 スタジオの大画面には、ドレス姿の魔王が回復魔法でハンターを癒す場面がデカデカと映されている。


「アレは我ではないか。テレビに映っておるぞ。何故だ?」


 魔王国にはテレビが存在しない。新日本国に転移して、テレビの面白さはすぐさま理解したが、恐ろしさはまだ知らない魔王。


『本当に美しい少女ですね。物語に登場するお姫様そのものです。一部では早くも、癒やしの聖女と呼ばれているとか何とか』


『聖女と呼ばれるのに相応しい神々しさですよね。今まで世間に知られていないのが不思議でなりません。今回は公式な医療協力との事ですから、これから本格的な活動を始めると思われます。近い内に然るべき場所から公式発表があるでしょう』


「おん? 聖女? それはピーターの事であろう。この者達は世迷言を言っておるわ。ははは」


 メディアによる情報の操作、情報圧力による既成事実の捏造。

 魔王国にも新聞はあったので、魔王もメディアの善し悪しは分かっていたつもりでいた。だがテレビは動画で訴える分だけ、新聞よりも情報拡散力と浸透力が遥かに高い。


「面倒な事になったよリム」


「おば様? 何が?」


「何がって、これでリムの存在が日本中に、いや、世界に知られてしまった」


「世界に? 我が?」


 世界スケールだと、すぐには理解が追いつかない。

 世界に知られて、だからどうなのだ? そう思ってしまう。


「リムの力は特別だ。欲しがる者はごまんと現れるだろうよ。“美少女リムリアス姫”を欲しがる者達がな」


 厳しい顔のユーリである。

 魔王はしばし顎に手を当てて思考する。

 腕に当たるカンナのおっぱいの柔らかさと温もり。

 魔王は男の子なので、当然同性よりも異性が良い。

 魔王は男の子。テレビ報道はお姫様。お姫様は女の子。

 (はっ! まさか!)

 ようやく事の重大さに思い当たる。


(少女だと! 姫だと! 我は男の子だぞ!)


 慌ててユーリの顔を見ると、無言で「そうだ」と頷く。


「私的にはそれで良いと思う。特に困る事はないだろうし」


「いや、困るぞおば様! 我はおと……」


 男の子と叫びそうになる。それをヒカルが口を塞いで止める。魔王が両性具有(嘘)なのは藤家の秘事だとピーターに厳命されているからだ。


「んぐっ! ん〜〜!!」


「静かにしろリム」


「ヒカル! リムに触らないで!」


 仲良し3人は置いておいて。

 ユーリは魔王が女の子として世界に認知されのは構わない。それよりも自分だけのリムリアスでなくなる可能性に心を痛めていた。


「仕方ない。もう一度話し合いが必要だね」


 腕を組んで「ほぅ」と吐息を漏らすユーリ。

 腕を組むと巨乳が強調される。

 下から持ち上げるので「巨乳よいしょ!」となる。

 魔王はよいしょされた巨乳を見上げて、心の中で猛抗議していた。


(世界に女の子として報道されたら、我は女の子として認知されてしまうではないか! 男の子なのに、男の子なのに〜! 全部馬鹿エミリオとユーリおば様とピーターのせいだ! お前らのせいだ!)


 悪い出来事を他人の責任だと考えるのは良くない。

 事、ここに至っては後戻りなど出来ないのだ。

 この日、魔王は日本中に向けて“姫”として発信された。

 この情報はやがて、世界にも広がって行くだろう。

 もちろん旧世界と違い、国家間の交流は最低限、インターネットもない。だから情報が広がるまで時間はかかるが、止める事は出来ない。


 こうして魔王は、異世界新日本国で“姫”となったのである。



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