支配者になろうとした男1/6
魔王軍の襲来で多くの大国は地上から消滅し、辺境の王国トリスタン一国のみが残される。追い詰められた人類は存亡をかけて最終決戦を挑んだ。しかし、戦況は覆らず、逆に悪化の一途を辿り、まさに人類滅亡せんとしたその時、勇者とその仲間たちが人類を救う。魔王軍を蹴散らし、魔王を討ち取るのである。人類は息を吹き返し、魔族を駆逐していく。
かくして戦いは終わった。しかし、得たものは輝かしい勝利ではなく、地平線の向こうまで広がる荒涼とした大地だけだった。
それから百年後………。
☆
ポータルから出るとそこは檻の中だった。
ガシャンと背後で金属音がする。まるででっかいネズミ捕りだ。ポータル側に鉄格子が落ちていた。ポータルとは黒曜石のキューブブロックで囲まれたワープするための出入り口である。
檻に閉じ込められたようだ。まぁ想定内だけどね。開拓主にしたって入植しにきた者がどこの馬の骨か分からない。自由にさせる前に入国審査みたいなことをやるつもりなんだ。鉄格子を触ってみる。魔法のアイテム、レシピブックでクラフトされた鉄格子だ。だったら心配ない。いつでも抜け出せる。
とはいえ僕は今、開拓初心者の若ぞうって体。だから、今のところ大人しく捕まっていようかと思う。
入り江か。
海があって浜辺があって川がある。水辺周辺は平野が広がり、そこからなだらかな丘陵地が続く。木々はところどころ多くもなく少なくもなくいい感じに茂っている。牛や羊、豚や鶏なんかもいる。放牧しているんだろう。
そもそもここは魔族たちの土地だった。夜ともなれば低級なモンスターたちがいまだ跋扈するんだけど、彼らは家畜なんかには興味がない。家畜はもともとここの生態系になかったからだ。狙うのはにっくき人間たちだけ。
開拓主はいい場所を見つけたなって思う。なんといっても大きな岩山だ。入り江を見下ろすかのように鎮座している。緑の中にただ一つ灰色にたたずむその姿は印象的で、この入り江に一度でも来たら忘れられまい。まさにランドマーク。
その頂上に建築物があった。ポツンと一軒家。しかも、形状がレシピブックのクラフトでは難しい円盤型ときた。ここの開拓主はなかなかこだわりのある人物だと想像できる。建築物の中はというとクラフトされた多くのチェストが並んでいる。
普通、外から建築物の中の物を視覚するなんて出来ない。当たり前だ。そのうえ円盤型の建築物と僕の間には相当な距離がある。冗談抜きで僕には建築を透かしてチェストだけを見ることが出来る。というか見えるようにレシピブックの魔術式をいじっている。
視覚的にはチェストの箇所がその形をかたどって黄色にマークされている。建築の内部は黄一色で満たされていた。部屋一杯にラージチェストが並べられ、それぞれ三段に積み上げられている。アイテムも相当ため込んでいることがうかがい知れる。
そして、可視化というならもう一つ、僕には能力がある。建築物の下側、岩山の内部を白く光った小さな小さな点が下へ下へと移動して岩山の麓に降りる。僕の方に向かって来ているようだが、それに伴って白い点の光はふにゃふにゃと小さなミミズがのたくったような線となり、やがては文字列、単語であることが分かってくる。
僕はぱっと見で、初めて会った人や魔族の名前を知ることが出来る。氏名があるものならその全ての頭の上にその名前が書かれたタグが浮かんで見えるんだ。この能力は生れ付きで、チェストが透視・マーキングされるという先ほどのレシピブックの改造ではない。
一見、戦闘に全く役に立たなそうなこの能力は数々の戦いにおいて僕を助けただけでなく、僕に大きなアドバンテージをもたらしてくれた。人や魔物の接近を僕に教えてくれるのである。こんないい能力は他にない。敵に見つかる前に攻撃だって可能だし、戦いを避けることも出来る。攪乱だって出来るし、罠にはめることさえ可能だ。
今回のタグは『ジェフ・タイナー』と発光する白字で書かれていた。
タイナー?
タイナーと言えば忘れもしない。竜剣士と謳われたラグーン・タイナー。やつは結婚して子供を造ったから子孫がいてもおかしくないけど、まさかな。
ジェフ・タイナーとタグに書かれている男が姿を現した。尋常ならざるスピードで僕の方に向かって来ている。頭から足先までネザライトのフル装備で、瞬く間に十歩ほど先までやって来たかと思うとそこで飛んだ。
バンッと鉄格子の天井、僕の真上に降り立つ。鼻から下が髭ぼうぼうで、その口髭は百年前の将軍様みたく先端がクルリとカールしていた。
竜剣士ラグーン・タイナーと似ても似つかなくて草
ガチおっさんのギロリと光る眼球が、ヘルメットのひさしの影から僕を見下ろしている。手にあるのはネザライトの槍。そこに不穏な気配がした。ジェフ・タイナーはその槍を頭上でグルリと回転させると逆手に持ち替える。途端、僕めがけて一撃を放つ。
いきなり攻撃! なんで。僕、なんかしたっけ。
エンチャントが付与された槍だとは思うけどあの不穏な気配。そして、タイナーという名。おそらくは槍に魔力をまとわせている。当たらなくても槍が傍を通っただけで大ダメージ。回避するのにここじゃぁ大きく飛び退くことが出来ない。仕方ない。僕も全身に魔力をまとう。
足を一歩引き、体を斜にしたその目の前を槍の穂先が落ちてくる。やっぱりだ。ビリビリとくる。
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