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昭和から来た男1/9

ポータルから出た。


眼前に小麦畑が広がる。ふわりとした風がたわわに実った穂を撫でていく。ぐるり見渡すとジャガイモに玉ねぎ、キャベツにニンジンの野菜類、カボチャやスイカも栽培され、サトウキビ畑もあった。


巨大農場だ。整地された大地の向こうにはポツンと不自然に小高い丘があり、それは開墾時、人為的に残されたのは言うまでもなく、丘の中腹に六角柱型、頂上には直方体型の建築があった。どちらも集合住宅地のようで窓が幾つもある。


多くの人を収容出来る設備に、これだけの農場。人がいっぱいいてもおかしくなかったけど、いたのはただ一人。まだなんて書かれているか分からないネームタグの白い輝きが一つ、直方体型の方にあった。


僕は固有の名がある者なら、名前が書かれたタグがその頭上に浮かんで見える。もし、多くの人がここにいれば、わずらわしいぐらいあっちこっちにネームタグがあるはず。


ネームタグのそいつも僕の存在に気づいたようだ。建築から出て僕の方に向かって来ている。やがてそいつは僕の前に立った。


ダイヤモンドの防具にダイヤモンドの剣を装備してた。ネームタグにはマサキ・ヤスヒコとある。


むむ? と思った。その名前に驚きと違和感、そして、ちょっとした困惑を覚えた。僕がこいつを知っているってことではない。名前自体が問題なのだ。この世界ではあまり聞かないけど、僕の前世で聞いたありそうな名前。


姿かたちもそう。黒い瞳に黒い髪。肌も淡い黄色をしている。


かぶっているヘルメットのサイズが大きいのか、ちょっと斜めにかしいでる。その下から覗く黒い瞳がぎょろぎょろと落ち着きなく動いてた。マサキ・ヤスヒコも僕の存在に心を乱しているようだ。どうやら動揺しているのは僕だけではない。

 

「おまえ、男?」


マサキ・ヤスヒコの第一声がそれだった。そりゃ見りゃわかるだろ。僕は男だ。


「はい。ヒューです。よろしくお願いします」


「死刑!」


そう言うとマサキ・ヤスヒコは僕に突進してきた。剣を頭上に振り上げたと思ったらためらうことなく僕に振り下ろす。


え? っと思った。死刑ってなんだ。何の罪だ?


スッと体をずらしてかわす。空を切った剣に振り回されたマサキ・ヤスヒコはバランスを保てず、突進した勢いも相まって、前のめりにとっとっとっと進んで、挙句盛大に転倒する。


あらら。こりゃぁひどい。PVPは素人だ。


「おまえ、許さん」


マサキ・ヤスヒコは立ち上がると僕に向かってブンブン剣を振り回す。まるでなってない。太刀筋は鈍いし、腰が入ってない。振るたびに剣に体が持ってかれている。


当たりっこない。剣自体にはどうやらエンチャントが施されているようだけど、その体たらくじゃぁ僕の前では宝の持ち腐れ。


「止めてください。僕が何をしたというのです」


マサキ・ヤスヒコは僕の問いには答えず、剣を振りながら独り言ちるように何やらブツクサ言っている。僕の言葉なんて全然耳に入っていない。


「ころ……、」


語尾がよく聞き取れない。“殺・す”か? もしかして何かの呪文か? いずれにしても同じ単語を念仏のように繰り返し言っている。


まぁ、何を言っているかはいとくとしてだ。僕を殺そうとする気持ちだけは本物のようだ。剣を振る手が上がらなくなると肩で息をしながら少し休憩し、また懲りずに挑みかかってくる。


眼が血走っている。瞳は油を塗ったようにギラついていた。諦める気配も全くない。鬼気迫るというのはこういうことか。やばいやつだ。延々これを続ける気なんだ。ある意味大したものだ。


何がこいつにそうさせているのか。ポータルを開放しているということは入植者募集ってことだろ。それがどうして死刑宣告なんだ? 興味が湧いて来た。


マサキ・ヤスヒコって名前も引っ掛かる。黒髪黒目もそう。この死刑ごっこにずっと付き合ってやってもいいんだけど、僕の好奇心がそれを許してくれなさそうだ。仕方ない。自分に課した開拓初心者、PVP素人のルールを今回は少し破るか。


といっても、手荒なことはしない。ちょっとびっくりさせるだけ。相手が相手だ。これくらいなら何かの間違いだと決めつけてくれるだろう。


「軽身功・残像」


移動と停止を超スピードで行う。マサキ・ヤスヒコの眼に残像を残し、背後に回る。マサキ・ヤスヒコは誘われるがまま、その残像を切りつける。


「やった! ざまぁぁぁぁ」


残念ながら、からぶり。ズカっと剣が地に刺さる。頭から真っ二つになった僕の残像はというと当然ふにゃふにぁと揺れて消えてしまう。


マサキ・ヤスヒコは、スンとした顔をしていた。草www。この場面でその反応ってどういうこと?


となれば、もう一丁、残像。


「あのぉ」


背後から声を掛ける。そして、マサキ・ヤスヒコの振り向き際に、また新たに残像を作り出す。


倒したはずの僕がいる。マサキ・ヤスヒコは、ウワッと声を上げた。慌てて地に刺さった剣を引っこ抜くと大きく振りかぶり、その残像に向けて、うおぉぉっと切りかかる。


またしても、からぶり。ズカっと剣が地に刺さる。真っ二つになった残像も消えた。マサキ・ヤスヒコはというとその場で茫然と立ち尽くす。


「やばい。敵は一人じゃぁなかった。ってことは狙われている?」


えっ!


もしかして二人倒した気でいる? しかも、僕を敵って。僕は手伝いをしにきただけで敵ではない。


強迫性障害で草



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