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転生したらハゲておっさんになりました。  作者: 蒼月毘人
1章 異世界生活編
3/10

02.異世界で生きるのも大変

 さてさて、早速日雇い労働を募集しているという掲示板の前にやってきたわけだが、

そこにはなんともきつそうな仕事がずらーっと並んでいる。


・街の防壁の修繕  1日5銅貨

・街内部のゴミ拾い 1日2銅貨

・地下下水道の清掃 1日10銅貨


こんな具合で日雇い労働にふさわしいであろう仕事内容なのだが、

一番銅貨が貰える、地下下水道の清掃という仕事が目に止まった。


 地下下水道の掃除だけ、なんでこんなに高いんだ?

まぁ、高いって言っても1日働いて1000円くらいしか貰えないって考えると

割に合わない気もするけど。とりあえず話だけでも聞いてみるとするか。


 俺は地下下水道の清掃と書かれた貼り紙を1枚剥がすと、

集合場所に指定されている所へ向かうことにした。

そこに集まっていたのは、なんともみすぼらしい恰好をした、

俺と同じようなおっさんが5人ほど。威勢のいいおっさんが

丁度仕事の内容を説明しようとしているところだった。


「よし、そこのハゲ頭で締め切りにしておくか、さーて無能共。

今から仕事内容を説明してやるからよく聞いておけ」


 ハゲ頭に、無能だと……!?あのクソ親父、いつか絶対見返してやる。


「そこの扉から入れ。ところどころ詰まってる箇所があるからそれを除去しろ。

時間は、夕刻の鐘が鳴るまでだ。それと、途中で逃げ出したやつに報酬は払わん。

もし逃げ出したら残った奴に全部回す。んじゃ、よろしく」


 そう説明されると、先に話を聞いていた5人は文句も言わずに掃除道具

(と言ってもただの棒きれだけなのだが)を受け取り、

下水道内部へと入っていく。


 おい……こいつら大丈夫か?全員目が死んでるんだけど。

あのクソ親父に聞いてもやり方は教えてくれなさそうだし、中でこいつらに

聞くしかないか。


内部は大人が立っても頭を天井に擦ったりすることは無いくらい、広い。

中央に水が流れており、その両端を歩けるようになっているようだ。

地上の各建物から排出された汚物は中央の水に入るようにできており、

施設と下水を繋ぐ箇所が何カ所も詰まっている。


 うわぁ……すげー臭いだわ。これはきつい。

なんでこのおっさん達は文句も言わずにできるんだ。


他の5人は慣れているのか、感覚が麻痺しているのか不明だが、

せっせと詰まっている汚物を水路へと流していた。

 

見よう見まねで同じように掃除を始めて数時間が経過していた。

相変わらずおっさん達は俺を含め、愚痴の一つもこぼさずに

黙々と作業を続けている。


俺は今まで生きてきてこんなにきつい仕事をしたことが無かったので、

愚痴をこぼしかけたのだが、他の5人のモチベーションを下げないために必死に耐えていた。


愚痴を言ってもしょうがない、今の俺はパン1つすら買う金が無いのだから……

自分に活を入れ、再び作業を始めようとしていた矢先、

後ろの方で作業をしていたおっさんの1人が悲鳴をあげた。


「ひぃー!!で、出たぞー!!」


出たって何が?ゴキブリでも出たか?

と、悲鳴をあげているおっさんを見ると何やらでかい生き物と格闘しているところだった。

たまらず近くにいるやつに声をかける。


「おい、あれはなんだ!?」


「人食いネズミって呼ばれててなぁ、

何人もあいつにやられてるんだ。あいつが出たら、逃げるしかない。

あんただって金よりも命が大切だろ?」


「人食いネズミ!?化け物じゃねえかそんなの。

でも……ここで逃げたら今までの苦労は無駄になっちまうんだよな。

それに、最後までやり遂げれば、逃げたやつの分まで銅貨貰えるんだぜ…?」


 格闘していたおっさんは早々に地上へと逃げたようだ。

他の3人も逃げようと持っていた道具を捨てていた。

俺が話しかけたおっさんは少し悩み、


「うーん。俺は死にたくねぇ。あとはあんたに任せた」


とか言って、残っていたおっさんを引き連れてそそくさと逃げて行った。


「おい!報酬はいらねえのかよ!」


ったく、なら報酬は俺が独り占めだな。と思ったのだが

目の前にいる化け物ネズミはイノシシくらいの大きさだ。

あれに突進されたらひとたまりもないだろう。


よし。前の世界で鍛えた棒術なら……というわけにもいかず。

なにせ俺はここ最近スポーツなんて全然やってなかったし、

初めて相対する化け物に結構ビビっている。


戦うにしても、武器として使えそうなのは手に持っている

掃除用の棒くらいなもんだ。

一応、捨てられた棒もある。

あーだこーだ考えているうちに人食いネズミは俺に向かって体当たりを繰り出してきた。

とりあえず昔やっていた野球のバットよろしく

ネズミの頭に向けてフルスイングしてみたのだが、

当たったものの棒は折れてしまった。


 くっそ、結構早い上に硬いじゃねえかこのネズミ……。

やばい、ネズミに殺されるなんて

笑えない。ついてないことだらけだわ本当にここに来てから。

でも、逃げたら今度は本当に食べるものがない。


……餓死するか、この化け物ネズミに食い殺されるか。どっちにしても

死ぬなら、報酬独り占めできるほうに賭けるしかねーな。

当たる確率は低いけど、折れた棒なら刺さるかも?


 決死の覚悟を決めた俺は、こちらに向きなおしたネズミの頭部めがけて

折れた棒を投げつけた。

意外とまっすぐネズミ目掛けて飛んでいった棒はなんと、

ネズミの目に突き刺さったのだ。

急所にダメージを負い、キー!!と声を出し怒り狂っている。


 おお!?まさか目に刺さるとは思わなかったわ。

これなら倒せるかもしれない!

もう片方の折れた棒を再びネズミに向かって投げてみたのだが、

そう上手くいくわけもなくむなしくネズミの上を通り越していった。

激怒したネズミが再び俺に向かって突進してくる。

見事に腹に当たり、吹っ飛ばされる俺。


 あ……やばい。これは死ぬ。

こういう時、『力が欲しいか……』とか声が聞こえたり

不思議な能力に開花する、とかそういう展開じゃないのかよ!


ちょっと期待した俺がバカだった。ネズミは再び俺に体当たりをかまし、

またもや吹っ飛ばされる。


 くっそ、本当に何も起こらねぇ!こうなりゃ、やぶれかぶれだ!


俺はおっさんたちが捨てていった棒を手に取り、膝に押し当てて割っていった。

下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、の精神でひたすらネズミに向かって投げ始める。

何本か投げたところで、もう片方の目に突き刺さり、なんとかネズミの視界を

奪うことに成功した。

だが、相手も生きるために必死だ。嗅覚を頼りに俺の方へ突進を開始する。


「うぉぉぉぉぉ!くたばりやがれ!!」


迫ってくるネズミの腹部めがけて、持っていた棒を突き立てる。

相手が相当な勢いで走ってくるのでその力も相まって、思いっきり

腹に棒が刺さった。そして、断末魔を上げ、ついに人食いネズミは力尽きた。


「はぁっ、はぁっ……。やったのか?」


ネズミが本当に死んだか確かめていると、黒い霧と共に

死骸は消えてなくなってしまった。


ゴトッと音を立て、何か灰色の塊がそこに転がってた。

ん?なんだこれ?化け物は倒すと

消えてなくなってアイテムでも落とすのか?


丁度、夕刻の鐘の音が鳴っているのがかすかに聞こえたので、俺は

ネズミが落とした灰色の塊を拾い上げ、出口へと向かっていくのだった。


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