38. 領主
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前回アンケートの結果を受けて、女性領主が爆誕しました!
女性領主 VS 〈聖女〉、突っ走ります。
「〈聖女〉は逃げ出したと聞いていたがな」
おどろいたことに、クリャモナの領主は女性だった。
赤みがかった金髪をうなじのあたりでひとつにまとめ、まるで兵士のような飾り気のない衣服に身を包んでいるが、だからこそ、その身が女性であることがはっきりわかる。
こちらを見つめる眸は、冷たい鉄の色だ。わずかに青みがかったその光は、まるで磨いた刃。
口調も、するどい。
「俺が偽りを告げているとでも?」
王子が問うと、領主は口の端にわずかばかりの笑みを浮かべ、いや、と返した。
「殿下がなんのお考えもなく、虚言を弄するかたとは思いませんが」
――〈聖女〉が偽物である可能性について、ぜんぜん否定してないよね? どんな顔をして聞いていればいいの? 憤慨すべき? それとも、誤解されて悲しいとか? ……そうじゃないか。うん、そうじゃない。
アリスティアは、あやういところで、大神官の教えを思いだした。
自分こそが〈聖女〉であり、周りがなんといおうが関係ない、という態度。それだ。今の自分に必要なのは、〈聖女〉であるという確信を包み隠さず見せることだ。
疑われても、それがなんだというのか。この世に〈聖女〉は、ただひとり。アリスティアを措いて、ほかにはいない。
アリスティアは領主を見つめた。
領主もまた、たじろぐことなく視線を返してくる。
「危険もあろうかと身代わりを立てていたのだ。こちらが本物の〈聖女〉でいらっしゃることは、俺が保証する」
「身代わり? なるほど」
ここにいるのが身代わりだろう、と雄弁に語る口調、所作、眼差し。
親領主派と見える神官が、声を上げた。
「王家が〈聖女〉のなにを保証できるというのか」
アリスティアは声をあげた。
「本題に入りましょう。あなたがたは、難民の対処を話しあうためにおいでになったはず。その件については、まだ一言たりと話していないではないですか」
「資格もない者を〈聖女〉と言い張られても――」
「資格? わたしの資格を云々するような権利も能力も、あなたがたにはありません」
きっぱりと、アリスティアは断言した。
相手は口を開けたが、なにか喋りだす前に、アリスティアはつづけた。
「それを持つのは大神殿のみ。大神殿が〈聖女〉としたものに異をとなえるのであれば、必要な証拠を揃え、威儀をととのえて使者を立て、正式な抗議と再判定の要請をなさい。どうしてもわたしを〈聖女〉として認めないなら、そうするのが神官としての唯一の道。判定をくつがえしたくば、大神殿に抗議なさい。無論、今の位階を賭ける覚悟の上で」
「代役風情が、なにを――」
「くどい」
大声は出さない。そんな必要はなかった。
――だって、わたしが〈聖女〉だから。
しんと静まり返った室内を見渡し、アリスティアは宣言した。
「この集まりが、わたしが〈聖女〉かどうかを判定するためのものでしたら、意味がありません。散会としましょう」
いいたいことだけいうと、アリスティアは踵を返そうとした。
が、そこで領主が動いた。
「なるほど、道理だ。そなたが〈聖女〉であるかはともかく、大神殿が寄越した代表であることには違いないのだからな。わたしも、時間を無駄にするのは本意ではない。本題に入ろう」
「ひとつ、お考え違いがあるようです。わたしが〈聖女〉であることを疑う権利も、あなたがたにはありません。わたしが〈聖女〉であると、お認めなさい」
領主は、面白がっているような顔をした。内心がどうあれ。
「わかった。あなたが〈聖女〉だということにしよう。謝罪も必要かな?」
「必要ありません。間違うのは人の常ですし、あなたがたには〈聖女〉判定の技能も資格もないのですから、不安があっても当然でしょう。疑いは、許されます。疑われることは、〈聖女〉の力を削ぎも増しもしませんから、なにも問題はありません」
要は、おまえらがなにを思おうが関係ない、という意味だ。疑義を呈する権利すらない。
――わたしが、〈聖女〉。
いかなる世俗の権力にも、個人の思惑にも左右されない。それが〈聖女〉だ。
領主は一礼して見せた。
「かたじけなく存じます、〈聖女〉様」
アリスティアはうなずくと、レニィの手を借りて椅子に掛けた――衣装がごわつくせいで、座るのにも苦労するのだ。
――ちょっと、やり過ぎたかな。
ファラーナだったら、正当性に疑義を呈されたとしても、こんな反応は見せなかっただろうと思う。
でもまぁ、もうやっちゃったし、とアリスティアは気もちを切り替えた。少なくとも、彼女が〈聖女〉であるか否かを延々と論議しつづけることは避けられたのだから、善しとしよう。
「ところで、なぜ〈聖女〉様がこの場にいらっしゃるのかを、うかがっても?」
「こちらの神殿から、相談を受けましたので。物資を送り届けるためです」
応じたのはレニィだ。
前に〈聖女〉役をやっていたファラーナが喋りたがらなかったため、基本的に、神殿の意向を喋るのは付き添いの役目だ。〈聖女〉ではなく神殿の意見だから、予想される質問への答弁については、あらかじめまとめてある――大神官と相談済みの内容で、ナターリャが几帳面に書き留めていたものだ。
「目録はこちらの神官長様にお渡ししてあります」
「はい、承っております」
神官長がうなずいた。領主派らしい神官たちが、おどろいたような顔をした。
「初耳です、神官長様。申し送りをお忘れですか」
「領主様のお耳に入れる必要がありましょう。そのような重要なものは、早急にお知らせ願いませんと」
――あからさま過ぎて、なんかもう……。
神官長は、完全に舐められている。それだけ、神殿より領主の権力が上回っているということだ。
――じゃ、王室はどう?
アリスティアの考えを読んだわけでもないだろうが、王子が口を開いた。
「難民への支援だ。領主殿は関係あるまい。無論、考えが変わって難民を保護することにした、ということなら別だ。しかし、そうではあるまい?」
「なにもかも接収してしまってもよいのだが」
やさしげな声で、物騒な回答だ。王室も、舐められている。
――女性で領主をつとめて、これだけの力を維持するって、並大抵のことではなさそう……。
家を継ぐのは、基本的に男子だ。孤児院育ちのアリスティアだって、それくらいは知っている。女子しかいなければ、婿をとって後継者とするのが普通。当然、社会的な権力を担うのも男性がほとんど。
彼女は――クリャモナの領主は、どうやってこの地位に就いたのだろう。そして、ここまでの権勢を得たのだろう?
「乱暴なことを。神殿の物資を接収する権限など、一介の領主にはないはずだが?」
「領主の裁量にまかされているはずの領域に、王家や神殿が口出しするのもおかしいな」
「難民の保護は神殿の義務です」
神官長のことばに、領主は微笑んで答えた。
「わたしの責務は、領地を護ること、ひいては領民の安寧につとめることだ」
領主の言に、そちら側の神官たちが勢いづく。
「あれは難民などではない。人を装って、我らクリャモナを内側から食い荒らす輩ぞ」
「魔族の襲撃を逃れられるものか。逃れてきたというなら、あやつらは魔族の仲間に決まっている」
「わたしは」
アリスティアは、静かに声をあげた。
まっすぐ領主を見据え、ことばを続ける。
「幼い頃、魔族に両親を殺されましたが、ひとり生き延びました。今の理屈が通じるなら、わたしも魔族であるということになりますね?」
「いや、それは――」
たじろいだ神官の方など見ない。アリスティアが相手をしているのは、領主だけだ。その刃物のような眸の奥にある、硬い精神だ。
「大神殿が魔族を〈聖女〉として育て上げたと? それが可能なら、ある意味、喜ばしいことです。魔族が人を救う側になれる、ということですから――人が人を見捨てる世のようですし」
ゆったりとした口調で、領主は答えた。
「〈聖女〉様はずいぶん好戦的でいらっしゃる」
「皆を救いたいだけです。戦いは望んでいません」
「わたしは領民さえ無事ならそれでいい。ただ、そのためには難民が邪魔だ、というだけだ」
「助けを求めるものを見捨てることは、女神の教えに適いません」
領主は笑みを消して告げた。
「誰もを救うなど、ただの夢物語だ。〈聖女〉のご利益とやらもな。まことに退魔の力があるというなら、ご一行に大きな犠牲が出たことを、どう申し開きなさる」
――来たか。
もっとも恐れていた問い。アリスティア自身にも伏せられたままの秘密。
――でも、これに答えられなければ、ここまで来た意味がない。
※展開を選んでください。
1)アリスティアはおのれの未熟ゆえと弁明する
2)王子が助け舟を出す
3)突然姿をあらわしたヴァレインが、助けてくれる
今回のアンケートは三択です。
アリスティアが自力で弁明するか、王子が助け舟を出してくれるか、はたまたヴァレインが(面白がって)口添えしてくれるかの、どれかをお選びください。
アンケートはいつものようにtwitterにて。
木曜あたりから手を痛めてしまい、様子見しながらぽちぽち打っていたので、更新が遅れてしまいました……。不覚!
ホラー連載の方は手を痛める前に書き終えてあったので、完結まで掲載済みとなっております。




