表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/63

運命の分かれ道

半信半疑ではあったが、0号の言った通り本当にフードを被った子供とぶつかった。

とりあえずは起こすとして、ここから一度引き留めることを忘れないようにしないといけない。


そうしててを差し伸べて起こしたとき、フードで良く見えなかった顔が見えた。

その顔は紙芝居で見た獣の王子とそっくりだった。


「ありがとうございます。それでは……」


驚いているうちに少年は足早に立ち去ろうとした。


「あっ、あの…… なぜそんなに急いでいるんですか?」


少し驚きはしたが、ひとまず呼び止めることはできた。

声を聞いて少年も足を止めたということは、0号の依頼は達成されたのだろうか。


「どうしても今日中に海岸まで行かないといけないので……」


王子と瓜二つ、海岸に行く、この二つの要素が重なったということは目的は明確だ。


「まさか、海岸の小屋に行くつもりですか?」


「あの話を知っているんですね。その通りです。ですから今日何としても行かなければならないのです」


声をかけるだけのシンプルな頼みだったのでつい引き受けてしまったが、これはなかなか大変な問題に首を突っ込んでしまったような気がする。

改めて考えると、管理者達の中でもひと際得体の知れない0号の言うことを真に受けて良かったのだろうか。実際、彼の言う通りに事が進んでいるようだが、思惑通り進んだとして本当に良い結末になるとは全く保証はない。


しかし、悩んでいる間にも少年は立ち去ってしまいそうだ。

最良の選択が何なのかはわからないが、とにかく後悔は残したくない。運命を知った者として呼び止めに対する責任だけはどうにか取りたいという気持ちだけは固まった。


「あっ、あの、流石に一人でそこまで行くのは危険です! 俺もついて行きます! 冒険者ですからモンスターの対処は任せて下さい!」


なんとか引き留めたが、少しこちらの必死さに驚いているようにも見える。

これが正解かも分からないが、少なくとも子供一人で行かせるには明らかに危険だ。

それに、行かないように説得しても恐らく無駄だろう。


「……分かりました、そこまで言うなら一緒に行きましょう」


なんとか同行することに成功し町の外に出ると、少年はまた紙芝居で見たように羚羊に変身した。

そうして勢い良く駆け出して行ったが、これが本当に速かった。

全速力で走っても徐々に引き離される。流石、獣人の王子というべきか今まで出会ったどんなモンスターよりも速い気がする。


「人間の足でこの速度に追いつけるとは…… ただ者ではなさそうですね。本当は振り切ろうかと思っていましたが…… いいでしょう、ほら乗ってください。」


少年はそう言うと俺を素早く角で引っ掛けて放り上げると、器用に背中に乗せた。

乗馬の経験も無いのにどうすればよいかと考えたが、不思議と自然にバランスはとれていた。

今まで考えていなかったが、勇者には乗馬適正があるのだろう。


「軽い…… まさか本物のオリハルコン装備とは、驚きました。これなら遅れずに進めそうです。何かあったら頼みますよ!」


オリハルコン装備は冒険者の憧れの装備だけあって、他の金属鎧を似たような感じで染色する冒険者も少なくない。

染色技術の進歩で見た目ではなかなか区別がつかないが、この軽さと頑丈さの両立は真似できないものだ。


俺を乗せた状態で白い羚羊が森を風のように駆け抜ける。

いくら鎧が軽いと言っても、人間を乗せてこんなに走れるとはなかなかの体力だ。

スピードもほとんど落ちていない。これならモンスターも追いつけないような気もする。


そんな考えが裏目に出たのか、突如木々をバリバリとなぎ倒しながら奇妙なモンスターがこちらに突進して来た。

巨大な体、巨大な口がこちらに迫っている。多数の足で激しい地鳴りを起こして、多数の触手でこちらをつかもうとしている。


咄嗟に剣を取り出して触手を切り落とすが、すぐに元に戻ってしまう。

それに、切り落とした触手も羚羊の足をつかもうと少しの間地面を這っているようだった。


なんとか躱しながら走れているようだが、捕まるのも時間の問題だろう。

近づいて倒そうにも触手攻撃はなかなか厄介だ。素早く倒せなければ少年を守れる保証もなさそうだ。


遠距離で出せる最大火力は弓でのパワーシュート。問題はどこに撃てば良いかだ。

口の中であれば柔らかそうだろうかと見ていたが、もう一つ効果がありそうな部位を見つけた。

口の少し上に巨大な一つ目がある。恐らくはここを狙うべきだ。


そこまで思いついても実行するのは簡単ではない。

触手に加えて、粘液を飛ばす攻撃も使ってきた。これを踏んでしまえば一巻の終わりだろう。

少年の体力のことを考えると猶予はあまりないが、焦って失敗すれば状況は却って悪くなる。

まずは確実に仕留められる状況を作る必要がある。


触手の数は多いものの、動きは単純だ。触手を切った後は再生した直後に攻撃しようとしてくる。

よく見極めて切る長さを調整すれば、攻撃のタイミングを揃えることもできる。

そうして集まってきた触手をロングエッジで一気に切り刻む。


この作戦が上手く行ったことを喜ぶ暇もなく、急いで弓を構える。

触手攻撃が止んだ事と、粘液攻撃の軌道が分かってきたのか、少年の走りも安定しているようだった。

この最良の状態を逃すわけにはいかない。腕に魔力を集中しながら弓を引く。

腕力強化して限界まで弓を引きながら、同時に矢に魔力を流して威力を上乗せする。


触手の再生が気になるが、やはりここでも焦ってはいけない。触手もろとも吹き飛ばす気持ちでしっかりと力を集中させる。

どういうわけか今までにない程力が漲ってくる。これも獣王の不思議な力なのだろうか。

そうして目玉に狙いを定め、覚悟を決めて矢を放った。


その瞬間大きな破裂音が響き渡り、一筋の光がモンスターを貫く。

束になった触手は塵となり、そこに目玉があったかも分からない程の大穴が開いていた。


音に驚いたのか少年はさらに速度を上げて走り出した。しかし、怪物はもう追ってこずすっかり遠くなっていった。


「……もしかして、もう倒したんですか? ありがとうございます。あなたがいなければ無事ではすまなかったでしょう。あの時出会ったのは神様のお導きだったのかもしれませんね。」


神様ではないものの、それ以上の存在に導かれた結果であることは確かだ。

だが、0号に要求されたことは呼び止めるだけだった。まさか、0号はこの結果も見越していたのだろうか。


(本当に声を掛けるだけにとどめていたらどうなっていたか…… いや、今は無事切り抜けたことを喜ぼう)


「気づけばかなり走って来ましたね。もう海岸はすぐそこですよ」


少年が言うや否や視界が開けてきて、目の前には第三の魔王討伐時に通ったあの海岸が見えた。

ついに目的地にたどり着くことができた。


しかし、よく考えるとあの時小屋は出た後には消えていた。

今回もあるとは限らない。というか、ない方が穏便に事が済みそうだ。

だが、その思いも虚しくやはりというべきかあの小屋が建っているのが見えてしまった。


「ありました! あの小屋に花を供えたかったんです! 」


少年は羚羊から人間の姿に戻ると花を取り出して小屋の方へ歩いて行った。

しかし、この小屋は怪物と同等に油断ならない存在だ。以前のように恐ろしい事が起こるかもしれない。


緊張しながら小屋に近づく。これ以上問題が起きないと良いが……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ