危機に立つ3人
相変わらず、エレナさんは魂が抜けたみたいな状態だ。
勾玉の精霊メドインさんの胡散臭さは、すごかった。
それだけに、何とかなりそうな気もしていた。
単純に藁にもすがりたかっただけかも知れないけど。
色々な経験をして、疲れて帰って来たのに、エレナさんを連れての出発の準備(主に許可をもらうこと)もしなくちゃいけなかった。
思いの外疲労がたまっていたんだろう。
いつの間にか、寝てしまっていた。
「……ガータ、チカガータ」
「その呼び方は……」
寝転がっていた私は、半身を起こす。
「私だよ。カルデラだよ」
霧のように薄っすらと姿が浮かび上がったと思ったら、実体化する。
「夢の中に現れるなんて、急にどうしたの?」
「エレナさんを酷い目に合わせてしまったみたいで……
ごめんね。
夢の中でだけでも、謝っておこうと思って」
「それなんだけど、龍人たちの精霊さんが、エレナさんの魂を呼び戻せるかもしれないんだ。
明日の晩、向こうに連れて行くつもりなんだ」
「それは、良かった。
龍人たちの精霊は、実力は折り紙付きだからね。
きっと上手くいくよ」
カルデラは、安心したように一息つく。
「実力が折り紙付きだったとしたら、気になる予言ももらっちゃったんだけど」
「気になる予言?」
「カルデラ、あんたにとてつもない危機が迫っているって」
「ええっ? 私に?」
カルデラは、予想外の話に心底驚いているようだ。
「そうだよ。あんた、迷宮の中で何か絶対領域の禁呪を破ったらしいよ」
「迷宮の中で絶対領域の禁呪?
チカガータの魔法の封印を解いたくらいしか、思い当たる節は無いんだけど」
「うーん、私の魔法の封印位が、絶対領域どうこうってこと無いでしょう。
何か、それによって派生効果が出たとか何かかな?」
「その、予言した精霊さんに会うことは出来るかな?
実は最近私、肌にヒリヒリ来るような危機感を感じているんだよ」
カルデラが、不安そうに聞いてくる。
「エレナさんを診てもらいに行く時に、呼んだら来てもらえると思うよ。
一緒に行く?」
「いや、最近監視の目っていうか、何か見張られているような感覚があるんだよね。
だから、地下迷宮の中とか、アンタの夢の中でしか実体化できないんだよ。
でも、多分その精霊の聖域内は、神とか天使とかから不可視の領域だと思うから、チカガータが聖域に入った瞬間に、実体化するよ」
さすがカルデラ、慎重さで生き抜いてきた守護天使。
私もアンタを見習って、女子高生に実体化するにしても、もっとバレないようにするべきだったね。
その日、私はリンゴウさんに用意してもらった馬車にエレナさんを乗せて、再び龍人の国に行った。
神官ベルエスさんにお願いして、もう一度勾玉の精霊メドインさんの所へ案内してもらった。
メドインさんのいる聖域に到着すると、目の前に人型の霧が沸き起こる。
霧は、ドンドン濃くなっていき、実体化する。
カルデラだ。
ベルエスさんは、突然の守護天使の登場に驚きが隠せない。
「あ、あなたは一体?」
「驚かせちゃって、ごめんなさい。
私は、カルデラ。
このジークガルトの守護天使で、チカちゃん、というかこのクララのお友達です」
「ジークガルトの守護天使様が、お友達……
一人で試練の迷宮を制覇し、大司祭様の胆力を跳ね除けて気に入られる。
クララ様、あなたは一体何者なのですか?」
ベルエスさんに真顔で聞かれるが、何て答えたらいいんだろう。
迷っていると、目の前に精霊メドインさんがパッと現れた。
「あら、珍しいお客様ね」
カルデラをジロジロと品定めするように、凝視している。
「突然お邪魔して、すみません。
でも、私に危機が訪れているって予言がされたと聞いたので、具体的な話が聞きたいと思いまして」
カルデラが、来訪理由を説明する。
チリン、チリーン
メドインさんが、手に持っていたハンドベルを鳴らす。
「おーい、オムニスー。
アンタにお客さんだよー」
オムニスさんも、瞬間移動のように現れる。
この精霊さん達は、神器が神棚にセットされていれば、聖域のどこにでも一瞬で移動できるそうだ。
「おお、クララ様、エレナ様、カルデラ様。
危機に立つ3人が、ここに勢揃いなされたのですな」
「危機に立つ3人。
言い得て妙な表現だね」
メドインさんが、笑う。
「どういうことですか?」
意味が分からないので、聞いてみる。
オムニスさんが答えてくれる。
「あなた達の危機は、全て3の数字が絡んでいるのです。
まずクララ様。
皇帝の第3夫人フィオリーナ、ハイデルベルク伯爵第3夫人ステラ、モロイン公国大公の3女スカーレット、この3人を排除すれば、あなたの危機は去るでしょう」
「そんな高位の人たちを、排除できるわけ無いじゃ無いですか」
「では、近付かないことです」
ウウーッ、帝都に帰れないってことか。
お母さんが心配だから、そんな訳にいかないし。
かといって、そんな凄そうな人たちが敵だったら、対抗できそうにない。
「私のことは良いとして、エレナさんは三日三晩寝込んだから危機とかいう事ですか?」
「いいえ、彼女の魂は3つの力に縛られて戻って来れないようです」
「その3つの力とは?」
「それを、これからメドインが探るのでしょう」
「うーん、じゃあお願いします」
「えっ? 私の危機は聞いてくれないの?」
カルデラが、焦ったように言って来る。
「いや、守護天使殿の危機は、もうそこまで迫っておるな」
オムニスさんが、深刻な表情で答える。
「アタシたち精霊は、天使のいさかいに手を出せない。
このエレナさんとやらを復活させて、3対3で戦うしか勝ち目は無いんじゃないかな」
こんな状態のエレナさんを叩き起こして、戦わせるつもりなの?
メドインさんが、とんでもないことを言い出した。




