支配者になろうとした男2/6
百年前、魔法と言えば自ら練り上げた魔力で発現させる他なかった。訓練や知識を要し、誰もが容易に使えるものではない。なにより才能が精度や威力を左右させた。
魔族との戦いに人類が勝利し、脅威が去ると魔法の優劣がそのまま人の価値となり、魔法は新たな火種となる。それを憂えた大賢者ピピンは魔法を平和利用しようと魔法のアイテム、レシピブックを考案した。
レシピブックは安価で手に入り、誰もが等しく魔法を行使できる。使い勝手はどちらかというと戦闘ではなく創作向きで、ちょうど魔族との戦いが終わり戦後復興も相まってレシピブックは瞬く間に人々の間に広がっていく。以来、旧来の魔法は忘れ去られるのである。
二撃目が来る。上体を円のように動かして足も入れ替える。穂先が目の前を通る。スピードも速い、って余裕を見せてる場合じゃない。上手くよけすぎだな。あくまでも僕は開拓初心者で若ぞうって体。三撃目からは避ける度に近くの鉄格子にわざとぶつかって見せる。
自領への入植審査みたいなことするのだと思ったけれど、全然違った。これじゃ弱い者をいたぶって楽しんでいるとしか思えない。
「どうしてこんなことをするんですか」
答えの代わりにまた槍が降って来た。あわわとわざと声を出し、尻もちをつき、股を開く。足と足との間に槍の穂先が突き刺さった。
「挨拶がない」
当たり前の理由で草
っていうか、すごい勢いでやって来て、いきなり頭上に立たれたら誰だって挨拶するなんて無理だわ。
「こ、こんにちは。僕はヒューです」
ジェフ・タイナーの眉間に皺が寄った。視線が刃物のように鋭く変わったかと思うとネザライトの槍を僕に放つ。
え? また攻撃。なんで?
転がってよけるけど槍の穂先がドスドスと地面をついて追っかけて来る。僕は行き場を失って立ち上がり鉄格子の壁にへばり付く。目の前に槍が通って土に刺さって止まった。
「今はおはようございますの時間だ。クソガキ」
感じ悪すぎで草
「あ、はい。言い直します。おはようございます。僕はヒューです。よろしくお願いいたします」
ジェフ・タイナーは鉄格子の天井を飛び降りた。ポータルと反対側、檻の打掛がある方に立つ。出してくれるのか、と思ったら今度は槍を水平に構える。そこからまた攻撃。
はぁ? 言われた通りちゃんと訂正して挨拶しましたが!
「やめてください」
僕は後方に飛び退く。檻は長方形。ポータル側の鉄格子まで槍は届かない。ジェフ・タイナーは僕を追って檻を回り込む。檻の長辺側からの攻撃だったらどこにいても槍の間合いだ。檻の側面に場所を変えてまたやりたい放題が続く。
「武器とかで防御できないのか。クソガキ!」
僕は檻の中をのたうつように右へ左へ転がりながら槍先をよける。
「初心者ですから無理です」
「ザコか。ザコはいらない。ザコザコ」
ザコという言葉にあわせて槍を繰り出す。
要らないっていうなら帰してくれればいい。帰さないのは僕を仕留められなくて癇癪を起しているからか。それともお眼鏡に適わなかった者は皆、串刺しにしてきたのか。もう服はボロボロ。どっちかというともう我慢の限界、ホントうざくなってきた。
終わらせちゃおうかな。ただ、岩山の建築は気になる。頂上にポツンと一軒家なんて秘密基地みたい。男のロマンだ。しかも、それが珍しい円盤型ときた。ごつごつした岩肌と対照的なのもめっちゃかっこいい。一度でいいから案内してほしい。ダメもとで言ってみるか。
「あの岩山の家、かっこいいですね」
槍がピタリと止まった。ジェフ・タイナーの眼がキラリと光る。
「だろ」
ストライク?
「見たいか?」
ストライクだ。これは檻から出してくれる流れ。見せたくてうずうずしている。
「はい! 見せてくれますか!」
ジェフ・タイナーは檻の打掛を外し、扉を開ける。やったー。まじ、出してくれるんだ。
「ついてこい」
そう言うと岩山に向けて走り出す。ボーっとしてたらいけない。ちゃんと付いていかないとまた魔法をまとった槍の攻撃が来そうだ。早急にジェフ・タイナーの背中を追う。
「おい、ザコ」
走るジェフ・タイナーは振り向かず背中から言った。僕は礼儀正しく大きな声で、はいと返す。
「まさかレシピブックが使えないはないよな」
「もちろん大丈夫です。ただの初心者なだけでアイテムなんか持ってなくて」
「あれだけやれば誰しも防御にアイテム出すんだが、お前は最後までアイテムを出さなかった。だからもしかして、って思ったまでだ」
あの執拗な攻撃はアイテムを出さすため? 確かに出したアイテムによって大体の強さは察せれる。
「にしても、お前、固くね?」
はっ! まじか! 魔法をまとった槍の攻撃を最後まで耐え抜いたんだ。そりゃぁ気付くよな、やっぱ。
「ま、気のせいか」
セ、セーフ!
やぁっば。眼が節穴で草
魔法をまとった槍をあんだけブン回してたんだ。ホント初心者だったらもうとっくに殺されてるわ。
岩山の麓まで来た。切り立った岩肌に大きな木製の扉がある。入ると巨大な空間が目の前に広がっていた。
数百、いや、千を超える松明で巨大空間は隅々まで照らされている。松明はレシピブックのクラフトだ。煙は立つがそれはエフェクト。ジェフ・タイナーが命尽きるまで松明は永久に燃え続ける。
階段があり、内壁に沿って回廊がある。それが五階層。僕は階段を上って一階層目の回廊から下をのぞく。
巨大玄関ホール。岩山をくり抜いて吹き抜けにしたようだ。中央には大きな角柱が一本。天井を支えてる。下にいるジェフ・タイナーに言った。
「すごい! めちゃかっこいい!」




