エレナさんの精神世界
「3対3ってことは、襲ってくる天使は3体ってことだよね」
突然、カルデラも訳の分からないことを言い出した。
「ええっ? 今の話だけで、天使が襲って来るって分かるの?」
「パンドラが、テンヤイバーを醸成するための地であるジークガルトの守護天使である私を狙っていたのは、知ってたし。
チカガータを追放する時に、後2匹ほど腰ぎんちゃくの上級天使が暗躍していたからね。
その3匹で決まりでしょ」
「カルデラ、なんでそんなに詳しいの?」
「あんたが、政治に無関心すぎるんだよ。
まあでも、そういう活動一切なしで大天使になってしまう二人がいたから、あいつらの野望は潰えたんだけどね。
どうせまた、テンヤイバーを復活させて、もう一度クーデターを狙ってるんでしょ」
「敵の正体まで分かってるんだ。
しかも、大魔王を復活させようとしていることまで。
すごいじゃない」
「凄いのは、アンタの方だよ。
多分、大魔王を倒せるのはアンタだけだろうからね。
絶対に、この世界にアンタが転生したのは偶然じゃ無いよ」
呆れたように言われてしまう。
とにかくよく分からないが、メドインさんにエレナさんを診てもらうことにした。
「うーん、これは生きるための気力を失っているね」
エレナさんを一目見て、精霊メドインさんが言った。
「どうすれば、生きるための気力を取り戻してくれるんですか?」
一生懸命に聞く。
「オムニスが言ってただろ。
この娘の精神を3つの鎖が縛っている」
「3つの鎖?」
「1つは、強力な悪魔の呪いのせいで、精神が汚染されている。
2つめは、彼女の魂を食べようと狙っている精霊たち。
最後に、この娘自身が諦めていることだね」
「最後のは分かるんですけど、最初の二つが意味不明なんですけど」
「まず、精神の汚染は、アタシが浄化してあげるよ。
でも、その瞬間、この娘の魂は無防備になる。
無数の精霊たちが、群がって来るよ。
それを排除しないといけない」
「具体的には、何をすればよいんですか?」
「呪いの浄化と同時にこの娘の精神世界に入って行って、群がる精霊を跳ね除ける。
そして、この娘の魂と一緒に帰って来れば完了さ」
「全然分かりません」
「そうだろうね。
とにかく精神の浄化を始めよう。
浄化出来たら、みんなで精神世界に入っていくよ」
メドインさんが、エレナさんのおでこに手を置く。
メドインさんの手から、紫色の湯気のようなものがモクモクと湧き上がる。
数分後にメドインさんが、静かに話し始める。
「魂の浄化が出来た。
この娘の魂の周りの障壁も無くなったから、魑魅魍魎が集まって来るよ」
パッと風景が切り替わる。
さっきまでの普通の部屋から、無機質の何もない空間に転移した。
目の前に扉が一つだけあり、メドインさん、オムニスさん、ベルエスさん、カルデラ、私の4人が立っている。
「第一波が来ます」
メドインさんの言葉と同時に、無数の深海魚のような生き物がこちらに向かって泳いでくる。
空中を漂ってくるのだろうか?
カルデラが、火炎魔法で焼き払っていく。
「精霊界の中とはいえ、やはり中位までの精霊たちでは、このメンバーの守りを超えることは出来ませんね」
オムニスさんが、感心したように言う。
次は、無数の人型の精霊が歩いてくる。
同じようにカルデラが火炎魔法を発するが、燃え尽きない。
炎の中を、燃えながらただただ歩いてくる。
「流石に上位精霊ともなると、守護天使の魔法も効かないのですね」
オムニスさんの頭にセットされた鏡が光を放つと、その上位精霊とやらは煙のように蒸発していく。
「精霊が狙って来るとかいうから警戒したけど、余裕だね」
軽く言ってみたけど、オムニスさんが膝をつく。
どうやら限界みたいだ。
メドインさんが、扉を指さして言う。
「この扉を開けたら、この娘の魂が中で眠っていると思う。
針の穴を通すような選択を集中してやり続けて、成功させ続けたんだろうね。
信じられないような経験値を得て、人間と思えないような成長をしているよ。
多分、ドアを開けたら高位の魂の持つエネルギーが、とんでもないものを引き寄せるよ。
周囲の悪魔や、カルデラさんを狙う天使とかもこの世界に入ってくるだろうね」
私は、ドアを開けて言う。
「では、みなさん、行きましょう」
「いや、多分ドアが開いて見えているのはチカガータだけだよ」
カルデラが言う。
「ええっ? どういうこと?」
「この娘が自分の心の中に入るのを許すのは、お前さんだけなんだろうよ。
アタシたちがドアの外を守っておいてあげるから、一人で行ってきな」
メドインさんに言われて、私は一人でドアの向こうに踏み込んだ。
変なものを引き寄せないようにと、どれだけ効果があるのかは分からないけどドアを閉じる。
ドアを閉じると真っ暗だ。
床も壁も、ヌルヌルした感じだ。
これは、見えない方が助かるかも知れない。
「クララ様。
私が、私が頑張って生き抜いている時間だけ、クララ様が迷宮に入る時間を遅らせることが出来る。
絶対に死ねない。
絶対に時間を稼ぐ」
私は、つぶやく声がする方に進んでいく。
何も見えないけど、人の気配がする。
地面に跪いて、声のする方に手をかざす。
人の顔に触った気がする。
「エレナさん。ありがとう。
おかげで、私は生きているよ」
「えっ? クララ様?」
エレナさんの魂が目を開けた。
この世界に、薄っすらと光が射す。
赤黒い泥だらけの世界だ。
泥にまみれたエレナさんの魂が見える。
「エレナさん。
エレナさんが頑張ってくれたから、私は無事だよ」
エレナさんの上半身を起こして、抱きかかえるようにして言う。
「クララ様、私はもうダメです。
力が入りません。
でも、クララ様が助かってよかった。
もう思い残すこともありません。ウフフフ」
エレナさんが嬉しそうに微笑む。
「ダメだよ、エレナさん。
私がここまで頑張って来れたのは、エレナさんがいつも側にいてくれたからだよ。
エレナさんがいない世界で、私に一人で生きていけって言うの?」
「クララ様、もったいないお言葉です。
こんな汚れてしまった私など捨てて、明日に向かって歩いて行ってください」
「いやだよ!
エレナさんのいない世界なんて、砂糖の入っていないスイーツみたいなものだよ」
私は、ポロポロ涙を流す。
エレナさんの顔の上に、涙がかかる。
「クララ様なら、スイーツを作るのに砂糖が無くても、ハチミツでも水あめでも何でもお使いになるでしょう」
エレナさんが笑いながら言う。
「エレナさん。茶化しているつもりかも知れないけど、ちっとも面白くないよ。
そんな下らないことを言う人は、絶対に連れて帰っちゃうからね!」




