27.餃子とラーメンとタブレットの新機能
猫吉先生はまだ異世界満喫中のようだ。俺は胸元のタグの黒い石に変化がない事を確認してから、ギルドの資料室を出る。
さて…本日の夕飯はどうしようかな。お好み焼きの屋台で儲けがでたから、『猫吉楽食便』でお取り寄せグルメといくか。
宿に戻ってしばし休憩。コップに少しだけ水を入れ、以前買っておいたアグロマート製法の水で作れるインスタントコーヒーを一本投入。コップをくるくる回して水に溶かしてから、氷を入れてさらにくるくると回す。
最後にたっぷり水を注ぎ入れて…アイスコーヒーも美味い。
アイスコーヒー片手に、ベッドに腰をかけゆったりした気分でタブレットを開いた。
なんだか俺、日本に居た時よりずいぶんと優雅な生活じゃないか?
§
“餃子”という文字を見た瞬間から決めていました!付き合ってください!
訳の分からない事を呟きながらポチる。
群馬県・オハキ堂/雷風餃子(40個):銀貨5枚、銅貨5枚
ここの餃子も御多分に洩れず、冷凍のまま焼くタイプ。
例の『解凍処理をしてお届け:YES/NO』がちゃんと出てこない。やるな。
餃子と言えばラーメンも食べたいな…棒ラーメンのセットがあったはずだ。
福岡県・アーニョ食品/棒ラーメン(とんこつ、味噌とんこつ、魚介、各10袋):銀貨4枚、銅貨8枚
ん?これって…一食換算すると、もの凄い低コストじゃないか。
合計金額でばかり考えていたけれど棒ラーメン、お得だ…。
異世界でラーメン屋台…一瞬考えなくもなかったが、この世界にないものだろう。
安易に転売ヤーとなる事にはやはり気が乗らない。残念だが諦めよう。色々ギリギリになるまではな。
なんで今まで気が付かなかったんだろう…
§
気付かなかったと言えば…
タブレットの右上。
『猫吉楽食便』の枠外…普通のタブレットやスマホでいう所の、Wi-Fiマークや充電残量マークが出るあたりに、俺の名前と猫吉先生の名前が表示されている。
気付かなかったというより、今まではこんなもの、なかった…と、思う。たぶん。
そもそもこのタブレットは俺にしか見えないし、わざわざ名前を表示させる意味もないじゃないか。
でも、猫吉先生の名前も表示されているのは気になるな…。
無意識に『猫吉先生』と表示された文字を指でなぞった。
妖怪猫又♂
魔力量:∞
属性:全
魔法/スキル:威嚇、俊足、悪食、魔眼、魅獲、口砲
加護/称号:女神の加護、女神の使徒の愛猫、授けられし英知、授けられし剛力
これは…ステータス画面…だよな?
でもなぜ、俺が猫吉先生のステータスが見られるんだ?
先生は従魔でもなんでもないぜ?
右上の自分の名前もクリックしてみる。
人族人間♂
魔力量:∞
属性:全
魔法/スキル:生活魔法、鑑定、結界、▲#@$?
加護/称号:女神の加護、女神の使徒、猫又の守護
ステータス画面という事だろうなぁ…。
それにしても俺も先生も魔力量∞って…。
魔力無限に全属性って…全属性ってどんな属性があるのかも知らないけどさぁ…。
あのコスプレ女児、何してんだよ!
“命大事に”がモットーの俺に何してくれてんだよ!
絶対にヤバそうじゃないか…泣くぞ。
泣きながら、もう一度先生のステータスを見る。
魔眼とか魅獲とか口砲とか…訳のわからん魔法だかスキルだかが羅列している。
また自分のステータスに戻る。
全属性っていう割に使える魔法、少ないな…特に俺。
文字化けしているのは、恐らくこのタブレットか『猫吉楽食便』の事だろう。
でも…全属性とか言って、この世界の魔法属性が二つだけ、なんて事もあり得るから、何とも言えないよな。
加護/称号ってのも、文字づらでは理解できるが、実際の所はよくわからない。
これがあると何かメリットがあるのだろうか。
加護って言われると、お守り的な感じがするし、称号って言われると名誉って感じもする。全て俺が思っているだけだけど。
女神か…女神って?
心当たりがあるとすれば、あのコスプレ女児なんだが…。
まさかなぁ。
こたつでみかん食ってる女神とか、ないよな?
ないよな。
勝手に女神の使徒にされているらしい俺の困惑ったらないぞ?
でも、先生のステータスに女神の使徒の愛猫ってあるから許してやろう。これ、猫吉先生が俺の愛猫だって事だろう?
猫又の守護は…先生、だよな?
これはなんか嬉しい。加護だか称号だか知らんが、嬉しい。
はぁぁ…。
ツッコミどころ満載過ぎて疲れました…。
うん、餃子食って現実逃避…異世界逃避しよう。
§
猫吉先生が帰ってきた。
安定の汚さ。ここまで汚れるとは、どこで何をしたんだか…。
水を飲ませてから、有無を言わさず風呂へと連れていく。
桶に張ったお湯の中に浸かっている先生が、心なしかリラックスして見える。
「猫吉先生、お湯は気持ちいいか?」
桶の縁に顎を乗せて目を瞑っている先生に聞いてみた。
「き、気持ちよくなんてないぞ。水は嫌いだからな!」
「そうか」
あの顔…間違いない。明らかに水嫌いが克服されつつある…ような気がする。
そんなこと言ったら、意固地になりそうだから黙っているけれど。
風呂上がりに水分補給しながら、無音ドライヤー(俺)で先生をしっかり乾かして、入念に毛のお手入れ。あっという間にピカピカ先生の完成だ。
冷たいビールをリュックサックから出して先生と半分こする。
先生は飲み終わると、ベッドの上でいつものようにタオルケットにくるまって一休みだ。
さて、俺は餃子を焼きますよ。
フライパンに油をたっぷり引いて、餃子を風車型に並べる。
テフロン加工のフライパンなら油が不要なのだが、ここではそうはいかない。
後片付けの事を考えて油はたっぷりと使う。
コンロを中火くらいに調節し、水を既定の分量入れて蓋を閉めた。
蒸し焼きにして7分ほど。
その間に付属のタレを小皿へと入れる。
山椒は要らないと言われたが、ラー油は要るそうだ。
いつも酸っぱいのは要らないと言っていたのに、この酢醤油は要るそうだ。
先生の線引きが、俺には全くわからない。
蓋を開けて、まだぶくぶくとしている水分をとばす。
気付けば先生が俺の横でスタンバイ。
羽が綺麗に薄茶に色づいた頃、水分もいい塩梅に蒸発していた。
フライパン側に張り付いた数個の餃子をそげ落として、救済。
「「いただきます!」」
モチっとした皮の餃子を一口。
ビールを一口。
パリパリの羽を付けた餃子を一口。
ビールを一口。
肉汁ジューシーな餃子を一口。
ビールを一口。
もう、無限餃子。
無限…またステータスの事を思い出してしまった。
§
餃子を食べながら、棒ラーメン作りに取りかかる。
安くなっていた野菜とビッグマウスの肉をさっと炒めた後、水と粉末スープを入れて煮込む。付属の粉末はとんこつと味噌とんこつと魚介。数秒迷って、とんこつに決めた。
野菜の嵩が半量になった頃、棒ラーメンを投入する。
スープと茹で水を分けたりしない、ワイルドな俺。
コンロが一つだから、とも言うし、フライパン一つで終わらせたいから、とも言う。
茹で時間3分とあるが、俺は2分で火を止めるタイプだ。
棒ラーメン、のびるのが早いからな(俺調べ)。
皿に入れたりしている間にも、のびとの戦いは始まっているのだ。
野菜たっぷりとんこつ棒ラーメン。
ビッグマウスの肉と、とんこつスープが見事にマッチした一品だ。
俺はスープまでも一滴残らず飲み干した。
…血圧の事は明日から考えよう。




