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昭和から来た男4/9

「俺の開拓地を案内しよう」


マサキ・ヤスヒコは小麦畑を駆け抜け、丘の急な坂を登る。やがて六角柱型の建築の袂を通り過ぎ、正面の直方体の建築を仰ぎ見る。


道はというとその双方の建築を繋ぐ渡り廊下の下を行く。そこをくぐると直方体の建築の前でロータリーとなった。


「凄い! めっちゃかっこいい。これを一人で?」


「分かるか。伝説の神建築をモデルにした」


キラキラの正面玄関の前に立つ。そこに看板が掲げられていた。“ハトヤ”と書かれている。


「ハトヤ!?」


伝説の神建築ってハトヤ!!


昭和から転移して来たってこいつは言っていた。チョイスが良いっていうのか、悪いっていうのか。何か微妙っていうそのセンス自体、もう昭和と言っていい。


「伊東に行くならハトヤ♪ 電話はヨイフロ♪」


マサキ・ヤスヒコは僕に向かって気分よく歌い始めたかと思うと意気揚々と正面玄関をくぐる。


「4126♪ 4126♪ はっきり決めた♪ ハトヤに決めた♪」


エントランスは天井から無駄に沢山のランタンがぶら下がっていて、外壁はガラス窓というデザインだ。差し込む太陽の光と天井に煌めくランタンがまさにバブル的な昭和感を醸し出している。


「伊東に行くならハトヤ♪ 電話はヨイフロ♪」


マサキ・ヤスヒコはそれからずっと、4126♪ を口ずさんでいる。はっきり言ってうざい。ハーレムやるなら女の子の前でそれはやらないほうがいいと思うよ。やばい宗教だと勘違いされてしまう。


フロントを過ぎると無数のラウンジチェアとテーブルが並ぶロビー。そこは巨大な吹き抜けで、長いエスカレータが上階へ伸びている。まさしく、ハトヤ!


マサキ・ヤスヒコの4126♪ の歌声は弾んでいる。エスカレータで階を上がり、フロアを少し歩くと六角柱型の別館へ行くための渡り廊下がある。ハトヤを模したとなれば、アイコニックなこの廊下は外せない。


宇宙船の通路のような空間に幾何学模様のカーペット、両サイドの壁にはレンズ型の窓が連なっている。温泉旅館に突如現れた、過去に想像したちょっと間違った未来の図がそこにちゃんとあった。


異世界に昭和レトロで草


廊下を渡り、階段を降りると巨大シアタールームが姿を現す。その名の通り劇場風空間で、正面にフルオーケストラが演奏できそうな広い舞台があり、フロアには無数の赤いクロスのテーブルが整然と列を作っている。見上げると二階席、三階席もあった。


4126♪ を執拗に口ずさむマサキ・ヤスヒコはというと調理室に入る。何十人も働けそうな広い空間にシンクや金属のテーブルが並ぶ。奥に大きな扉があってそこにはいると部屋の中央に雪が入った幾つもの大釜が設置されていた。


食材を保存管理する冷蔵室だ。図書館のように棚がずらりと並び、その棚にはマヨネーズ、ザワークラウトなど異世界の定番食品が大量に保管されている。


アイコニックな渡り廊下に戻り、また直方体型の本館に帰って来る。エスカレータを下りずにそのまま奥に進むとゲームコーナーだ。テーブルに置かれているのはオセロ、モノポリー。そして、卓球台。


卓球とくれば、大浴場だ。入口に掛けられた暖簾は“女”。残念だけどハトヤであってもオーナーはマサキ・ヤスヒコだ。当然ここに男湯はない。


敷き詰められた石板タイルに、広い天井を支える幾つもの石柱。そして、泳げるほどの広い湯舟。シャワー付きの洗い場が壁にずらりと並んでいて、そのどれもに石鹸とシャンプーが置かれている。


すり減らされたテンプレを地で行ってて草


大浴場を出て階段を上がり、ドアが並ぶ長い廊下を進んで部屋に入る。十五畳の座敷があり、奥の洗面脱衣所には昭和感たっぷりの洗面台が置かれていた。


個室風呂もあって流石ハトヤだ。それもヒノキ風呂だった。素晴らしいヒノキの香りに癒される。


石鹸もシャンプーも完備されていた。座敷のテーブルにはお茶とこれまた異世界定番のポテトチップス、ぷらす、ハトヤサブレ。マサキ・ヤスヒコはポテトチップスの袋を開けるとバリバリ食い始める。


「このハトヤには異世界転移チートが所々に散りばめられている。おまえには分からんだろうが、これからおいおいと俺の凄さを教えてやる」


ハトヤに異世界転移の希望がつまってて草


なろう系はご都合主義だから、実際は上手くいかないんだけどなぁ、僕みたいな不確定因子は物語からいつも完全に排除されてるし。


「あ、はい。勉強させて頂きます」


「よろしい。ハトヤはこんなもんだ。次は農地な」


ハトヤを出、丘を下りると丘の裾に沿って歩いていく。広大な小麦畑が広がり、次にジャガイモ畑、それからニンジン、キャベツ、カボチャやスイカの畑があった。サトウキビ畑は風に吹かれて緑の波がうねるよう。


どの畑にも、ランタンの下げられた松の柱が等間隔に列を造り、くり抜かれたカボチャを頭にした案山子かかしがあっちこっちランダムに立っている。


道沿いに鐘も設置されていた。マサキ・ヤスヒコはそこを通るたびに鐘をガンガン鳴らしていく。


畑に光源を置くのは作物を早く成長させるのに役立つ。もちろん、湧き潰しにもなる。ただその点でいうなら、案山子かかしや鐘はモンスター除けに全く役に立たない。湧き潰し出来たとしても農場にやってくるモンスターは止められないんだ。


麦畑は大地一面に広げられたふわふわ絨毯のようだ。ジャガイモやニンジンの畑は大地に緑と土の縞模様を描いている。


のどかな風景と草の匂いにノスタルジックな気分にさせられる。マサキ・ヤスヒコは太陽に照らされキラキラと輝いていた。


「風とともに生きよう」


まるで大地を抱きかかえるように両手を伸ばす。よくよく見るといい男だった。ほりが深く顔立ちがはっきりしていて、それもあいまって黒髪、黒い瞳のエキゾチックな雰囲気を醸し出している。


「どんなに恐ろしい武器を持っても、たくさんの可哀想なロボットを操っても、俺たちは土から離れては生きられない」


のんびり農家が宮崎駿で草


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