最後の試練
「あっ、チカガータ、あれ」
カルデラが指さす方向に、皇子がうつぶせに倒れている。
皇子も呪いの悪魔とやらに殺られたのかな?
とにかく、遺品を持って帰ろう。
死体の鎧とか脱がすのは、嫌だなあ。
剣は大きくて邪魔になるし、荷物を探るのも失礼な気がする。
持ち物の中から何か持って帰ったら、色々疑われても嫌だしね。
帝国の紋章の入った兜が脱げて、横に転がっていたので、これを持って帰ることにしよう。
「クンクン、匂いも無いね」
カルデラに浄化の魔法をかけてもらったら、キレイになったから、かぶって帰ることにした。
しばらく進むと、大広間に出た。
魔法の照明が赤々と灯って、迷宮の中とは思えない明るさだ。
祭壇のようなものがある。
祭壇の上に、鏡が置いてあった。
これが、龍人たちの神器だな。
鏡を回収しようと大広間に一歩足を踏み入れると、大広間の真ん中に、まばゆい光の柱が立った。
「試練の迷宮に挑みし者よ。
最後の試練を授けるとしよう」
私は、望む所だとばかりに光の柱に向かって、ズンズン進んでいく。
「通常なら、ここで我と戦ってもらう所なのだが……」
「あんたを倒せば良いのね?」
剣の悪魔からせしめた刀を、スラっと抜いた。
「その刀は、入り口の剣の悪魔のモノだな?
まさか、殺して奪い取ったのか?」
「それも考えたけど、うまく避けられて攻撃が当たらなかったの。
そしたら、この刀をくれたの」
「や、やつが刀をくれただと?
一応聞いておくが、先ほどの大爆発は貴様の仕業か?」
「ああ、夢の悪魔とかいうやつが、私の友達を呪い殺すって言うから、死んでもらったかしら」
「ゆ、夢の悪魔を倒したのなら、それをもって最後の試練としよう。
鏡は、持ってゆくが良い」
「ボス戦無しで済むなんて、ホントラッキー!
カルデラ、持って行っても良いってさ。
これで、試練の迷宮のクエストは完了だね」
「そうだけど、冒険は帰りつくまでが冒険だよ。
鏡を龍人族に無事に返せて、本当のクエスト完了だからね」
カルデラに窘められてしまった。
鏡を持った私たちは、意気揚々と帰り道についた。
「いやあ、私のハッタリが効いて、戦わずにすんだよ。
やっぱり取引に一番必要なものは、ハッタリだよね」
「チカガータ、知ってる?
ハッタリって言うのは、自分を実際の実力以上に思わせる行為を言うんだよ」
「えっ? そうだけど……」
「まあいいや。
私はこれで帰るけど、最後に転んで鏡を割ったりしないでね」
それだけ言うと、カルデラはフッと霧のように消えてしまった。
確かに、帰り道で襲われてせっかく手に入れた鏡を割られたらシャレにならない。
気を付けて進むが、試練を達成したからなのか、敵に襲われることは無かった。
何事もなく入り口の悪魔さんの所まで戻ってきた。
思いの外、素早く迷宮攻略が出来てしまった。
砦の司令官の奴、今日の夜にダンジョンの入り口に兵士たちを集めて集会をするから、それまでに死ねとか言っていたな。
その集会の場に、皇子の兜と鏡を持って現れてやろう。
「という訳で、夜までここで時間をつぶすね」
「という訳って、どういう訳か分かんねえよ」
剣の悪魔さんは、美少女と一日一緒に過ごせるのに嬉しくないようだ。
「しかし凄いな。
ただ者じゃないとは思っていたが、こんな短時間でクエストを果たして戻って来るなんて。
過去最短記録じゃねえか?」
「いえ、138年前に龍人王カルビ・クッパが、彼女より1時間24分早くここに戻ってきています。
その時は、4人パーティーでしたが」
三つ又の槍を持った、メイド服で顔が牛の悪魔が横から答える。
召使的な悪魔がいるんだ。
そりゃそうか。
お世話してくれる人がいないと、剣がどうとかだけで生きていけないもんね。
「それはそうと、こんな殺風景な所に何百年も篭っていたら退屈じゃ無いの?
私が、退屈しのぎの話し相手になってあげるよ。
そういや、食べ物とか無いの?
おやつとかさあ」
「悪魔の住処に、そんなもんねえよ。
あっ、こらっ、勝手にかまどを使ってお湯を沸かすんじゃない」
沸かしたお湯で淹れたお茶を飲む。
「悪魔さんの分も淹れてあげたから、飲んだら?」
「本当に、くつろいでいやがるな。
大体、龍人王ですらワシには敬意を払っていたのに、貴様ときたら。
ここは試練の迷宮で、ここへ来る奴はみんな命がけでここを通るんだ」
それもそうか、と思ったが、私は自分の考えの甘さを思い知らされることになる。
*-*-*-*
「それでよお、その悪魔が言うには……」
(ウウーッ、目が開けていられない。
新手の拷問か?)
このクエストで最大の試練は、こんなところに。
眠りそうになりながら、剣の悪魔さんの自慢話に適当に相槌を打っていると、外から歓声のようなものが聞こえる。
「あ、外で集会が始まっちゃったようです。
時間が来てしまったので、私はこれで」
「そうか、残念だな。
これからが面白くなるところだったのに」
「そうですか、本当に残念です」
(これほどの長時間、全く面白くなかったのに、ここから面白くなるなんて絶対にない)
「まあ、いつでも気軽に来てくれたら、続きの話を聞かせてやるから」
(本当に結構です)
私は、愛想笑いを浮かべながら、地上へ転送されていった。




