昭和から来た男3/9
女神の名前も分からない。レシピブックも万能農具と勘違いしている。その名前と昭和発言から、転移して来たと言えなくもないけど、訳の分からん草を食うのをきっかけにシャキッとするのもなぁ。
無害なような気もするけど、僕を殺そうともしている。その点だけでも除けば、こいつは毒にも薬にもならないただのあほとも言える。
「そろそろ時間だな。質問は出し尽くされたようだ」
マサキ・ヤスヒコはダイヤモンドの剣をアイテム化させる。こいつの腕では僕を倒せっこない。けど、僕も実力を出せない。また初めの不毛な茶番に戻るってわけだ。
「死刑執行!」
「ちょ、ちょっと待ってください。なんで僕が死刑なんですか。それを教えてください」
「なぁぁぁぁぁにぃぃぃ」
マサキ・ヤスヒコはギロリと僕に視線を向けたかと思うと手にある剣を振り下ろした。死刑は良しとして、っていうか、良しではないんだけども、何いきなりキレてるの。僕、変なこと、聞きましたっけ。
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね」
マサキ・ヤスヒコの怒りは収まらないようだ。ブンブン剣を振り回している。もちろん僕は攻撃を受けるつもりはない。
「どうして、逃げる。どうしてだ。おまえは看板を承知でやって来たんだろ」
「看板?」
マサキ・ヤスヒコの剣が止まった。肩で息をしている。
「ポータルの前に、“女性大歓迎。男処刑。”って書いてあったろ! それでもあえておまえはここに来た。それって死刑でいいってことだよなぁ。だのに、なんで死刑なんですかはないだろ。おまえはバカか?」
それでさっき急にキレてたんか。どうりでポータルを出た途端、“男?”って聞かれたわけだ。
ハーレムやる気満々で草
そんな看板、僕が見るわけないわ。だって入ったポータルは別口。僕のポータルはどのポータルともつながってるもの。言いませんけどね。
「あのぉ、もしかして、ここに来たの、僕が最初なんじゃないかな」
「ああ、そうだが、それがなにか?」
あははは。その看板のせいだ。ハーレムどころか人っ子一人来ない。だってそんな看板、怖いもの。男に警戒されるのはもちろん、女性ならなおさらだ。
欲望が前面に出過ぎて草
看板の件はほっとこう。さて、こいつ自身をどうするかだ。誰も来ないのはその看板のせいだといつ気付くとも限らない。
「僕をここで働かせてください!」
「命乞いか。だめだね。判決はすでに死刑って出てる」
あくまでも死刑囚で草
「そこをなんとか」
こいつには絶対に僕を殺せないけどね。けど、僕はあくまでも開拓初心者、PVP素人ってことで。
「ならん」
「死刑つったって恩赦ってあるじゃないですか。僕はきっと開拓主の力になって見せます」
「恩赦はともかく、見るからにグズで! 甘ったれで! 泣き虫で! 頭の悪い雑魚に、仕事なんかあるもんか!」
「僕も万能農具、使えるといったら?」
ギロリと僕を睨みつけた。
「てめぇぇぇ、ざけんなよぉぉぉぉ。ぶっ殺す!」
切りかかってきた。僕はさっと半身になって剣をかわす。そして、振り下ろされた剣を奪い取り、インベントリに収納した。
「ほれ」
両の手の平に何もないのを見せ、インベントリをポップアップさせる。記号化された剣を持ち物スロットからホットバー枠に移し替えた。
「はい」
剣をアイテム化させる。消えた剣が僕の手にあった。
「え? えええええ!」
「ね。使えるでしょ」
「信じられねぇ」
僕は剣をマサキ・ヤスヒコに返す。マサキ・ヤスヒコは茫然と剣を取った。
ショックなのはしょうがない。“おまえも転移者?”って聞かれるとは思った。そんなわけないと答えるけど、これから先、ここに現れる入植者は全員レシピブックが使えるんだよなぁ。
「女神の言った、封印が解けたって、これなんだよ。きっと………」
バカ面で虚空を見詰めている。
はぁ?
予想の斜め上を行ってて草
「女神よ。おれはどうしたらいいんだ。教えてくれ」
それからぶつぶつとマサキ・ヤスヒコは虚空の誰かと話し始める。話がどこをたどってどういう結果になったか分からないけど、マサキ・ヤスヒコは頬を赤らめ、ニヤニヤしてもじもじする。
「わかった。ありがとう。愛してる」
虚空に向かってチューって顔をする。
気持ち悪くて草
キリリとマサキ・ヤスヒコの顔が引き締まる。そして、僕に鋭い視線を向けた。
「万能農具はここに来た誰もが使えるんだ。巨大ハーレムをつくるため、皆がはたらいてもらわなければならないって。だが、やっぱりそれは女限定。女神の教えは、ハーレムこそが人間本来の正しい営み。だから俺のスキル、無限の体力はそのために与えられたのだ」
体力って、この文脈から推察すれば、精力ってこと?
「女神は正室。巫女をいっぱい集めて女神を崇め、教義を広めよ。子をいっぱいつくれ。巫女は全部俺の妾」
一事が万事ご都合主義のなろう系で草
マサキ・ヤスヒコは僕の目と鼻の先までやって来たかと思うと、プレゼンで訴えかけるビジネスマンのように僕に向かって手を広げる。
「だったらなんで封印を解いたのよって俺は聞いたわけよ。そしたら女神のやつ、俺のためだって♡」
嘘偽りの幸せで草
「これほどの農地と建築を俺一人でやったんだ。俺に負担をかけすぎたって。少しは休んでって。だから仕事は当分お前がやる。やらなくちゃならないことはまだまだめちゃくちゃあるんだ。分かってるな!」
「働きます。そのつもり出来ました」
「よろしい。だが、これだけは言っとく。俺の正室が女神だってことは変わらない。したがって巫女たちは俺の妾。女神が生かせというからおまえを生かしてやる。気軽に俺の女神に声を掛けたり、俺に逆らったりしたら天罰が下るからな。分かったな」
死刑じゃなくて?
「天罰?」
「旧約聖書にある、ソドムとゴモラを滅ぼした天の火だ。ラーマーヤナではインドラの矢とも伝えているがね」
どこかで聞いたセリフ。
っていうかこいつ、さっきからなんかどっかで聞いたセリフをちょくちょく挟んできてるなぁ。気のせいか? まぁ、どうでもいいけど。
「女神さまは開拓主様にお優しいのですね」
「女神とやった。俺たちもう夫婦ーーーーー♡」
二次元で一人遊び出来るタイプで草




