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堕天使のクララ  作者: 御堂 騎士
試練の迷宮
40/55

神器の返還

 ウオオオオオー


「これで、戦争が終わる」

「生きて帰ることが出来るんだー」


「聖女クララ様ー!」


「クララ様ー!」


「クララさまっ!」

「クララさまっ!」

「クララさまっ!」


 ウオオオオオー


 鳴りやまない怒号のような歓声の中、誰かが叫んだ言葉に誘発されて、私の名前の大合唱が始まった。


 こういう場合、どうしたら良いのか分からない。

 誰かに相談しようにも、誰が味方なのか分からない。


 こんな時、エレナさんが横にいてくれたら。

 そうだ、エレナさんに伝えたい。

 エレナさんのいる部屋に戻りたい。


 周りの盛り上がりとは裏腹に、なんだか心細くなってきた。




 と、司令官が司会からマイクを奪った。

「兵士諸君、静まりたまえ。

 せっかく聖女様が持ち帰ってくれた鏡だが、本物かどうか我々には見分けがつかない。

 龍人族の神官に見てもらわなければ、判断がつかないのだ」


 こいつに言われるのは腹が立つけど、言っていることはもっともだ。


 会場は、水を打ったようにシーンと静まり返った。


 静まり返った会場を見渡してから、司令官は言葉を続ける。

「明日早朝、砦から伝令を出す。

 砦の敵側の壁に、『神器である鏡を返還したいので、話し合いの場を持ちたい』という横断幕を張り出す。

 今から砦に戻って、直ちに横断幕の準備に取り掛かってもらいたい。

 本当に喜ぶのは、話し合いで戦争が終わってからだ。

 部隊ごとに点呼して、砦に戻れ」


 的確な指示をする演説の後、各部隊長と思われる者の誘導で、兵士たちは秩序正しく引き上げて行く。


 さすがは、最前線で砦を任されるだけのことはあるんだろう。

 大した統率能力だ。

 兵士たちを命がけで戦わせるために、聖女の命を犠牲にしようという考え方は許せないけどね。




 私は、教会から来ていた神父さん達と一緒に、街の教会に戻った。


 私の部屋に戻ると、相変わらずエレナさんは寝ていたが、表情が安らかだ。

 ちゃんと息をしている。


 良かった、無事だった様だ。

 教会の人たちに任せていたけど、私は丸二日間寝顔にも会っていなかった。

 夢の悪魔も倒したから、呪いは解けているはずだけど。


 でも、私の方も色々あり過ぎて限界が近い。

 もう大丈夫そうだったので、隣のベッドに入って休むことにした。




 疲れていたのか、一瞬で朝になった。


 起きて、エレナさんの方を見ると、上半身だけ起き上がっている。

「あっ、エレナさん。

 呪いが解けて、目が覚めたんだね」


「…………」

 声をかけるが、返事がない。

 目は開いているが、宙を見つめている様子だ。


 急いで着替えて、教会のお世話係の人を呼んできたが、エレナさんの様子は変わらない。

 三日間怪物たちから逃げ回ったのだ。

 少し無理しすぎたんだろう。


 世話係の人がスプーンですくったスープを口に運ぶと、エレナさんは口を開けて食べた。

 目がうつろで、何も話さないのは心配だけど、とにかく命は助かったみたいだ。




 世話係の人が親切で丁寧なので、お任せして私も大急ぎで朝食を食べて、砦に向かった。

 エレナさんに付いていたいけど、龍人族との交渉がどうなったのか、知りたかったのだ。

 戦争が終わってしまえば、エレナさんにつきっきりにもなれるはず。


 砦に着いたら、ちょうど横断幕を壁面におろしたところだった。

 魔法の拡声器スピーカーを使って、向こう側に呼びかけも始めた。




 こちらから攻撃しないのは当然だが、向こうからの攻撃も無い。

 いつもなら、この時間あたりから散発的な攻撃があったそうだ。


 みんな、龍人族のテリトリーの方を固唾かたずをのんで見守っていた。


 ピュンッ


 一本の矢が飛んできた。

 矢には、手紙が結わえ付けてあった。

 そこには、神器の引き渡しのための会見場所と時間が書かれていた。


「神器を取り返した経緯について、説明を求められるかもしれない。

 聖女様もご同行願えますか?」

 側近の一人に聞かれて、間髪入れずにイエスの回答をした。


 側近の中に、まともな人もいるようだ。

 司令官の見下したような態度とは大違いだ。


 指定された時間はお昼過ぎなので、砦で昼食を取った。


 昼からの話し合いが上手くいけば、戦争は終わる。

 みな、それを思って緊張の面持ちだが、兵士たちは神器が返って来ていることから安心し始めているのだろう。

 かすかに笑い声が聞こえる。




「まだ、戦いが終わったわけじゃ無い。

 緩むのは、早いのだがな」

 司令官が、難しい顔で言う。


「彼らが笑っていられるよう、我々がしっかり終戦を勝ち取りましょう」

 あのまともな側近が力強く言うが、司令官は一瞥いちべつをくれるだけだった。




 龍人族との会見の場には、司令官と副司令官、側近数名と私、護衛の近衛騎士数名の合計10名で向かった。


 森の中の小道を歩いて行くと、開けた場所に出た。

 先方も指揮官と思われる数名と、護衛が10名ほどだ。


 お互いにあいさつを済ませると、野原に置かれた大きな四角いテーブルの両側に椅子が用意されており、5人ずつ座った。


 こちらは、司令官、副指令、側近2名、私の順に腰掛けた。

 向こう側も、偉い人なのだろう。

 私の向かい側は神官らしき女性だ。


 お互いに自己紹介したが、名前だけで役職などは言わなかった。

 未だ終戦していないから、秘密にしたいのかな?




「さて、神事に使う大事な鏡を奪い取っていった人間ヒューマンたちが、その鏡を返してくれると聞いたのだが、どういう風の吹き回しなのだ?」

 まず、龍人族の長と思われる人が発言した。


「誤解していただきたくないのですが、我々はあなた方の大切な神器をどうにかしようという気は全くございません。

 理解いただけると思うのですが、神器を奪った所で人間ヒューマンには使いこなすことは出来ません」


 まともな側近が答えた。

 さっきの自己紹介で分かったけど、リンゴウ・メイルダムさんだ。


「神器を使えないのは分かるが、使いたいと思って奪い取り、試してみたが使えなかったので返すとも取れるわけだ」


 厳しいやり取りから始まった。

 昨日まで殺し合いをしていた者たちが、テーブル一つはさんで向かい合っている。

 いきなり、和やかな会見になるはずもなかった。


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