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『たった6文字のHOPE ~神谷探偵事務所はぐれ事件簿~』  作者: 水由岐水礼
FILE・#9 THE CHARIOT
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〝本日定休日〟

 階段を上りきると、見覚えのある赤い文字列が目に飛び込んできた。

 あれ……また今日も休み?

 ドアに掛かったプレートを前に、多恵子は小首を傾げた。

「ああ……これですか?」

 多恵子の視線に気づいたらしく、涼介が口を開く。

「本当は定休日なんかじゃないんですけどね。大事な打ち合わせの最中に邪魔をされたくないからって、叔父さんが掛けちゃったんですよ」

 ドアの鍵穴に鍵を差し込みながら、彼がそんなことを言った。

「うちには臨時休業のプレートなんて、ありませんから……」

 ……かちゃ。ロックの外れる音がした。

 ドアが開く。その動きに合わせ、涼介は出入口の脇に退いた。

「どうぞ」

 ホテルの客室係宜しく、多恵子に事務所に入るように促した。

「えっ……」

 足の動きが止まる。片足を室内に踏み入れかけて、多恵子は驚きのあまり固まってしまった。

(な……なに!?)

 彼女の真正面。フロアの中ほどに、宙に浮いているものがある。

 ……横に3本並びの列が、少し間をあけて上下に2列。

 それは、6本のダーツだった。

 その矢先は全て、こちらを向いていた。

(な、ななな……なんなのよ、これ!)

 どう見ても、ダーツは……。

 ひゅっ! ひゅっ!

 多恵子を狙って……。

「きゃっ!」

 狙いをあやまたず、全てのダーツが真っすぐに彼女を襲う。

 避ける間などない。それを避けるのはプロボクサーでも無理だろう。

 次の瞬間、多恵子はダーツの餌食に……はならなかった。

 6本のダーツは全て、彼女の目の前でその動きを止めていた。

 彼女に命中したものは、1本たりともない。

 まるで、時間が止まってしまったかのようだった。ダーツは宙に浮いたまま、そのままピクリとも動かない。

「やっぱり……あなただったんですね」

 固まっている多恵子の背中に、涼介が感情を押し殺した声をぶつける。

 びくり……彼女の肩が震えた。

 その瞬間、一時停止ポーズが解け、全てのダーツが力なく真っ逆様に床に墜落する。

 小さく乾いた音を立てて、ダーツが床に転がった。

 額にうっすらと汗が滲み出す。

 多恵子はゆっくりと振り返った。

「ま、まさか……。あなたも……」

 唇から零れ出た彼女の声は、誤魔化しきれない震えを伴っていた……。


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