18.ギルマス氏
俺はいつもの定位置に猫吉先生を乗せてギルドへ向かう。
買い取りと解体の札のかかるカウンターへと並んだ。
受付のお兄さんに話をしたら、何故かあれよあれよとギルドの応接室へと通される。
部屋に入ってきたのはギルドマスターと呼ばれているおじさんだった。可愛い耳と尻尾付きだけど、いかつくてむさ苦しくて全然可愛くない。
それはさておき…なんでこうなった?
「お前らがビッグマウスを討伐しただって?」
開口一番の声もいかつい。
「はい。私ではないんですが…従魔が昨日狩ってきました」
いかついマスター職だぞ、しかも日本での俺の年齢くらいのおじさん。
それに比べて俺はハッスルしちゃうのかもしれない弱冠二十歳。
思わず、ですます調。
「すまない。ちょいと驚いてがっついちまった。俺はこのギルドでギルマスをしているハイドってもんだ、宜しくな」
「俺はルノムです。宜しくお願いします」
何を宜しくお願いするのか全くわからないが、元ジャパニーズサラリーマンのさがで無意識でお願いしますとレスポンスする、おじさんの悲哀を刮目せよ。
「一匹で殺ったのか?従魔ってのは…その子か?」
「にゃーん(そうだぞ、我がやっつけたんだ!)」
「こいつが自分で狩ったらしいです」
「一昨日、町から少し離れたところでビッグマウスの群れが目撃されたという知らせが入ってな。偵察を出した方が良いんじゃないかという話を、ちょうどしていたところだったんだ。そうか…。なぁ…狩った場所なんて、わからないよな?」
俺は猫吉先生に聞いてみる。
「門を抜けた川向うの…森の中に少し開けたところがあって、さらにそこから東に向かって暫く走ったあたりで狩ってきたらしいです。ええと…すごく大きな丸っこい岩がたくさんあったって言っています」
「…君ら、意思の疎通がすいぶんとスムーズだな。もしや…凄いテイマーだったりするのか?」
「いえ、真契約で…俺はテイマーじゃありません。あの…ビッグマウスというのは強い魔獣なんですか?」
「え?知らないのか。この従魔の主…なんだろ?ええと…ルノムは冒険者なんだよな?」
「ギルドカードを持って旅をしていますが、冒険者ではありません」
「そ、そうなのか。俺はてっきり…ビッグマウスはCランクだが、集団になるとBランクになる魔獣なんだ。もちろん凄く強い。しかも群れで行動すると、何故か個体の性質が荒くなるから危険なんだ。一気に町に押し入られでもしたら、こっちも無傷ではすまないだろうよ」
「そうなんですか…」
魔獣のランクなんてわからないが、ここらへんでお目にかかる魔獣としては、なかなかやっかいな奴らだったらしい。
資料室の魔獣系資料、他に読み込んでおきたい資料が多かったもので、パラパラとしか見ていなかった。こんなに初っ端から魔獣と関わる事になるなんて考えてもいなかったからだ。
魔獣がランクで分かれているのはちらりと見た資料で知ってはいたけれど…この町周辺に出る魔獣くらいは押さえておくべきだったかもしれない。これではリサーチャー失格だな。
この町を出るまでに、ある程度は魔獣の事もキチンと押さえておこう。
「いや、知らずに討伐してくれたとは言え、本当に助かった。礼を言う」
「にゃん(かまわん)」
猫吉先生のタイミングの良い鳴き声に、ハイドさんの頬が緩む。
「そうそう、討伐は依頼が出ていないとは言え、町の治安維持に貢献してくれたのは間違いない。よって今回の解体代金は全額免除だ」
「え!良いんですか?ありがとうございます」
「いやいや、礼を言うのはこっちさ。それとな、ルノムのギルドランクが上がるから、受付にギルドタグを出して処理してもらってくれ」
「ランクが上がるのですか?俺は何もしていないのですが…」
「従魔の手柄は主人…飼い主の手柄になるんだよ。戦闘系の従魔を従えてランクをあげるテイマーもいるから、気にしなくて良いぞ」
「そうなんですか。…わかりました」
「素材はいくつか依頼がかかっていたからな、依頼達成の金の話は受付で聞いてくれ。ただ数が多いからな。二日後に来てもらえれば、素材別に仕分けも終えて査定額が出ているだろう。可食部位もその時に渡せるから」
「はい、わかりました」
猫吉先生が飽きてきたのか、もぞもぞと膝の上でへんな動きをし始める。
ハイドさんはその姿を見て、話を切り上げた。
応接室を出る際に、ピースサインのように右手を出して、指を折り曲げたり伸ばしたりしながら忠告してきた。
「見た目もすごく珍しいし、恐ろしく強い。変な奴らに狙われないように気をつけろよ」
ねずみフラグを立てた身である事は棚に上げまくって言いたい。
ギルマス氏、変なフラグを立てないで欲しいでござる。




