【閑話】我は猫吉先生
閑話、追加します。
少し悲しい部分もありますが、猫吉先生目線のお話です。
よろしくお願いします!
我は猫吉先生。
今はもう覚えていないけれど、最初に産まれてから暫くは大変だったんだと思う。
虐め。みんなが言う所の虐待ってやつをいっぱいされていたから。
あの時…ボロボロになった我は、死に場所を求めて空き家に忍び込んだ。
蹴られて耳がよく聞こえなくなっていたから、気付かなかった。
頭を強く打ち付けられて、なんせ見えてるほうの目もぼんやりしてたから。
空き家だと思った家…空き家じゃなかった。
その家の家主さんはおばあさんで、あまり布団から出てこない。それも相まって、人の気配がしなかったし気付かなかった。我は猫、失格なのだ。
おばあさんは我がそれまでに出会った人間の中では、ダントツに親切な人だった。自分も生い先が短いし寝たきりだから、家に住み着いちゃった猫がいるけど飼ってやれないって、猫の保護センターに電話したんだからな。
そういう話はルノムのお家に行ってから、ルノムの家族が夜な夜な話をしているのを聞いたから知ったんだ。
瀕死の我の話、ルノムのお母さんは話をしながら泣いていた。
ルノムのお父さんは静かに怒っていた。
自分の事で誰かが泣いたり怒ったりしてくれたの、嬉しかった…。
二人はルノムには伝えない事にしようって決めたんだ。
我もそう思った。それが良い。ルノムは知らなくて恐ろしい世界の話。
それからはルノムの側で余生を過ごさせてもらった。
ちなみに我の喋り方は、ルノムが子供の頃大好きだったアニメ主人公の口調である。
…ずっと一緒にテレビを観ていたらこうなってしまったのだから仕方がない。
ここにシュタッと参上なりぃ!なのだ。
とにもかくにもルノムの匂いは良い匂い。
お家に行ってから三日は我慢したけれど、どうしても我慢できなかった。
もう、よたよたとしか歩けなかった。我は痛い足と感覚のない足を交互に動かして…一生懸命動かして、今日も今日とてルノムの膝の上によじ登る。
まるで誂えたかのように、我にぴったり。
ルノムの膝の上、ここが我の場所。
帰るべき場所。
ただいまとおかえりの場所。
我の、おうち。
§
それからは幸せしかなかった。
ルノムは良い匂いがしてとっても優しいんだ。ルノムが我の頭を一つ撫でるごとに、辛い過去が一つづつ消えていく。
これはアニメで観た事があるから知っている!
魔法っていうの。
そう、ルノムは魔法使いなんだ。
でも…そんなルノムと我は長くは一緒にいられなかった。
もっともっと一緒にいたかったな。
膝によじ登って、ただいまって言ったり、おかえりって言ったり、それでそれで…いっぱい頭を撫でて貰うんだ…そうやってずっとずっとルノムの膝の上で生きていたかった。
我は死期を悟り、最期の力を振り絞って一生懸命ルノムに「そろそろお迎えが来る。いっぱいありがとう」って言った。
我の言葉に少し驚いていたけれど、ルノムは「僕の方こそ…うちに来てくれてありがとう」って言いながら、優しく優しく頭を撫でてくれた。いつだってルノムの魔法の手は、我の古傷のうずきを消してくれる。
そうしてルノムの腕の中で…我の生涯は終わった。
§
我は妖怪猫又の猫吉先生。
ルノムが創作したグルメ猫キャラである。
ルノムは熟考の末、我の尻尾をフッサフサに生まれ変わらせた。
立派な尻尾が二本もあるんだぞ!ステキだ。
どうやらそういう妖怪猫がいるらしい。
何でも食べて飲めないとキャラとしては困るからだって。
我は喜んで妖怪猫キャラになった。
小さなルノムの元を去ってから、ずいぶんと長い間、眠っていたみたいだ。
お迎えが来たってわかったのに…あれはお迎えじゃなかったのかもしれない。
よく、わからない…。
突然、ルノムの姿が目の前に浮かび上がった。
大人になったルノム。
でも、匂いは同じ。こんなの、すぐにわかるに決まっている!
ルノムの匂いがして、声が聞こえて…嬉しくて嬉しくて、一生懸命に姿を追っていた。
ただ、見ているだけで嬉しくなる。我の大事な大事な主人。
でも、暫くするとまた真っ暗闇になってしまう。
それの繰り返しだった。
そうやって…長い、長い時間、我はずっとルノムを見守った。
ある時、暗闇にいつもとは違う光が差す。光は我の体を包む。
ルノムが見える時とは違う、何か、強い、光。
でも…あまりに光が強すぎて、なんにも見えない。
少しだけ、みかんの匂いがした。
「猫よ…ルノムが死におった」
「嘘だ!あんなに、あんなに元気いっぱいなのに」
「そうだな。魂も元気いっぱいであったぞ」
「嘘だ…嘘だよ…死んじゃうなんて…」
「なぁ…猫よ。生みの親が死ぬと猫も死ぬんじゃ。それは理解しておるか?」
「うん、わかってるぞ。だって…今の我はルノムが創作したものだからな」
「そうかそうか。猫よ…ルノムと共にいきたいか?」
「もちろんだ!我はルノムが大好きだから」
「あぁ…猫、お主はなかなかに良いの…。我の側に来るか?って、違う違う。いかんいかん。よし…こうして…こうして…いひ、いひひ…ルノムへの贈り物じゃから、ちょいと豪華にな…。良いか猫よ、ルノムをしっかり守るんじゃぞ?」
「わかった!我、ルノムを守るよ!」
「ふむ…素直な猫よ、気に入った気に入った。どれ、一つだけ望みを叶えてやろう。ワシに何かを願ってみよ」
「願い?そんなの決まっている!これからはルノムとずっとずっと一緒にいさせて欲しい!」
「ふふ…そうか…。まっこと良き魂の猫には、特別に…これで良きかな。猫よ、これからもルノムと一緒に生きるんじゃ」
「わかった!天国へでも地獄へでも連れて行ってくれ!あれ…生きる?」
「そう…行くがよいぞ!新しい世界へ…ルノ…守…」
また突然真っ暗闇になって…ピシリと音がした。そうしたら体が何かに挟まって動けなくなったんだ。
なんで…全く動けない?
なんだろうこれは。
ザザザ…と、暗闇に耳障りな音が響いた。
「(ザザザ…)猫…猫よ…き、聞こえるかの?すっかり忘れておったわ。ワシも年じゃのぅ…。ルノムがの…猫の事を思い出さねば、その暗闇からは出られぬからの。やばいのぅ…これ、完全に倫理違反じゃなかろうか…この声、聞こえておらんかもしれん…どうしようどうしよう…やってしもうた…」
「ぎにゃ!そんにゃ…」
「まぁ…猫の事は、ルノムはそれはそれは大切に思っておったからの。大丈夫じゃろうて…たぶん…(ザザザ…)」
それからずっと暗闇でルノムを待った。
待って待って待って待ってー―
泣き疲れて眠って起きて、それでもずっと暗闇の中。
全く動けない。
もう、じっと、じっと、ここに居るだけ。
このまま、ここで、ずっとずっと、暗い暗い闇の中の闇。
何千回目かなんて、もう数えられないくらいのため息をついた時…光、いや、ルノムの姿がじんわりと見えてきた。
なにやら…酒の事を考えている…我の…我の事は何故考えない?
「ルノム!お願い!思い出して…我の事…我の…『猫吉先生…天国はどうだ?俺がそっちに行ったら…また会ってくれるか?』」
ルノム!!!
体が急に熱くなる…何かが体中を駆け巡る。
目の前が、
――くるくるくるくる
ハッと気付くと我の横にはルノム。
本物の、本物のルノム。
「遅い遅い遅ーい!我、すっごく待った!」
もっと違う事を言うつもりだった。
なんで…なんで我は文句ばっかりの言葉しか…。
本当は…一番最初にこう言いたかったんだ。
――ルノム、ただいま!
猫吉先生が毎晩夢に出てくるので、勢いで書いてしまいました…
ネズミと戦う先生も…書きたい欲が…ウズウズ




