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昭和から来た男6/9

秘密の畑は風に吹かれてうねり、ざざぁーっと葉擦れの音を立てた。


「静かすぎる。こういう時は動かない方がいい」


マサキ・ヤスヒコはゴクリと喉を鳴らした。波のような葉のざわめきだけが辺りにこだまする。日は傾き始めていた。まさにトワイライトゾーン。


ヒューと一筋、風切り音が鳴ったかと思うと僕らの足元に幾つもの矢が突き刺さる。畑には湧き潰しのランタンが設置されていた。飛んできたのは森からのようだ。マサキ・ヤスヒコは僕に鉄の剣を渡した。


「やつらが来る」


うわぁっと、森からモンスターたちが溢れ出す。定番のゾンビにスケルトン、くもにクリーパーたちだ。マサキ・ヤスヒコはダイヤモンドの剣を手に応戦する。


バッタバッタと倒していく。いい感じに戦ってくれていた。薬と称した例の草の効果がまだ持続しているのか、肩に矢が刺さっても屁でもない。


ここは無理せず、自分の力量を踏まえて農作業小屋へ逃げるってのが普通の考えだ。けど、そんなことも関係なくマサキ・ヤスヒコは肩に矢が刺さったまま鬼気迫る勢いで、うぉぉぉと声を上げ、モンスターをどしどし押し返している。


どっちがモンスターか分からなくなってて草


回復系や防御力アップのポーションだったら分かるけど、草っていうのがなぁ。リンゴならエンチャントされたのがあるけど草にそれはない。妖しいのこの上ない。


案の定、草の効果が切れたようだ。突然戦いを止め、膝をつく。額から汗をボトボトと落としていたと思ったら突然叫び声を上げた。


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


敵中なのにマサキ・ヤスヒコは爪を立てた両の手で頭を掴んで揺さぶり始める。


「痛い、痛いよ。頭が痛いよ。痛たたたたたた」


ほっとくわけにもいくまい。モンスターを倒しつつ、マサキ・ヤスヒコの腕を取って引きずっていく。


「やばい。警察助けて。あたまいたいあたまいたい。まって。どこいくの。一人にしないで。おい! 待てっていってるだろうが! おいっ! どこいったんだ!」


「ここにいますって」


あんた引きずって助けてんの、この僕でしょうが。


禁断症状で草


「薬! 薬だ!」


引きずられながらもマサキ・ヤスヒコは草を口に放り込む。ポパイみたくムシャムシャ食っていた。みるみるうちに表情が明るくなっていく。食い終わると僕の手を振り払ってすくっと立ち上がった。


「こいつのおかげですべてが余裕っしょ」


自分の体見て言えや!


肩に刺さった矢からは血が未だどくどく流れている。食った草は明らかに治癒をしていない。気持ちだけがハイになっている。マサキ・ヤスヒコの頭に向けて矢が飛んで来た。余裕ぶっこいているからその矢をもろに受ける。


ガツンと、矢はヘルメットに当たって撥ねた。マサキ・ヤスヒコの体はというとその衝撃でぐらっと揺らぐ。ふらふらと倒れそうになった。けど、寸前のところで、ぐわっと持ち直す。


「あっはっはっは! 全然余裕! あたま全然いたくなぁーーい!」


だっせ。


痛いのは頭の中だけですもんね。


「レンジャーーーーー・ハリケーーーーン!」


マサキ・ヤスヒコは余裕どころかまた調子に乗って剣を振り回しながらモンスターを追い回し始める。


「もうじきに日が完全に落ちますよぉ。夜になったらこんなもんじゃないですよぉ」


「あああ、まじで今とんでるぅー。やばい、きもちいいいいいいいい」


やっぱ!


昇天してるじゃないっすか。


首根っこを掴むと強引に農作業小屋に引っ張っていく。マサキ・ヤスヒコはというと見境がない。モンスターに剣を振るうついでに僕にもちょくちょく攻撃を仕掛けて来る。


しょうがないんで、襲って来るモンスターの盾にしたった。こいつには攻撃されないし、モンスターも倒せるし一石二鳥。僕の魔力をまとわせているんでマサキ・ヤスヒコはクリーパーの爆発にも全くものともしない。


「ウィー! 最高! クリーパーの爆発でもノーダメージィィィィ」


草の力と信じてて草


ご満悦なマサキ・ヤスヒコを問答無用に農作業小屋の中へブチ込む。返す刀でドアを閉めた。モンスターたちがドアをガンガン叩く。


マサキ・ヤスヒコは床に転がって上機嫌に笑っていた。呆れる。めんどうかけやがって。


「開拓主様が食べてる草。それってなんですか?」


「ウィードですが、なにか?」


「ウィード?」


あ、さっきの“ウィー!”はウィードのウィーだったのか。“ド”が聞き取れなかった。スタン・ハンセンかと思ったわ。


「この世界でもウィードあったんだなぁ。めっちゃ幸せ」


マサキ・ヤスヒコはホットパースロットから草をアイテム化した。


「じゃーん! どう? うらやましいっしょ。ウィード最高!」


草は違法薬物の一種!? なら、異世界転移や女神は幻覚? でも、ハトヤは間違いなくここに存在する。


マサキ・ヤスヒコは、出したウィードをムシャムシャ食い始める。あぁあ、さっき食ったばかりなのに。


「ああ、マジでウィード気持ちいい。めちゃくちゃきもちいい ああやばい やばいやばい とまんないとまんない あああウィードやっててよかったぁぁぁぁぁ」


ほら、言わんこっちゃない。


過剰摂取で草


「止めた方がいいですよ」


「うるせぇぇぇ。こんなにすばらしいものを止められるか! ウィード最高! ウィードが僕の人生を全部変えてくれた。ウィードさえあれば何でも解決。ありがとう、ウィード!」


解決どころか事態は明らかに悪い方向に向かってると思うんですけど。


「昭和では違法だったんでしょ」


「そうだよ。警察に捕まってたんだけど異世界転移してもっかいはじめたの」


おまえなぁー。


あれ? そういやぁ、女神が天から降りて来てドキドキしたとか、アホなこと言ってたよなぁ。それって留置所の中の出来事だったんかい。


「せっかく止めたのにまた始めちゃったんですか?」


「分かってるわ! 決して人に渡したり、見せたりしちゃいけないって」


「そういう問題じゃないと思いますよ」


「うるさいなぁ、ぶっ殺すぞ! 俺はこの幸せを大勢の女子と分かち合うんだ!」


はぁ? 女の子たちにも食わすんかい!


聞き捨てならないな。そうやって女の子たちをおまえなしで生きていけないようにする気だったんだな。


「ははーん、おまえ。うらやましいんだろ。分かった。分かったよ。おまえにもウィードあげる。いっぱいあるんだ。さっき見ただろ。秘密の栽培場」


ああ、見たよ。おまえは完全に見せる相手を間違えたけどなぁ。


「おまえも食いなよ。食えるよね」


食わねぇよ。


「食えっていうとるやろうがぁぁぁ。なんで食ってくれないの。なんで食ってくれないのぉぉぉぉぉ」


怒ってたと思ったら泣き始めた。


やっぱ過剰摂取で草


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