【閑話】猫吉先生の日常
我は猫吉先生。
ルノムと一緒に異世界という場所で暮らして少し。
ルノムがくれるご飯を食べると、どんどん体に不思議パワーが溜まるんだ。
それとは別に『猫吉楽食便』で出たゴミを食べると、これまた違う不思議パワーがモリモリと体に蓄積される。
これは…一体なんなのだ?
せっかく元気いっぱいになったんだから、自由に外で遊んで楽しめってルノムは言う。
楽しめって…ルノムの膝の上で頭を撫でてもらうのが一番楽しいのに…。
でも…ルノムの為に我は強くならないといけないから、体を鍛えることにした。
ルノムを守る。我がルノムを守るんだから!
今日は町の外でトレーニングなのだ。
一歩外に出ると緑緑緑。こんなところ、初めて。
我はこの異世界に来てから東西南北がはっきりわかるようになった。
頭の中には常に変な矢印が付いているのだ。
歩くだけで、頭の中で地図が浮かび上がって位置がはっきりする。
面白いから、たくさん歩いてたくさん地図を作るんだ!
これ、いつかルノムの役に立つかもしれない。
ふふん、体だけじゃなくって、我は頭も鍛えるのだ!
§
そう言えば、ルノムがお好み焼きに乗っける肉に悩んでいる。
肉肉肉肉ぶぅぶぅ言って、ちょっと変。
一番初めに食べたお好み焼きに乗っかっていた肉の味が好きだって、あのお肉みたいな匂い…我、ルノムの役に立たなくっちゃいかん。
『あのお肉の匂いがするもの…こっちにおいで…』
我の頭の中から…変な声がした。
我の声だけど…我は何にも言っていないぞ!
『こっちにおいで…こっちにおいで…同じ匂い…』
誰かが我の声を使って言っているのだな!
誰?誰?その場でグルグルと回って探す。
あれ…誰も…いない?
頭の中の声は周囲にわんわんと響いて拡散されていく。
これ…我のせい?
しばらくしたら気にもならなくなってトレーニングを再開。
歩いてはシャッ、歩いてはシャッってして、ファイティングポーズ。
大きな川が出てきた。
水がいっぱいだ…尻尾が二本とも足の間に入り込む。
我は水が大嫌いなのだ。
でも、川に落ちなければ平気。見るだけなら大丈夫。だ、大丈夫。
川を渡るのもトレーニングの一環だ。
ルノムと一緒にここで生きていくなら、川の一つや二つ、越えられなければならないのだ!
少し早足で駆け抜ける。
は、早足の訓練なのだから仕方がない。
丸っこい岩が沢山出てきた。
川は…もう見えない。
ポカポカ陽気で良い気分。
ここで少し休憩してから、トレーニング再開だ!
ルノムを守るために、ムキムキ猫にならねばいかんのだから。
ん?キケンレーダーに何かがひっかかった!?
我が作った頭の中の地図に表示される、悪い魔の印。
この異世界には良い魔もたくさんいるけれど、悪い魔もたくさんいる。
これは悪い魔の印だ。
来る…たくさんたくさんの…ネズミ!
我は猫。ネズミが来たら、絶対に我の物。
それに…これ、あのお肉の匂いにそっくりだ!
ルノムが探していた、あのお肉に似た匂いがネズミから…くんかくんか…。
欲しい欲しい!
このお肉、ルノムの為に、欲しいんだ!
我は大地を蹴って走り出す。
あれ…速い?
速い速い!
すっごく楽しい!
我はこんなにも速く走れるのだな!
あっという間にネズミの群れに囲まれた。
大きい…こんな大きな生き物は初めて見た。
でも、とってもいい匂い。きっと…ルノムが喜んでくれる!
このお肉、絶対にルノムへの土産にする。必ず持って帰るんだ!
――シュッ
この異世界に来てから、爪はお外で整えている。
宿屋で爪とぎしちゃうと、ベンショウさせられるからな。
でも爪とぎをしている時に気がついた。爪の下から、いつもは隠れている…もっともっと強い爪の事。
この強い爪でシュッてしてシャッってすると、なんでも裂けるんだ。
強い爪、ここにシュタッと参上なりぃ!
――シュッ
悪い魔の首を切り裂く。
ルノムが言っていた。魔獣は毛皮も血も…何もかもがお金になるんだって。
ルノムはお金を貯めて…我と一緒に住む家を探すんだっていつも言っているからな。
お金、大事。
毛皮、大事。
きれいにきれいに。傷は出来るだけ小さく小さく、血の一滴も無駄にしないように。
――シュッ
――シャッ
ネズミにしてはゆっくり動く。まるでスローモーションみたい。
あれ、違う?我が…速すぎるのだ!
あっという間にネズミの群れをやっつけた。
これ、どうすればいいんだっけ…。
よだれ掛けに…入れる?
そう、この袋に入れるんだ!
肉球をかざして…袋に入れてください!ってお願いすればちゃんとしまえる。
ふふん、我は器用な猫なのだ。
§
宿屋の廊下でルノムと遭遇。
「我、土産を…」と言おうと思ったら、ルノムが先に声をかけてきた。
「おかえり。あれ…猫吉先生、またずいぶんと汚れたな」
ガーン。
嘘だ…そんなに汚れていない…はず。
「そ、そうかな…。ちょっと今日は色んな所に行ったから…かな…うん…」
「ちょうどいい、先生も一緒に風呂へ行こう」
「げにゃ!」
我は…我は水が大嫌いなんだ!
もう思い出せないけど…絶対に水に浸かってはダメだって事はわかる。
顔を押さえられたら…息ができなくなるではないか!
風呂は嫌だ風呂は嫌だ風呂は嫌だ…一生懸命ゆっくり歩いていたのに、さっさと抱き上げられてシャワーの下におろされた。
そんなに汚れていないのに…。
桶にお湯を沢山入れて、その中に有無を言わさず入れられる。
水は恐い。
ルノムは首をしっかり持って、我の顔にお湯がかからないようにしながら、体を洗ってくれる。
水は恐い。
すっごく汚れているって言って、ルノムは何度も何度もお湯を替えてはその中に我を入れるんだ。
もう、我、無の境地。
もっと恐怖の時間はその後にやってきた。
ルノムが顔にお湯をかけ始めた。
必死に抵抗しようと思うけど、顔をそむけるので精一杯。
必死にプイプイしていると、ルノムが笑う。
酷い。
ルノムが酷いんだ。
ぎゅっと目を瞑って耐えていたら、いつの間にかタオルにくるまれていた。
全身の力が抜ける。
今日を生き抜いた!
我、風呂に勝ったんだ!
お水を飲んだら、タオルドライをしてもらう。
気持ちいい、気持ちいい。
尻尾が勝手にゆらゆらする。
うっとりしていたら、ルノムの横に酒の箱を発見。
新しい箱!
§
たらふく飲んでたらふく食べた。
なんでか知らないけれど、我、食べ過ぎると体がすっごく伸びる。
身長が伸びたのかも?って期待したけど、違う。
次の日には元に戻ってるんだ…。
我は昔の…栄養失調っていうのが原因で体がすっごく小さいらしい。
もう少し、大きくなれたら、ルノムの役にもっと立てるかもしれないのに。
もっと食べてもっと伸びたら、身長が伸びる?
あ…しまった。風呂のせいで土産の話をするの、忘れていたじゃないか!
風呂は記憶も無くすんだ。
恐い、恐い。
「我、ルノムに土産を持ってきたんだった」
§
「これは…凄いな」
「凄かろう。土産だぞ」
翌日、我の土産にポカーンとしているルノムを見上げる。
ふふん、凄く良い匂いだろう?匂いがそっくりだろう?
…あれ?ルノムが何も言わない。こんなに同じ匂いがするのに。ルノムにはわからないのか?
「猫吉先生、これ…一体どうしたんだ?」
「我が狩ったんだ。ルノムが言ってた豚肉。匂いが似てるぞ」
「そ、そうか…すごいな。猫吉先生、ありがとうな」
頭を沢山撫でてくれる。
嬉しい、嬉しい。尻尾がゆらゆらしてしまう。
我、ルノムの役に立てたかな?
誤字報告、ありがとうございます!




