28.点心と紹興酒
どうしても猫吉先生に乗ってお散歩してみたい…。
俺達は町の外で採取の依頼をこなしがてら、お散歩の第一歩、猫乗りに挑戦中。
「先生…無理だって。そんなに大きな背中にどうやって登れば良いんだよ!」
「にゃ!そ、そうだな。伏せるか…いや、まずは中くらいになって…これでどうだ?」
「よし、乗った!」
「それではいくぞ!」
「うわっ、げ!急にでっかくなられても…待ってくれ!ちょいとここの毛を掴んで良いか?嫌?じゃ、ここは?」
「魔具を取り付けたベルトを掴めば良い」
「でも先生がこれ以上大きくなったら、手が届かなくなっちまうって」
と、まぁ…こんな感じのやり取りがあった後、諦めてしょんぼりと採取をこなす。
鞍があったら乗れるだろうか?乗馬なんて、一度もした事ないけれど…。
§
「そうですかそうですか、威嚇の増幅ですか。それは素晴らしいですなぁ」
どうしてもライドオン猫吉先生を諦めきれない俺は、その足で装飾品店へと来ていた。
店主が宝石が先生と共鳴したように鈍く光った話を詳しく聞きたがったので、俺もついつい猫吉先生の活躍を面白おかしく話してしまう。
「もともとの威嚇の力が強かったのでしょう。魔法付与はあくまで補助ですから」
宝石を買った時は、商売上手だと思ったが撤回する。店主よ、ここ、もっと魔法付与品を売りつけても良いタイミングだと思うぞ。
いかんいかん、先生賛歌をしに来た訳ではない。
魔具のベルトを作った職人を紹介して貰いに来たんだった。
人の良い店主は、取引先の職人がいる店を教えてくれて、自分の名前を出して貰っても構わないとまで言ってくれた。
「面白いオーダー品になりそうですし、無下に扱われる事はないと思いますよ」
「そうだと良いんだがな。どうもありがとう!」
「いえいえ、こちらこそ。自ら魔法を付与した装飾品が、実際どのような場面でどう作用したのか、お伺いできる機会は意外と少ないのです。楽しいお話をありがとうございました」
先生自慢をした俺、ギルドへ寄って依頼完了報告をしていたら、時間も時間になってしまった。ベルトを作っている職人を訪問するのは明日にしようと決め、向かうは金物屋。
金物屋の店主から、隣村、ファタイルにある食堂からも、すりおろし器やへら、鉄板なんかの注文が入っているという話を聞いた。
トロンジョの町から3時間ほどの距離の村だ。ここらへんで取れるトロンジョは、もちろんファタイルでも食べられているのだろう。そう言えば、ファタイルでは食堂に行かなかったな。
とろんじょのお好み焼き、どんどん広まりを見せているようだ。
食堂ズ、トロンジョのお好み焼きをメジャーな食べ物に押し上げてくれ。
そんな人任せの野望を胸に抱く俺の胸には、蚊取り線香のような蒸し台。
ちなみに何故、この形状なのかと言えば、実家にあった蒸し台がこの形で、それ以外の蒸し台を知らないからだ。ちなみに正式名称も知らない。もっとシンプルなものがありそうだが、知らないものは仕方がない。
さて、手元に蒸し台があるという事は…中華が続いてしまうがこれも仕方がない。
昨日食った餃子とラーメンを思い出す。
いや…本場中国の餃子は、水餃子と蒸し餃子が主流だというからセーフだ。俺理論ではこれはセーフなのである。
と、いう訳で、夕食は点心に決定する。
猫乗り決起集会だ!
§
神奈川県・富貴樓/点心セット(6種):銀貨8枚
なるべく蒸し物が多い点心セットを選んだ結果、なんとちまきまで付いてくるセットをゲット。米だ米。そんな事を思って画面を見ていると、『ご購入の方はこちらも見ています』という、サイト内下部に思わず目が行ってしまう。
中国(輸入)・富貴樓/万事如意(12年陳醸500ml):銀貨6枚
――ごくり
良いかな…良いよな。だって決起集会だから。
さて、今回も冷凍のままの調理だから、解凍せずにそのままの購入となる。
点心セットの中身は…小籠包・帆立焼売・ふかひれ茶碗蒸し・ちまき・肉まん・桃まん、以上だ。桃まん、先生が喜びそうだな…。
俺は早速鍋を簡易せいろに見立てて、点心を蒸す事にした。
三本足の蒸し台を水を張った鍋に入れてコンロに火をつける。
皿にキャベツの葉を一枚敷く。その上に小籠包と帆立焼売をお互いが引っ付かないように慎重に。皿を鍋の中の蒸し台の上にそっと置き、洗いざらしの布に鍋蓋を包んで蓋をした。
ここの点心の目玉はふかひれ茶碗蒸しと言っても過言ではない。それくらい、この茶碗蒸しは美味いのだ。
しかも買ってから気付いたが、素敵な陶器の容器に入っているではないか!
これ、すげぇ良いなぁ…酒を飲むのにぴったりじゃないか。
酒と言えば、目の前に鎮座ましますは紹興酒。
もちろん常温ストレートで先生と一献。
決起集会だぞ!これからのライドオン作戦を二人して練りながら、とろんとしたまろやかな琥珀色を楽しむ。
もちろんものによって違うが、俺は、12年か15年が好みだな。
30年陳醸とかになってくると、何故か正座しないといけないような気分になるんだよ。
お前が飲むのは100年早い、と言われているような気分になるというか…。
たまになら良いけれど、普段飲みには気軽に飲めて、酸味がまろやかになってきたあたりの、12年や15年が俺には丁度いい。
その昔、ヴィンテージワインのとんでもないやつを飲んだことがあるが、あの時も正座したくなった。身の丈に合わない熟成酒は、俺のような若造を後ろめたくさせるにあまりある歴史を背負っているって事なんだろうな。おこちゃま舌のいい訳じゃないぞ。
さて…そろそろ良いだろうか。小籠包、さすがにこれは熱すぎるだろう。先生の皿に乗せ、上部を開いて少し冷ます事にする。
先生は帆立がマルっと入っている焼売にいたくご執心なようなので、そちらを先に食べて貰う。
俺は小籠包からいただきます。
スープを一滴たりともこぼさないよう、モチモチの小籠包にチュウっと吸い付いた。
――じゅわ~
肉の旨味で胃袋が、もっとくれ!ワンモア肉汁!と歓喜の声をあげている。
半分ほどスープを吸ったあと一気に口に放り込んだ。
横で先生が俺の帆立焼売を凝視している。
仕方ないなぁ…俺の分を進呈しよう。
次の皿を用意。キャベツを敷いて肉まんを。その横にはふかひれ茶碗蒸しを。
先生と紹興酒をまた一杯。
桃まんはすべて猫吉先生の胃袋に収まり、にぎやかに異世界の夜は更けていく。
§
装飾品店の店主から、魔具を取り付けるのに使っている、体の伸縮に対応できるベルトを作っている職人を紹介して貰い、そこで馬具のように先生の背中に取り付けられるシートを相談した。そしてそれはどんどん改良され…。
職人の苦節、数週間。職人の汗と涙と、先生が稼いだ黒金貨の結晶、猫吉先生騎乗用ベストが誕生した。
猫吉先生、何故か得意げに小さな胸を膨らませてベストを装着してもらっている。
ベストとよだれ掛けの色合いやセンスが妙にマッチしているのは…わざとか?
職人さんよ、笑いすぎだ。
背中部分は俺専用の鞍が乗せられる仕組み。もちろん取っ手と足置き付き。さらには自動洗浄付き。
最終的にはほぼ全財産つぎ込んだ形になってしまったが、後悔はしていない。ほぼ、俺の稼いだ金じゃないけどな。
とうとう町の外での試乗の日となった。
職人の工房では調整の為、何度も背に跨ってもいるが、外で乗るというのはまた違う感動がある。
1mほどの先生に鞍を装着し、足を付けたまま跨る。
取っ手を握り、先生に合図した。
俺を気遣ってゆっくりゆっくり体を巨大化させる先生。
そのまま3mの猫吉先生の背中に――
「の、乗れたー--!」
「にゃー--ん!」
「先生、外で乗ると景色が格別だ!ひゃー、気分良いわー!」
「凄かろう?」
「凄すぎだよ!ほら、少し歩いてみてくれ」
「ふふん、行くぞ」
巨大化しているのに猫だからだろうか、結構なスピードだというのにまったく足音がしない。揺れ…ない!
どうよ…このお尻に優しい感じ…。
――てとてと
――てとてと
「なぁ、重くないか?」
「まったく重くないぞ!」
「そうか。どこか…痛かったり苦しかったりするところはないか?」
「ふむ…今のところはないみたいだな」
「そうか。…これ、すっげぇ楽しいよ、猫吉先生!」
「我も!我も楽しい!」
二人であははうふふして町の周りをぐるりと散策。
図に乗った俺達は、明日、試しに隣村のファタイルまで行ってみる事に決めた。
虐待じゃないからな。先生がどうしてもって言うから、仕方なくだぞ…




