25話 『筑波』魔王性別会議
魔王は休憩時間に精魂使い果たして会議室に戻った。
これ以上何を話すというのか。
自分の知りたい事は知れたので後は勝手にやってくれ。
お前ら全員、自分をそっとしておけよ。
もうお家に帰りたい。
お風呂に入ってご飯を食べて、カンナにメールを送ってから眠りたい。
明日は明日の日が昇る。今後の身の振り方を検討するのは明日にしよう。
そして生命玉の部分は綺麗スッパリ記憶喪失になったという体で生きていこう。
本心からそう思い、キレ気味で会議室に殴り込む。
「リムリアス嬢、休む前より顔色が悪いが、相談役に虐められたのか? もし家庭環境に問題があるなら私が力になる。怖がらずに話して欲しい」
福次がヨレヨレの魔王を心配して声を掛ける。
流石は中年男性の貫禄、自信と抱擁力に満ちて落ち着いた声。もしも愛情に飢えた女子大生でもここにいれば、コロッと堕ちてめくるめく甘いひと時を楽しみ、お小遣いを大量GETすること間違いなし。
しかし魔王は男の子。キッ! と目を吊り上げて睨む。
(何故に我をお嬢さんと呼ぶ。この男は我の性別を知っている、女装に至るやむにやまれぬ事情も話した。なのに我を女の子扱いするとは許せぬ!)
福次が差し出した手をプイッ! と拒否。
「おや? ご機嫌斜めかな?」
肩をすくめてヤレヤレとする福次である。
エミリオはそんな父親の無様な姿を鼻で笑い、魔王に寄って甘い言葉をゲロゲロしやがる。
「リムちゃん、具合が悪いなら無理はしない方が良い。僕が最高級ホテルのスイートルームを押さえるから、そこで2人きりで静かな週末を過ごそう。海と朝日の見える大洗かな? それとも眠らない街の夜景を眺める港区かな? 大丈夫だよ、初めは優しくするから」
(具合が悪い原因の一つはお前だ! 変態ロリコン変態め! 我が男だと知って尚、不愉快な性欲をぶつけおってからに! お前の毒牙に掛かる前に、ピー! をもぎ取ってやる!)
エミリオは不浄な手で魔王の肩に触れようとする、それを体を引いて躱すと、すかさずピーターが間に割って入り変態の歪んだ性欲から魔王を守る。
「おっと、ピーターさんとは後日改めて十分な時間を作りますから、今はご遠慮下さい」
「黙れ小僧、俺の姫様にイカ臭い手で触れるな」
ドス! ドス! ドス! ボディーブロー三連発。
「うぐっ!」
エミリオは魔王にもピーターにもぞんざいに扱われた。
ヒカルはフラれて落ち込むエミリオを見て笑いが止まらない。顎に手を当てて「ククク」とイケメン的にほくそ笑み、自分の出番が来たと勘違いする。
「俺の隣に座れよリムリアス。言う事を聞けば、そのロリコン野郎から守ってやる」
(此奴は何故に上から目線なのだ。外見がセレンティアスでも、性格は癪に障る子供だな。きっと挫折を知らないに違いない。女の子からモテモテで勘違いしているに違いない。ピーターから我の婚約者と言われて浮かれているに違いない。少しお灸を据えねばならぬ)
ヒカルが伸ばした手をピシャリ! と叩き落とす。
魔王に拒否されたのが信じられないという顔をして、ピーターに視線で助けを求めるのでムカつく。
魔王は怒りの炎を胸に、俺様系お坊ちゃまにコンニャロメ!と、 つま先で脛を蹴ってやった。
(お前の子供など絶対に妊娠しないんだから!)
ゴスッ!
「痛ってえぇっ〜! この女、俺様を蹴りやがった!」
「あら? ごめんあそばせ。おほほほほ」
「婆ちゃん! こいつ凶暴だぞ! どういう教育してんだよ!」
真っ先にピーターへ苦情を入れるのがボンボンの証。
当然ピーターは取り合わない。
「今のはヒカルが悪い。女性には常に敬意を持って接しろと教えているだろうが」
「だって、俺は藤家の跡取りだぜ!」
「馬鹿。ヒカルよりも姫様の方が遥かに上の立場だ」
「ま! マジで!」
驚くヒカルの表情が面白かった。
残念でした世間知らずなお子様。そんな気分。
魔王は口元を隠して「ふふふ」と可憐に笑う。
「俺が婆ちゃんに怒られたのが面白いかよ」
「ふっ、我はそこまで狭量ではない。ただヒカルの顔が頬袋ハムに似ていただけだ」
「頬袋ハムって、ハム?」
「ハムだ」
頬袋ハムとは何か。悩むヒカルはこれで倒したも同然。
最後はユーリが魔王を気遣う。
「リム、目が赤い。もしかして泣いていたのかい?」
「ユーリおば様〜、ぎゅってして〜」
魔王はユーリに甘えて抱き着いた。
身長差によって、丁度頭の上に巨乳が乗るのだ。
それがフカフカのポヨンポヨンなうえに、人肌なので極上のクッションとなり、頭皮マッサージに最適なのだ。
(ユーリおば様も口八丁手八丁で我に女の子の格好をさせてからに許せん。我を守るという初めの動機はともかく、途中からは絶対に女装させるのを楽しんでいた! 何が男の子は妄想だ! 我の男のシンボルは十全に機能しておるわ!(小さいけど))
魔王は復讐心を込めておっぱいを堪能する。
魔王だって男の子、美女のおっぱいは大好物だ。
どちらかと言えば、貧乳よりも巨乳が好みだ。
極上のデカおっぱいが味わえるなら、大金を払ってもお釣りが来る。そんな32歳。
「休憩中に嫌な事があったのかい?」
「おば様、我はどうしたら良いか分からなくなった」
「よしよし、可哀想に。私の胸で良ければいくらでもお泣き。話を聞くよ」
「おば様〜、我はずっとここに居たいの〜」
甘えるフリをしながらピーターの下へは行きたくないと訴える。
藤家に引き取られてしまえば、ピーターの陰謀に嵌ってヒカルとの結婚妊娠出産の未来が待っているからだ。その後ピーターの策謀でピーターが妊娠出産する未来も見える。
(嫌だ! 考えたくない! このままここで暮らしたい!)
魔王は自分の未来を自分の力で勝ち取る決意を固める。
「相談役様、リムは家に帰りたくないと訴えています。事情を説明して貰えますか?」
ユーリは魔王の甘えに母性が刺激されて強気になっていた。
(リムは私が守って理想の男の娘に育てる!)
たとえ藤家相談役ピーターが相手でも引く気はない。
「相談役殿、私も意見したい。もしやリムリアス嬢の身に起こった今回の騒動は、事故ではなく家出なのではありませんか?」
福次的に残念な事に、藤家と魔王の繋がりは両者の態度によって証明されてしまった。これで桜家は魔王の保護権を失う。高レベルヒーラーの最高美少女を身内に取り込む計画が崩れたわけだ。
(それで諦める私ではない。リム嬢の相談役に対する恐れ、意にそぐわぬヒカル君との婚約。本人が嫌がっているのなら、そこが突破口になる!)
福次は魔王が未成年(外見的に)である事を交渉カードとして卓に乗せる作戦を思い付く。
「これは乗り掛かった船だ。リムリアス嬢が家庭環境に不満を募らせているなら、桜家当主として全力で力になる所存。いやなに、子供は国の宝物ですから当然です。わはははは!」
福次は豪快に笑う。
こうする事で周囲を威圧して場の空気を自分に有利な雰囲気へと変えられるからだ。長年権力の中枢に身を置き、狐や狸を相手に培った交渉術の一つである。
「福次ちゃん。魂胆丸見えだけど、付き合ってあげるよ〜」
ピーターは不適に笑う。
方や200歳のロリババア。方や50歳そこそこの若造。
ドラゴンがワイバーン相手に遊ぶ様なものだ。
軽くしごいてティッシュで丸めてポイしてやる。
軽い気持ちでピーターは席につく、続けて福次もピーターの対面に座る。魔王はエミリオ、ヒカルから離れてユーリの隣に座る。
こうして後の世に語り継がれる(継がれない)
『筑波』魔王性別会議が幕を開けたのである。
◇◇◇◇◇
以下、台詞のみになるので台詞の前に名前を入れます。
福次「まず初めに。誠に遺憾ながら、リムリアス嬢が藤家の姫君であるのは事実のようだ。皆さんもその認識でよろしいか?」
魔王「異議あり! 姫ではありません!」
ピーター「リムリアス姫は藤家でもっとも尊き御方。ようやく理解したか」
ユーリ「リムの身元が分かって何より。しかも藤家は大太羅家と縁戚関係ですから、私は本当の意味でおばと言う訳ですね。嬉しいです」
エミリオ「まぁ、不満はありますが認めざるを得ないでしょう。不満ですが」
ヒカル「俺はよく分かんねぇ。婆ちゃんがそう言うならそうなんだろう」
福次「よろしい。皆さんの見解が一致しました。
そこで言わせて頂きたい。相談役殿、今回の騒動は本当に転送装置の事故ですかな? リムリアス嬢は本当に記憶喪失なのか? 私は疑問に思いますな」
ピーター「何が言いたい? 俺は回りくどいのは嫌いだぜ」
福次「では単刀直入に言わせて頂く。リムリアス嬢ほどの美姫が、これまで一切社交の場に現れず、話題にも上がらなかったのはおかしい。年齢的にもデビュタントしている年頃ですし、藤家でもっとも尊い姫ならば尚の事、私達四名家間で顔繋ぎをしているのが普通だ。
もしや藤家ではリムリアス嬢を軟禁していたのではありませんか?」
エミリオ「父の考えに賛同します。僕は藤家の年若い人達と少なからず交流を持たせて頂いていますが、リムちゃんの存在を知ったのは保護してからです。これをどの様に説明しますかピーターさん」
ユーリ「私も言わせて貰いたい。藤家は主家であるけど、万が一にもリムを虐待しているのなら許せない。相談役様の顔を見た瞬間のリムの怯えた様子。とてもマトモとは言い難い」
魔王「賛成! 賛成! ピーターは酷いんです」
ヒカル「おい、婆ちゃんを悪く言うな。女のクセに生意気だぞ」
魔王「我は女の子じゃない。男の子だ!」
ヒカル「お前、鏡見たことあんの? てっ言うか、男と女の違い分かる? 俺が教えてやろうか」
福次「待ちたまえヒカル君。リムリアス嬢は本人の申告通り男の子かもしれない」
ヒカル「はぁ? どこをどう見ても女じゃん。皆んな老眼で目が腐ってんの?」
エミリオ「おい! 僕は老眼になる歳じゃない!」
ユーリ「私もプリップリの29歳だ! ぶっ殺すよクソガキ!」
ピーター「俺だって永遠の12歳美少女メイドだ!」
魔王「我は32歳だ!」
福次「まて、話の腰を折るな。相談役殿、男の子を姫として扱い、本人の意思を無視して男の婚約者を付け、軟禁生活を強いる。これは間違いなく虐待ですぞ」
ピーター「馬鹿を言うな。姫を虐待など、俺の生命に賭けてあり得ない」
福次「では、どの様な事情で?」
ピーター「これは藤家の秘事だと宣言しておこう。それと姫様のプライベートに関わる重大な話だ。つまり他言無用。分かるよな」
福次「もちろん他言はしない。さぁ、釈明を聞こう」
ピーター「まず、姫は確かに、表面的には可愛いオ◯ン◯ンが股に付いている。それは認める」
ヒカル「それって男じゃんか! 俺の婚約者は男なのかよ、気持ち悪いな!」
魔王「異議あり! 好きで女装している訳ではないのだ! 気持ち悪いなど心外だ! 即刻この失礼な子供との婚約破棄を要請する!」
エミリオ「リムちゃんの異議を認めます。クソガキヒカルは今すぐ婚約破棄して退出する様に」
ヒカル「おっさんには関係ない! リムリアスも女のクセに生意気だぞ! 女なら黙って俺の言う事を聞けばいいんだ!」
魔王「我は男の子だもん! 女性差別反対!」
ヒカル「あ? 男か? いや女か。ん? 混乱して来た」
福次「ヒカル君は黙る様に。して相談役殿、リム嬢を男の子と認めながら姫とは如何なる理由ですか?」
ピーター「それはな、見れば分かるだろう。姫様は男であり女でもあるんだ」
福次「皆に分かるようお願いする」
ピーター「つまり姫様は女として子を宿せる体なんだ。表面上の性別は一面でしかない」
魔王「異議あり!」
エミリオ「リムちゃんの異議を却下します。ピーターさん詳しく!」
ピーター「姫様は特異体質でね。それで今まで存在を秘匿していた。そこは詳しく話さずとも汲んで貰いたい」
福次「男なのに妊娠出来ると、そんな馬鹿な話は聞いたことがない」
ユーリ「相談役様、それはリムが両性具有とか、そんなお話ですか?」
ピーター「まあ、そんな感じ」
魔王「異議あり! 我は男の子だもん!」
福次「なるほど。では藤家としては女性として扱いたい。リム嬢本人は男として生きたい。そう言う話か」
ピーター「好きな様に想像しろ」
魔王「想像するな!」
福次「リム嬢の特異な事情は理解した。しかし世間から隠して、本人の意にそぐわない性別を強要するのは虐待では?」
魔王「賛成! 賛成!」
ピーター「福次ちゃん、自分の子供が姫様だったらと想像してみな。本人は男として生きたいと思ってもだ、実際に男として男の群れに入れたらどうなるよ? 体力と性欲が溢れる十代の男の中に姫様を入れたら、さ」
福次「むぅ。それは確かに難しい問題ですが」
ピーター「愛する子供をどうやって守るね? ずっと護衛を張り付かせるか? いっそ強固な全身鎧を着せてみるか?」
福次「意地悪な言い方です。我々の財力と権力があればやりようはあるはずだ」
ピーター「一度世間に知られてしまえば噂は止めようもなく広がって行く。美貌の少年、藤家の至宝、男としても女としても機能する身体。欲しがる者は虫のように湧いて出るだろうよ」
福次「リム嬢の安全を想うあまり、秘匿して育てて来たと?」
ピーター「俺の全ては姫様の為にある」
福次「その想い、理解は出来るが重すぎる。結果、今回の騒動に繋がったのでは?」
ピーター「姫様が自衛出来るなら多少は考えるが、姫様はまだ14歳だぜ」
魔王「異議あり! 我は32歳だ!」
エミリオ「リムちゃんの異議を却下します。14歳、最高じゃないか!」
ヒカル「ロリコンは黙れよ。リムは俺の婚約者だぞ」
エミリオ「さっき、リムちゃんが男だと気持ち悪いと言ったよな。舌の根も乾かない内に婚約者などよく言う。お前はリムちゃんにふさわしくない、僕に任せて消えろ」
ヒカル「あっ? ロリコンはお子様しか愛せないんだろ? リムが大人になっても愛せるのかよ? それとも成長したら捨てるのか? 俺は同じ歳だぞ」
魔王「我は32歳だ!」
エミリオ「少女好きもオ◯ン◯ンのある無しも、リムちゃんとは無関係だ。僕は生涯リムちゃんを愛する自信がある」
魔王「異議あり! 我は男と添い遂げるつもりはない!」
福次「リム嬢の異議を却下します。それで相談役殿、今後リム嬢をどの様に扱うおつもりか?」
ピーター「もちろん連れて帰る。姫様に相応しい環境で生活して頂き、いずれはヒカルと結婚して藤家の未来を率いて頂く。まぁ結婚相手については、最終的には姫様に決定権があるが、藤家もしくは大太羅家の男子から婿を取るのは決定事項だ」
魔王「拒否する! 男の子なのに男との結婚が決定事項とか鬼畜過ぎる! ピーターのお家に行ったらピーターの思い通りになってしまう! 助けてユーリおば様!」
ユーリ「相談役様、私はリムの想いを尊重してあげたいです! もう少しだけ柔軟に考えられませんか?」
ピーター「柔軟とは?」
ユーリ「リムがお姫様なのは否定致しません。男として生活するよりも、女の子として生活した方が問題が少ないのも認めます。でも、窮屈な環境で相談役様が決めた婚約者を強要するのはリムの為にはならなのではありませんか?」
魔王「異議あり! お姫様ちゃうわ!」
エミリオ「リムちゃんは事実と異なる妄言を控える様に。次に話し合いを妨害した場合、僕の膝の上に座ってもらいますよ」
魔王「くっ、くそう!」
福次「私もユーリ支部長と同じ考えです。子供と言えど、尊厳は守られるべきだ。子供であるからこそ、自由に育つべきだ。リム嬢の身を守るのに藤家だけでは力不足と言うのなら、我が桜家もご助力しましょう」
ユーリ「相談役様、微力ですが私もリムの為に出来ることをしたいと思います」
ピーター「気持ちは有り難いが、藤家には藤家の都合がある。……いや、俺の都合かな?」
福次「将来の結婚相手を選ぶのはリム嬢自身。そうおっしゃったのは相談役殿ですぞ」
ピーター「確かに言った。姫様の好みは尊重する。だが、一族の未来に対する義務も姫様は負っている。だから妙な虫がつくのは困るのだ」
福次「そうやって、大人の事情を子供に押し付ける。それが虐待だと気付かないのか。うちのエミリオは跡取りだが、30歳までと期限を設けて好きにさせている。私は親として、子供の自主性と可能性を信じているのだ。リム嬢も、他人の決めた未来を歩くのは辛いだろう。女の子だからな、恋愛に憧れて、好きな相手と結婚したいだろう。その相手がエミリオになると良いと思う。リム嬢に『お義父様♡』と呼ばれてみたい。孫を抱きながら幸せな老後を過ごしてみたい」
魔王「異議あり! 我は男の子だと言っておろうが! お前ら全員、耳が腐ってんの!」
ヒカル「リムはいい加減にうるさいぞ。大人の話し合いの邪魔をすんなよ。全く子供だな」
魔王「あぁっん! ヒカルに言われたくないわ!」
ヒカル「呼び捨てにすんなよ!」
魔王「我の半分も生きていないクセに不遜だぞ!」
ヒカル「馬鹿! 同じ歳だろうが! そっちこそ生意気だ!」
ユーリ「んっ? えっ? ちょっと、2人ともシャラップ!」
◇◇◇◇◇
重要な話し合いの最中であるが、ユーリのインカムに緊急連絡が飛び込んだ。彼女の目が鋭くなり、表情も険しくなる。手振りで痴話喧嘩を続ける魔王とヒカルを黙らせると通信に集中する。
「分かった。鈴木夫妻はスクランブル。待機中のハンター達にも出動要請を出せ。私もすぐに司令室に向かう」
のっぴきならない事態が発生したようだ。
その場にいる全員が情報を求めてユーリに注目する。
ユーリは椅子から立ち上がると福次とピーターに目を合わせて小さく頷いた。
「大切な話し合いの最中失礼します。少し前、大陸から日本海を越えてドラゴンが飛来しました。それ自体は航空自衛軍が追い払いましたが、ドラゴンに怯えた魔獣の一部が暴走、スタンピードが発生。武蔵大森林で狩りをしていたハンター数名が重軽傷を負ったそうです」
ユーリは現場指揮のため艦橋に行かねばならないが、その前に最低限の結論を出しておきたいと言う。
緊急事態となれば致し方ない。福次もピーターもエミリオも同意した。
「では、リムは今後も変わらず女の子として生活する。それでよろしいですね?」
ユーリは賛同を求めて一同を見回した。
まずは福次。
「異論ない。リム嬢の身の安全の為にも、その他諸々の都合的にも女の子で良い」
「異議あり! 異議あり!」
次はピーター。
「姫様は産まれた時から姫様だ。それは性別を超越した姫様であり、職業プリンセスであるのと同義。つまり姫様は女の子であり、オ◯ン◯ンは姫様の魅力を高めるオマケにしか過ぎない。今さら性別をどうこう言う方がおかしい」
「異議あり! 異議あり!」
続けてエミリオ。
「リムちゃんは僕のお嫁さんになるんですから、女の子なのは自明でしょう。それとも僕が男の娘との結婚を望む変態に見えますか?」
「変態! 変態!」
最後はヒカル。
「よく分かんねぇけど、リムリアスは顔も体も声も女だろ? 妊娠も出来るならそれは女だろ? むしろ邪魔なオ◯ン◯ンはちょん切れば良いじゃんか」
「お前のオ◯ンチ◯を毟り取ってやるよ!」
満場一致で魔王は女の子認定された。
誰からとも言わず、会議室に拍手が満ちる。
パチパチパチパチ!
「では続きは後日。私は失礼致します」
ユーリは頭を下げ、巨乳もブルンと上下する。
おっぱいを連れて退出しようとするのを魔王は引き留めた。
「待ってくれユーリおば様」
「ん? 急いでいるんだけど、なに?」
「ハンター数名が重軽傷と言ったな。彼らは街に到着するまで持つのであろか?」
武蔵大森林から筑波ハンター都市まで、車両だと丸一日近く掛かる。それまで重傷者の生命が果して持つのか。長く戦場に身を置いた歴戦の魔王は思う所があった。
「それは、だが、どうにもならない」
ドラゴンが飛来したばかりでざわついた武蔵大森林にヘリは降ろせない。迎えにいけない。
スタンピードを起こしている武蔵大森林に民間人の医師を乗せた緊急救命車両を向かわせる訳にも行かない。
つまり本人の生命力と運命に頼る他ない。
ユーリは魔王の問いに顔を伏せて黙り込んだ。
「ならば我が向かおう。我のヒーリングとやらなら重傷者も助けられる。こちらから迎えに行き、途中で合流すれば負傷者の生存率は格段に上がる。そうであろう、おば様」
迷いのない真っ直ぐな瞳でユーリを見つめる魔王。
本人は実戦経験豊富であるし、魔王として民を救うのは義務だと考えている。筑波で活動するハンターは今では全員顔見知りで、魔王の中では守るべき民であり仲間だ。
魔獣の100や200も魔法でちょいちょいと殲滅する自信があるし、問題は何もない。(魔王的に)
「駄目に決まっているだろう。子供の遊びではないのだぞリム嬢」
福次が眉間に皺を寄せて反対する。
「リムリアスは本当の馬鹿なんだな。お前は俺の側にいれば良いんだよ。そしたら守ってやる。ほら、来いよ」
ヒカルが席から立ち上がり、魔王の手を取ろうとするのでボディーブロー5連発。シラウオの拳が世界チャンピオンの如く唸る。
ドス!ドス!ドス!ドス!ドス!
「おぐっ! おぇぇ〜!」
鳩尾に食い込んだ拳がヒカルを沈黙させる。
エミリオは「ざまぁ〜」とモロ表情に出して、うずくまるヒカルを横目に魔王と向き合った。
「リムちゃんの気持ちは嬉しい。でも武蔵大森林に入るのは駄目だ。ギリギリ許せるのは街の外れ、下妻森林に架かる橋の手前までだね」
エミリオは魔王の優しさを否定しない様に代案を出した。
「エミリオ、それで負傷者を助けられるのか?」
「答えられない。僕は神様じゃないからね」
「神は人事を尽くした者にのみ救済の手を差し伸べるのだ。エミリオの案は人事を尽くしたと言えるのか?」
「僕には他人の命よりリムちゃんが大切だ。僕的な人事はリムちゃんを守る事だ」
「そうか。ならば我が騎士エミリオよ」
「え? き、騎士?」
「そうだ。我に騎士の礼を取って生涯守ると誓ったではないか」
「確かに誓った。うん、誓った」
「ならば魔王リムリアスが騎士エミリオに命ずる」
「魔王?」
「我を守り、利根川に架かる橋に安全地帯を築いて負傷者を受け入れよ。スタンピードとなれば簡単には収まるまい。負傷者の数はこれからもっと増えよう。野戦病院は前線に近い方が効率が良い」
「と、利根川は近過ぎるから駄目だよ! 許可できない」
「エミリオ。我は命じた。お前はどうするのだ?」
エミリオは困った。
魔王のヒーリング能力は実体験でよく知っている。
あの力なら重傷者を即座に治癒するのも可能だろう。
魔王がいてくれればハンター仲間の多くが、それから自衛軍の兵士の多くが生命を繋ぐ。
しかし安全を担保出来ない場所へ魔王を連れて行くなど恋人的に論外だ。
エミリオは愛と効率の狭間で助けを求め、ピーターを見る。
「姫様がそう決めたのなら従うしかない。俺も一緒に行く」
「そんな、ピーターさん」
エミリオの期待は裏切られた。
覚悟を決めたピーターの雰囲気。主命として宣言されれば従うのが絶対なのだ。それが忠誠心であり、愛であり、臣下の務めなのだ。
「騎士エミリオ!」
「え? あ? はい!」
「ただちに部隊を編成して、お前が現場を指揮するのだ」
「は、はぁ?」
エミリオはユーリを見る。
ハンター協会支部長のユーリこそがハンター関連の最高権限者だからだ。どうか魔王を止めてくれと念を送る。
「リム、悪ふざけはおやめ。子供の出る幕じゃないんだよ」
「おば様、我はふざけてなどおらぬ。魔獣の事も、スタンピードの恐ろしさも嫌と言うほど理解している。その上で、我の力が助けになるなら使う。それだけだ」
睨み合う魔王とユーリ。どちらも信念に賭けて引く気はない。だが。
「ユーリ、ここはお前が折れろ」
「相談役様?」
いつの間にかピーターはユーリの隣に立っていた。
小さな体でユーリの顔を見上げ、しかし鋭い眼光で圧力を掛ける。
「人の生命を守る時、姫様は絶対に退かない。問答している時間が無駄になるだけだぞ?」
「し、しかし」
ユーリは決められない。
人命優先なら高位のヒーラーはとても助かる。
けれど魔王は未成年14歳である。前線になど派遣出来るはずもない。
「ユーリおば様」
「り、リム」
「魔王リムリアスが命じるのだ。その結果起こる全ては魔王リムリアスの責任である。良いな?」
「よ、良いなって?」
「福次様」
「なにかなリム嬢?」
「福次様のお力で陸上自衛軍とやらに協力を要請できますか?」
「もちろん可能だが、それが?」
「ハンターと共同で利根川の橋に後方支援基地を構築したいのです。補給物資を集め、負傷者の治療を行う場所が必要なのです。お力添え頂けませんでしょうか」
瞳に力を宿す魔王に福次は(面白い)と感じた。
14歳かそこらの小娘の目ではない。優れた指導者の目だと思う。
(この娘が何を成すのか見てみたい)
福次は若い自分に戻った錯覚を覚える。下腹部に力がみなぎり熱く滾る。在りし日の様に、久し振りに無茶をしてみたい気分になった。
「了解した。リム嬢に力を貸そう」
「お父さん!」
「福次様!」
「ありがとう存じます福次様」
こうして魔王は不毛な性別決定会議から一転、新日本国に転移してから初のスタンピードに対峙する事となった。
ストックが尽きました〜。
今後は毎日の投稿は出来ません。
書き上がったら20時に投稿します。
よろしくお願い致します。




