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23話 ピーターの事情説明 ①


 今回は説明回。台詞ばかりで読み辛いかもですが、何卒お付き合い下さい。



 ピーターに怯えて震える魔王。

 今の状態ではまともな会話など望むべくもないが、少なくとも魔王とピーター、ひいては藤家と魔王の間に何らかの繋がりがある事は証明される形となり、福次は肩を落とす。


 魔王の錯乱によって会議室は騒然となり、福次は一時休憩を提案してその様になった。


「気をしっかり、リム。一旦部屋に戻って休んだほうがいい」


 ユーリは魔王の肩を支えて自室へ連れ出そうする。

 魔王はピーターを横目に捉えながらユーリに従おうとする。

 するとピーターがユーリを押し退けて魔王の体を支えて微笑む。


「ひっ! ピーター!」

「おい、専属メイドの笑顔に悲鳴とか酷いぞ」


 この時、魔王の思考はシッチャカメッチャカだ。

 勇者との死闘、巻き込まれ転移、異世界新日本国、若返り、ユートに似たユーリ、セレンティアスに似たヒカル、何もかも不可思議で似て非なるものばかりなのに、ピーターだけは本物。それだけは魂が確信を持っている。


「な、なぜピーターがここに?」

「それをこれから説明してやる。2人きりでな」


 ピーターは忠誠心高く献身的なメイドだ。

 常に魔王を考え、魔王の為に生きていると言っても過言ではない。

 魔王を目指していた時も、魔王に就任した後も、ピーターは自身の全てを魔王に捧げて来た。労力も聖女の名声も生命すらもだ。


 しかし、それはつまり、愛が重すぎるという事。

 初めて会った時から魔王を姫様認定して、男である魔王を常に姫様として扱う。

 魔王が男らしくなる事を異常に嫌い、逞しい美青年魔王になってからの当たりはとにかくキツかった。

 公私共にピーターに助けられていた事は大いに認める所であるが、ヤンデレ気質なピーターが恐ろしいのも事実。


 できれば2人きりにはなりたくない。

 でもピーターが新日本国にいる理由、そしてセレンティアスやユートや魔族がどうなったのかは知りたい。それを聞くために部外者は都合が悪い。嫌でも2人きりになるしかない。魔王は腹を括った。


「分かった。我の部屋に行こう」


 ユーリが心配して言葉を掛けようとするのを態度で制し、2人は会議室を後にした。


 ◇◇◇◇◇


「ここが今使ってる部屋か。俺の姫様にふさわしくない」


 魔王をソファーに座らせ、テキパキとお茶の準備をする金髪ロリメイドの第一声がそれ。


 ピーター的には伯爵家の次男で魔王国の王、魔王であるリムリアスは常に最高の生活環境にいなければならないと考えているのだ。


「ここでの我は何者でもない異邦人。むしろ過ぎた待遇だと思っている」


 ピーターが淹れたお茶を一口含み「はふぅ」と吐息を漏らす。


「美味い」


 慣れ親しんだ味。病的な愛に溢れているが、魔王国で最高レベルのお茶である。


「姫様、俺はな」

「うん?」

「こうして姫様にお茶を淹れるのを、かれこれ200年近く待っていた」

「200年、だと?」


 魔王はティーカップをテーブルに置く。

 ピーターは魔王の隣に座る。

 まるで家族か恋人の様に寄り添う2人。


「まず、姫様が新日本国に転移して来る事はセレンティアスによって予想されていた。俺は聖属性魔法の究極秘技、不老化を使って姫様が現れるのをずっと待っていた。だから俺の歳はだいたい200歳だ」

「なん! だと!」


 魔王は金髪ロリメイドをまじまじと見る。

 顔は幼いロリのまま、若くハリのある肌は子供だと言えば万人が認める姿。

 そもそも魔王とピーターが別れたのは勇者との死闘の少し前。魔王の記憶では20日程度しか過ぎていないはずだ。200歳など信じられない。


「まあな。これだけ可愛い美少女メイドだから、信じられないのは無理もない」

「ピーター、何があったのか話してくれるな?」

「もちろん。でも長くなるから要点だけな」


 ピーターは自分だけでなく、魔族全体に起こった出来事を語り始めた。


 ◇◇◇◇◇


「俺とセレンティアスとユートは北の大地へ逃避行する1000万人の後発隊だった。覚えてるよな?」

「もちろんだ。先発隊は700万人、後発隊よりも1か月早く王都を出発した」

「そう、姫様が決死の覚悟で勇者と人族の軍隊を足止めしてくれている間、俺達300万人は急いで先発隊を追った。休息を最小限にして、可能な限り早くな」

「うむ。苦労をかけた」

「王都を発って最初の2日は順調に行った。元々女子供老人は先発隊で、後発隊は万が一の殿しんがりの役目もあったから、戦える若い奴が多かっただろ」

「そうだ。我一人の犠牲で済めが良いが、物事には常に備えが必要だからな」

「んで、問題は3日目の早朝。日の出と共に起こった」

「王都を発って3日目の早朝だと?」

(それは我と勇者が決着した時ではないのか?)

「突然、後発隊は視界ゼロの濃い霧に包まれた。魔法で探査しても一切なにも分からない完全な白だった」

「そ、それで?」

「気が付いた時、300万人全員が見知らぬ森の中にいた。知らない地形、知らない植物、知らない魔獣」

「まさか転移したのか! 300万人全て新日本国に!」

「正確には新日本国が建国される少し前の武蔵大森林の中だ。そこで俺達は、デファ星人の策略でスタンピードを起こした魔獣の大群と戦う日本人に遭遇した」

「デファ星人! ピーターはデファ星人と勇者の繋がりを知っているのか!」

「どうどう、落ち着け姫様。話の腰を折るなよ」

「む、すまん」

「それで、魔獣の大群と戦う日本人はだ、使う武器は恐ろしく強かったが、魔獣との戦い方をてんで知らなかった。闇雲に撃ちまくり、魔獣それぞれの癖や弱点もお構いなしで力押ししようとして苦戦していた」

「うん、それで?」

「しばらく日本人と魔獣の戦いを観察したセレンティアスは日本人に加勢する決断を下した。日本人は人族とは少し違っていたし、勇者にそっくりなデファ星人と敵対しているなら接触する価値があると考えたんだ」

「知恵者セレンティアスが決めたのなら、それが最善であったのだろう」

「そう、最善だった。色々端折るが、日本人は加勢した俺達魔族を受け入れてくれた。そして日本人から情報を得て、勇者とデファ星人、ワープ装置と転移の繋がりを知る事になる」


 ピーターはここで話を一旦区切り、冷めてしまったお茶を淹れ直そうと立ち上がる。と、思ったら。


「おほほ。姫様、少しお花を摘んで参ります」


 そそくさとトイレへ消える。こんな時だけ口調が女性的になるのはピーター七不思議の一つだ。


 ジャー! ゴボゴボゴボゴボ〜!


 排尿の音を聞かれぬよう、水を流しながら用を足すのが乙女の礼節。音をダダ漏れに用を足す魔王とはやはり違う。


「ふぅ〜。まあまあ」


 何が「まあまあ」なのか。ピーターは洗面台で手を洗い、そして気になる物を見つけた。


「姫様、姫様! ちょっと!」

「どうしたピーター!」


 呼ばれて急いで洗面所へ向かう魔王。


「この洗顔料『エリュシオン』じゃないか! 化粧水も乳液も、あっ! シャンプーとトリートメントも『エリュシオン』だ!」


 ピーターは嬉々として洗面台やお風呂場を物色。魔王愛用のコスメ関係が全て『エリュシオン』だと分かると小躍りして喜びを爆発させる。


「それは先ほど我と一緒にいた女性、ぽっちゃり巨乳の美和お姉ちゃんが勧めるので使っている。人気の高級品らしく、確かに使い心地は良い」

「そうだろう! そうだろう!」

「それがどうかしたのか?」

「これ、俺の会社の製品! いつか姫様に使って貰うために長年研究してた自信作! まさかもう使ってたなんてメチャクチャ嬉しいぜ!」

「なん! だと!」


 ピーターは魔王国にいる時から趣味で発酵の研究をしていた。それが新日本国に転移して、新たな知識を得た事で開花。

 今ではコスメ関係の『エリュシオン』

 酒類製造販売の『パープル酒造』

 等など、複数の会社を経営する大社長だという。


「俺、大金持ちなんだ! 政財界にも顔が利くし、それも全〜部、姫様の物だからな!」


 屈託のない笑顔で自分の全ては魔王の物と宣言するピーター。愛が重すぎる。




 トイレ休憩は終わり。

 ソファーに戻った2人は話の続きを始めた。


「どこまで話したっけ? なぁ、姫様」

「勇者がデファ星人だった事、奴らがワープという転移魔法具に似た装置を使うと分かった所までだ」

「そうだった。それでな、セレンティアスはこう考察した『デファ星人である勇者はワープ装置を使って自分達の世界にやって来た。魔王様との戦いで追い詰められ勇者は逃亡目的でワープ装置を作動させた。その際、何かが起こってワープ装置が暴走、自分達も巻き込まれた』てね」

「なるほど。おそらくセレンティアスの考察は正しい。我と勇者の戦いの決着の時だが……」


 魔王は決着が3日目の早朝であった事。

 勇者が今際の際に口にした『異世界を渡る』という言葉。

 勇者の体から現れた漆黒の球体に飲み込まれた事を伝える。


「セレンティアスの考察は概ね正しかったのが証明されたな。ふふふ。今頃、天上の園で喜んでいるかも」

「天上の園か。やはりセレンティアスとユートは」

「200年だぜ、俺以外は皆んな死んだ」

「そうか、そうだな。苦労をかけた。許せ」

「よせよせ! 姫様はなにも悪くないんだ。それに俺は子孫に囲まれて毎日楽しくやってる」

「ん? 子孫とは、先ほどのセレンティアスに似た少年のことか? 確か『婆ちゃん』と呼ばれていたが」

「ヒカルは沢山いる子孫の中の1人。セレンティアスに一番似ている直系子孫だから、姫様の婚約者に良いかなって思ってさ」

「そうだ! 婚約者などと勝手な事を! 我は男の子だぞ!」


 魔王はソファーから立ち上がって猛抗議、男の子なのに男の子と婚約するなど魔王的にあり得ない。

 のだが、話の内容的に婚約よりも別の部分が妙に引っ掛かった。


「ピーターが婆ちゃんで、セレンティアスの直系子孫って、どういう事?」

「んふふ〜、知りたい?」


 ピーターは罠に掛かった獲物を見るような目でニマニマする。そしてスマホを操作すると、とある写真を魔王に見せるのだ。


「なっ! なんとだ!」

「おほほ! 俺達の結婚式の写真だ! 180年前だけど、データ画像だから色褪せないぜ!」


 スマホの中には純白のウエディングドレスを着た3人の人物が笑顔で映っていた。


 真ん中はロリ花嫁ピーター。

 右は何故かウエディングドレスを着たセレンティアス。

 そして左はウエディングドレスを着て微笑むユート。


「3人とも花嫁じゃないか!」


 魔王はメチャクチャ突っ込んだ!



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