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〝本日定休日〟
階段を上りきると、見覚えのある赤い文字列が目に飛び込んできた。
あれ……また今日も休み?
ドアに掛かったプレートを前に、多恵子は小首を傾げた。
「ああ……これですか?」
多恵子の視線に気づいたらしく、涼介が口を開く。
「本当は定休日なんかじゃないんですけどね。大事な打ち合わせの最中に邪魔をされたくないからって、叔父さんが掛けちゃったんですよ」
ドアの鍵穴に鍵を差し込みながら、彼がそんなことを言った。
「うちには臨時休業のプレートなんて、ありませんから……」
……かちゃ。ロックの外れる音がした。
ドアが開く。その動きに合わせ、涼介は出入口の脇に退いた。
「どうぞ」
ホテルの客室係宜しく、多恵子に事務所に入るように促した。
「えっ……」
足の動きが止まる。片足を室内に踏み入れかけて、多恵子は驚きのあまり固まってしまった。
(な……なに!?)
彼女の真正面。フロアの中ほどに、宙に浮いているものがある。
……横に3本並びの列が、少し間をあけて上下に2列。
それは、6本のダーツだった。
その矢先は全て、こちらを向いていた。
(な、ななな……なんなのよ、これ!)
どう見ても、ダーツは……。
ひゅっ! ひゅっ!
多恵子を狙って……。
「きゃっ!」
狙いをあやまたず、全てのダーツが真っすぐに彼女を襲う。
避ける間などない。それを避けるのはプロボクサーでも無理だろう。
次の瞬間、多恵子はダーツの餌食に……はならなかった。
6本のダーツは全て、彼女の目の前でその動きを止めていた。
彼女に命中したものは、1本たりともない。
まるで、時間が止まってしまったかのようだった。ダーツは宙に浮いたまま、そのままピクリとも動かない。
「やっぱり……あなただったんですね」
固まっている多恵子の背中に、涼介が感情を押し殺した声をぶつける。
びくり……彼女の肩が震えた。
その瞬間、一時停止が解け、全てのダーツが力なく真っ逆様に床に墜落する。
小さく乾いた音を立てて、ダーツが床に転がった。
額にうっすらと汗が滲み出す。
多恵子はゆっくりと振り返った。
「ま、まさか……。あなたも……」
唇から零れ出た彼女の声は、誤魔化しきれない震えを伴っていた……。




