28話
紫暮達が魔王城に行っている時のこと。
「はあ、ホントに大丈夫なんかなぁあいつら⋯⋯」
「危なくなったら⋯⋯こう、聖女の力でばぁぁああっとできるんじゃないっすか!?」
「そんなに心配せずとも、すぐ帰ってくるよ」
「そうかぁ?」
「そうっすかぁ?」
「君達、なんかムカつく」
ナイトと騎士団長と黒葉が駄弁っていた。
するとナイトが突然話を変えた。
「⋯⋯そうだ。団長、なんでアドルさんは急に紫暮の護衛から外れたんすか?紫暮から聞いてはいるけど、なんか納得できなくて⋯⋯」
「え?アドルさんっすか?ああー、本人も嫌そうにしてたっすけどね。ワルアの砦は西の森にあるっすからね、管轄を任せるなら信頼性の高いアドルさんにしよう、って色々相談した結果っすよ」
「なら、なんで最初からアドルさんにしなかったんです?前の管理人が辞めたとか?」
「⋯⋯へ?あ、ぅあ、それは企業秘密っすぅぅううう!!」
団長は大声を上げながら逃げた。
ナイトがポカンとして団長が逃げた方向を見ると、黒葉がナイトの肩に手を置いた。
そして、
「あんまり詮索しない♡」
と満面の笑みで言った。
***
魔王城の門をくぐると、美しい庭が見えた。
魔王城とは思えなかった。
「魔王城ってこんな綺麗なもんなの?」
「僕、ここ結構好き〜!」
コーさんとゼルさんが辺りをキョロキョロと見回している。
確かに、あの噴水や、花畑⋯⋯見惚れる程に綺麗。
でも何故?あの魔王の趣味?
「どうぞ、お入りください」
仮面の男が、入口の大きな扉を開けた。
キィ、という静かな音だったけれど、僕には不気味な音に聞こえた。
中も整っていて、王国の城と言われたら信じるくらいだった。これが魔王城だとは誰も言わないだろう。
この城は枯れた木で覆われているが。
「あれぇ?お兄さん?なんでここにいるの?なんで髪長いの??」
突然、聞き覚えのある声が広間に響いた。
おっと、魔王弟の登場だっ!
「ごめんね、僕本当は女なんだ」
「そうなの?じゃあお姉さんって呼ぶね!その人達はお友達?」
「う⋯⋯う、ん、そう、だよ」
「ブラード様、御機嫌よう。ぜラルド様はどちらに?」
「お兄ちゃんは2階にいるよ!あ、図書室ね!」
「ありがとうございます」
ブラード君は仮面の男を一目見て、目をぱちぱちさせた。
「ねえ、お姉さんはお兄ちゃんに会うの?」
「うん」
「じゃあ、気をつけてねー!」
気をつけてね?
何に?魔王にか?
仮面の男が階段に向かったので、僕達もついていく。
その様子をじっと見ていたブラードは、
「あの悪魔、誰?」
と呟いた。
***
「失礼致します、ぜラルド様。本日はどうされたのですか?結界が解かれていましたよ」
「ガイストか、いや、今日は調子が悪──っ!?」
「御客人を連れて参りました」
仮面の男⋯⋯ガイスト、かな?ガイストが僕達が中に入れるように扉の前から退いたので、僕達は図書室に入った。
魔王と目が合った。
「君は、前に何度か会った人間の子だね?何故ここに来た?」
⋯⋯よし、一ノ宮さん、存分にお話くださいっ!
『えぇ、少しだけ、借りるわ』
意識が遠のいた。
***
紫暮の纏う空気が変わった。
それを察した魔王──ぜラルドは、手にしていた本を床に落とした。
「あぁ、魔王様!また会えましたね⋯⋯!」
「⋯⋯い、ちの、みや?」
「はい、私です。この子に体を貸してもらったのです」
「⋯⋯あぁ、こんなことが⋯⋯!まさか再び会えるなんて⋯⋯」
「魔王様っ!」
「イチノミヤ!」
「「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯?」」」
まるで劇を見ているかのようだった。
ユキト、コー、ゼルはただ傍観していた。
ガイストはというと、扉の近くで肩を震わせていた。
ギュウィィイイン!!!
ぜラルドと紫暮が一定の距離まで近づいた時、突如二人の周りに結界が張られた。
「「「!?」」」
「ははははははは!ついにこの時が来たっ!魔王と聖女の心臓を混ぜて喰えば私は不老不死になるっ!ははははっ!!」
ガイストが狂ったように笑いだした。
「えぇ⋯⋯ちょっとちょっと。ヤバいじゃんっ!」
「うわぁ。大丈夫かな」
「これはまずいな」
──ガイストが。
パリィンッ!!
ぜラルドが結界に手を触れると、結界は一瞬にして破れた。
「⋯⋯は?」
「魔王の力を甘く見られては困る。お前が魔王である俺と聖女であるイチノミヤを大事に思っていたのは、矢張りそういう事か」
「⋯⋯⋯⋯」
「まさかお前がとは思っていたが⋯⋯もうよい。地獄で己のしようとした事を悔やめ」
ガイストは立ち尽くした。
すると、図書室の扉がゆっくりと開かれた。
「ねえ、何してるの?」
「ブラード⋯⋯?」
「⋯⋯お兄ちゃん、この悪魔誰なの?」
「⋯⋯が、ガイストの事か?昔よく遊んでいただろう?」
「なんのこと?」
ブラードは首を傾げ、頭上にハテナマークを浮かべた。
「ガイスト、お前記憶操作魔法でも使ったか?」
「⋯⋯いいえ、私はそのような魔法は使えません」
「知らない、こんな悪魔⋯⋯」
「こんなみにくいあくま、ぼくはしらない」
ブラードの目が赤く光った。
途端、ガイストの足元と頭上に黒い魔法陣が出現した。
「⋯⋯この魔法は、まさか!おやめください、ブラード様!!⋯⋯やめろといっているだろう!クソガキ!!!」
「そんな汚い言葉ボクに投げかけないで」
「う、ぅう⋯⋯ぐあああああああああっ!」
ガイストは魔法陣に押し潰されたかと思うと、跡形もなく消え去った。
「⋯⋯はあ⋯⋯。ブラード、落ち着きなさい。その魔法は使うなと言っただろう?」
「⋯⋯⋯⋯ごめんなさぁい。つい怒っちゃって」
「「「⋯⋯⋯⋯」」」
魔王の弟はやはり魔王の弟か。
そう三人は心の中で呟いた。
紫暮──一ノ宮は、ぜラルドが結界を新たに張って、こちらの方を見られなくしていたため呆然としていただけだ。
「ま、魔王様⋯⋯?」
「済まない、ちょっと弟が来てね」
「そうですか?」
「ああ。⋯⋯ところで、君達は?」
「「「!」」」
三人の肩がびくっと跳ねた。
「あの方達は私⋯⋯いえ、この子の護衛人ですよ」
「そうか、ならば良い。部屋を変えてゆっくり話そう」
「ええ」
それから二人は、豪華な客室で沢山話をした。護衛人も勿論周りにいるが。
それは楽しそうに、いつまでも⋯⋯⋯⋯とはいかず、すぐに別れの時間はやってきた。
「⋯⋯そろそろ時間のようです。あまり長く体を借りていたらこの子にも悪いですし。もう会うことは無いでしょうが、私はいつでも、貴方のそばに居ます」
「⋯⋯ああ、二度目のお別れだな」
「城の庭の花畑⋯⋯どの花も昔私が好きだと言っていた花でした。私のために植えてくれたのですね。ありがとうございます」
「ああ」
「⋯⋯⋯⋯さようなら」
「⋯⋯っ⋯⋯ああ、さようなら」
***
『終わったわ』
⋯⋯お?終わりましたか。お疲れ様です!
『⋯⋯貴方には、感謝しきれないわ。私にもう一度あの人と話す機会を与えてくれて、本当にありがとう』
いいんですよ。話せて良かったですね!
『はい、私はもう消えます。これから何が起こるかわかりません。ですが、貴方ならきっと乗り越えられるでしょう』
⋯⋯はい。さようなら、一ノ宮さん。
『さようなら、心優しい聖女さん』
すぅ、と体の中から何かが消えた。
ぐらり、と目眩がしたが、すぐに治まった。
「う⋯⋯ん?うわ、部屋変わってる」
「⋯⋯タカナシさん。ありがとう」
「えっ?あ、ど、どういたしまして。⋯⋯あ!そうだ、魔王さんにちょっと相談、というか聞きたいことがあるんですけど」
「なんだい?何でも訊いてくれ」
「えーと、僕がこの世界に来るまでは、あの国に魔物が大量に襲ってきたらしいんですけど」
「⋯⋯魔物が?」
「魔王の仕業〜とか本に書いてあったんですよ、でもブラード君は『お兄ちゃんはそんなことしてない』って言ってましたし、どうなのかなって」
「ブラードの言う通りだ、私は直接的にも間接的にも人間に害を為すことは一切していない」
「そうですか⋯⋯スッキリしました、答えてくれてありがとうございます」
「ああ⋯⋯もう帰るのか?」
「はい、用は済んだので」
「送ろう、そこの三人も集まってくれ」
ユキトさん達の方を見ると、三人は何やら話し合っていた。
「結界に何か⋯⋯」「やっぱ悪魔だろ⋯⋯」「この部屋にはちゃんと⋯⋯」
少ししか聞き取れないが、どうやらきちんと仕事はしてくれていたらしい。
「ユキトさん、コーさん、ゼルさん!帰りましょー!」
「「「っ!」」」
話し合いに夢中だったのか、僕の声にかなり驚いた様子だ。
とぼとぼとこちらに歩いてきた。
「また会うかもしれない。その時はまたよろしく頼む」
「⋯⋯?はい」
魔王さんの指パッチンによって僕達は無事帰ってきた。
指パッチンすごいね。
悪役組は質問とかいらないかな⋯⋯?
ってことで、紫暮ちゃんから一言っ!
カスッ⋯⋯⋯⋯
カスッ⋯⋯
カスッ⋯⋯⋯⋯⋯⋯
紫暮「⋯⋯指パッチンできなぁぁあああいっ!!!!」




