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カァーカァー……カァー……。
烏の鳴き声が、うら寂しい墓地に喧しくも不気味な味わいを添えている。
真新しいものもあれば、長年風雨に曝され続けてきたであろう苔むしたものもある。いったい何基くらいあるのだろう、辺りには墓石や卒塔婆が所狭しと並んでいた。
涼介の妖怪のお兄ちゃん姿が、場所柄にあまりにも相応しすぎたのだろう。
向かいからやって来たカップルが、露骨にギョッとした表情をした。
二人とも、涼介と同じくらいの年頃だ。
男の方は、胸元に一眼レフのカメラをぶら下げている。
(なんだろう……この人たち)
美咲は、涼介の隣でちょこっと首を傾げた。
夕陽の放つ光線が、墨染寺本堂裏の墓地に降り注いでいる。
じきに逢魔が時もやって来るだろう。
少なくとも、人が好んで訪れるような場所でも時間帯でもない。
……何をしているんだろう。
目の前の若いカップルは、どう見てもお参りにきている様子ではなかった。
まさかデート中だとも思えない。
一眼レフのカメラなど持ち出して、こんな場所でいったい何を撮ろうというのか。
思い出の1枚……というには、この場所はあまりにも最低最悪のロケーションだ。
(……変な人たち)
たっぷりの好奇心と共にそう思ったけれど、美咲はすぐに苦笑する。
(それは、あたしたちも同じかあ……)
夕暮れの墓地を歩いているカップルという意味では、こちらも向こうと一緒だ。
あちらの二人も、自分と同じようなことを思っているに違いない。
美咲はもたれ掛かるようにして、涼介の腕に自分の腕を絡ませていた。
涼介の個性的な風体に、美咲の方は学校帰りのセーラー服姿。
夕暮れ時の寂しげな墓地で、寄り添い歩く妖怪男と女子高生の二人連れ……。
あちらの二人の目には、さぞかし奇怪なカップルに映っていることだろう。
ちらちらと、何かを探るように女性の視線が涼介に向けられている。
遠慮気味の女性に対し、男の方はあからさまに涼介を見つめていた。
その視線が隣の美咲に移る。
目と目とが合った。美咲はにっこり微笑んだ。
微笑に意味などない。ただ単に、「こんにちは」の挨拶代わりくらいのものだった。
なのに、狼狽したように、男が慌てて美咲から目を逸らす。
男には、「にっこり」が口裂け女に代表される「にやり」にでも見えたのかもしれない。
男の反応に、美咲はムッとした。
(なによそれ! 人のことを物の怪か妖怪みたいに!)
擦れ違いざまに、美咲は男の方をむすっとした顔で睨みつけた。
それでも収まらず、くるりと身体の向きを変え、去っていく男の背中に「あっかんべー」をくれてやる。
その時、間が良くか悪くか、男の方も後ろを振り返った。
男の眉間に皺が寄る。
相手の顰めっ面に、とりあえず美咲は溜飲を下げる。
「フン、だ!」
さっさと正面に向き直る。
背後でカメラ男がどんな顔をしていても、もう知ったことではない。
目的の墓は、あと数ブロック先だった。
会いに来た知人の姿もすでに見えている。こちらに向けて手を挙げている。
どうやら、美咲の「あっかんべー」が見えていたらしい。
知人、神谷探偵事務所・別働隊元締め、西河晋次郎はおかしそうに笑っていた。
「晋さん!」
と、美咲は、警官姿の享年48歳の幽霊に手を振り返した。




