第一話 「ラッキー」
# 『今日もシフト、被ってます。』
## 第一話 「ラッキー」
金曜の夕方は、だいたい混む。
レジ横の焼き菓子はすぐ減るし、テイクアウトの注文も増える。
大学終わりのバイト組と、仕事帰りの客が重なる時間帯。
「すみません、アイスカフェラテ二つ!」
「はい、少々お待ちください」
レジを打ちながら、悠真は小さく息を吐いた。
忙しい。
でも今日は、少しだけ気が楽だった。
バックヤードのドアが開く。
「おはようございまーす」
聞き慣れた声。
反射的に顔を上げる。
黒いエプロンをつけながら入ってきたのは、大学生バイトの春翔だった。
「あ、悠真さん今日いるんすね」
「いるけど」
「ラッキー」
さらっと言って、春翔はタイムカードを押す。
その一言に妙に引っかかって、悠真はレジ画面に視線を戻した。
「……何が」
「いや、今日めっちゃ混むって聞いてたんで。悠真さんいると安心するじゃないですか」
悪気ゼロの顔。
こういうところだ、と悠真は思う。
距離が近い。
でも本人は、たぶん何も考えてない。
「ほら、ぼーっとしてるとミルク吹きますよ」
「誰のせいだよ」
春翔が笑う。
そのタイミングで、新しい客が入ってきた。
「いらっしゃいませー!」
さっきまで静かだった店内が、一気に騒がしくなる。
春翔はすぐ動いた。
注文確認、ドリンク運び、空いた席の片付け。
まだ働き始めて半年くらいなのに、周りを見るのがうまい。
「春翔くん、これお願い」
「はーい」
返事も早い。
その様子を見ながら、悠真はふと笑いそうになった。
——やっぱ、今日こいついると楽だな。
そう思った瞬間。
「悠真さん、顔ゆるんでますよ」
「は?」
「いや、なんか機嫌いいなーって」
「気のせい」
「絶対違う」
春翔はニヤニヤしながら、トレーを持ってホールへ戻っていく。
その背中を見送りながら、悠真は小さくため息をついた。
最近、春翔とシフトが被ると少し安心する。
理由は簡単だ。
仕事がやりやすいから。
周りも見えるし、気も利く。
ただ、それだけ。
——そういうことにしていた。
閉店まで、あと三時間。
たぶん今日は、あっという間に終わる。




