最終話 「今日もシフト、被ってます。」
## 最終話 「今日もシフト、被ってます。」
春翔と付き合い始めて、一ヶ月。
特別何かが変わったわけではなかった。
同じ店で働いて、
閉店後に話して、
たまに一緒に帰る。
でも。
小さな違いは、確かに増えた。
「悠真さん、ぼーっとしてる」
「してない」
「今、俺のこと見てましたよね」
「見てない」
「嘘だ」
カウンター越しに春翔が笑う。
その距離感にも、
もう少し慣れてきた。
——いや、まだ時々心臓に悪いけど。
「二人、最近空気やばいよね」
レジ横で後輩バイトがニヤニヤする。
「前より隠してない感じする」
「そう?」
「そうっすよ」
悠真は否定しようとして、
やめた。
たぶん最近、
顔に出ている。
春翔がいるだけで、
普通に嬉しい。
それを隠す意味も、
もうあまりなかった。
営業後。
最後の客を見送り、シャッターを下ろす。
「お疲れさまでしたー」
他のスタッフが帰っていき、
店には二人だけが残った。
静かな閉店後。
最初の頃から、
ずっと好きだった時間。
「なんか不思議ですね」
洗い物をしながら春翔が言う。
「何が」
「前とやってること、ほぼ変わんないのに」
「……まあ」
「でも前より、ちゃんと特別。」
春翔は少し照れたように笑った。
その顔を見るたび、
今でも胸が苦しくなる。
「悠真さん」
「ん」
「今日、シフト被って嬉しかったです」
さらっと言う。
本当にずるい。
悠真は小さくため息をついた。
「……俺も」
「え」
「嬉しかった」
春翔が目を丸くする。
「珍しい。ちゃんと言った。」
「たまには」
「やば。今日記念日だ。」
「大げさ」
春翔が声を出して笑う。
その笑い声が、
静かな店内によく響いた。
たぶんこれから先も。
就活とか、
仕事とか、
環境とか。
いろんなものが変わっていく。
でも。
シフト表を見て、
同じ名前を探してしまう気持ちは。
きっと、しばらく変わらない。
「悠真さん」
「何」
「来週も被ってますよ」
嬉しそうに笑う春翔を見て、
悠真も少しだけ笑った。
「……知ってる」
閉店後の静かな店。
最初と変わらない景色の中で、
二人の距離だけが、
少しずつ変わっていた。




