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3 この世界の事


 気付くとお昼になっていた。

 ドアがノックされ、ドリーが食事を運んでくる。

 なので聞いてみた。

 因みに、食事は自室で摂るように言われているよ!

 家族団欒? なにそれ美味しいの?


「ドリーは魔族や獣人族の人に会ったことはある? 彼らはこの国に住んでる?」


「魔族や獣人族、ですか? 会ったことはないですね。この国に住んでいるかどうかも、存じ上げませんね」


「そう……」


 まあ、そうか。

 なら、聖女関係の方で、調べてみる?

 確か、聖女は神殿に常駐しいてるんだよね。

 五歳児が行って話聞いてもらえる? いや、不幸な子供を見捨てるとは思えないけど、貴族の子供だと話が違ってくるよね……。一時的に保護されても、すぐに親元に戻されそう。

 そもそも、私一人が助かっても意味がないし。


「ああ、でも魔女様ならこの国に住んでますよ?」


「え? 魔女様?」


「はい。会ったことはありませんが──。それでは失礼します」


「え? ちょっ!?」


 配膳が終わると、ドリーはさっさと部屋を出ていってしまう。

 普通、食べ終わるまで控えてない? まあいいか。

 とりあえずお昼でも食べよう。

 サンドイッチとスープと紅茶。最低限の衣食住は保証されているんだよね。放っては置かれてるけど。


 魔女といえば、この国の大昔の危機を助けたのも魔女だったな。さっき読んだ地理の本に書いてあった。

 さっさとお昼を食べ終わると、魔女について調べてみる。


 魔女とは。

 魔女神の魂の半分をさらに分割して、生み出された魔女神の分身体。

 百体前後存在しているが、神話時代以降は全ての魔女が同時期に全員存在した事がないので、総人数は不明。

 肉体が滅んでも、前世の記憶と魔力を保持したまま転生可能。

 転生後、覚醒すると膨大な魔力の影響で、殺されるまで不老不死──。


 待って、待って!

 ま、魔女神? 神様ってこと?

 転生? 不老不死? 殺されないと死なない?

 いきなり魔女様から調べるのは、なんかハードル高いな……。

 もっと、この世界の根本的な話から調べた方が良いか?


 お、神話物語? あらすじは、この世界の創世神話がメイン。

 これならいいか?


『初めに混沌があった。

 混沌から世界神ネムが生まれた。

 世界神は混沌から世界の大元を作った。

 次に妖精(この頃には明確な呼び名はなかった)を造り出し、彼らによって世界を整地した。

 世界に命を吹き込むため、血液のように魔素を世界に循環させた。その管理のために精霊を造った。

 世界の基礎の完成後、男神ミオソティスと女神ギプソフィラを造り出した。

 男神と女神の役割は、この世界にあらゆる生物を生み出し、世界を完成させること。

 役目を終えた世界神は、全てを彼らに託して世界の表舞台から姿を消した。

 二柱は協力し、まずはそれぞれの事象や物事を司る神々を生み出した。

 生み出された神々により世界が安定すると、次にさまざまな生物を生み出した。

 そうして、世界の基盤が完成したとされている。


 男神と女神は生まれた子等の行く末を見守っていたが、女神には子等を慈しむ母の心が目覚め、男神より子等を優先するようになってしまった。

 男神も子等のことは愛していたが、女神の心の移り変わりに嫉妬の心が目覚めてしまう。

 その心は次第に大きくなり男神の魂を分割。分裂した魂の片方から悪神ディアンサスが生まれる。


 悪神は子等、すなわち生きとし生ける全ての物に対する嫉妬心から生まれた神であり、嫉妬の元ととなった子等を滅ぼすために、世界に瘴気を発生させた。

 それにより、多くの子等が死に絶える。


 事態を重く見た女神は自身の魂を男神同様に分割し、瘴気を浄化できる聖女神マルガリーテスを誕生させる。 

 聖女神により、瘴気は浄化されるが、悪神は瘴気から魔物を生み出し、聖女神自体を害そうとあの手この手を使ってくる。

 しかし、聖女神には戦闘力がない。他の神々や子等では瘴気の影響を受けてしまう。


 そこで女神は再び己の魂を分割し、聖女神を守るために魔女神トゥイーディアを生み出した。

 魔女神は瘴気を浄化することはできないが耐性があり、膨大な魔力とあらゆる魔法・魔術に精通している女神だ。

 結果、悪神を倒して改心させる事に成功した。


 悪神はそれまでの所業を反省し、冥界神に転身し冥界の管理者となった。自分が死に追いやった子等の魂の管理をするために。


 しかし、悪神の作り出した瘴気は世界に焼き付き、世界の仕組みの中に組み込まれてしまった。 

 これではいついかなる時でも、瘴気が湧いてしまう。


 しかし、聖女神は一人。

 そこで、聖女神も魂を分割し、分身体を何百体と造り出し、さまざまな種族と交わらさせ、浄化の力を持つ聖女がいついかなる時、場所でも一定数存在できるように蕃殖した。


 魔女神も魂を分割して、聖女神と同様に分身体の魔女を造った。

 こちらは、聖女達を守る為にそれまでの記録と記憶、そして膨大な魔力の保持のため蕃殖よりも長く生きること(存在すること)を優先させた。これにより、魔女は転生しても魔女として覚醒した時点で成長も老いも止まり、殺されない限り死なない存在となる。


 後に聖女の力は血に宿り、魔女の力は魂に宿ると称されるようになる。


 その後、世界が安定すると神々は世界の裏側に去り、地上は人々の世界となった。

 

 聖女神は魔力を管理する精霊王の妻となり精霊王を支え、魔女神は監視の意味も込めて冥界神の妻となったという。


 現在、聖女神の望み通り聖女は各国に一定数存在している。

 また、聖女を守る手段が増えた為、魔女は聖女の守護よりもその知識と魔力を使い、神々の使いとして世界の平和の維持に協力しているが、表舞台に立つことはない』

 

 と、いうことらしい。

 えーと、なるほど? 魔女は凄いってこと?

 とりあえず、男神は反省してほしいかも?


 とにかく、これがこの世界で多くの国で伝わる創世神話らしい。この他に国ごとの神話もあるとか。

 精霊は、精霊王がまとめているとか。

 瘴気と魔物が全人類(人間以外も含む)の敵であるのが世界の共通認識であるとか。

 ……それはまた今度でいいか。


 その時、部屋の扉がノックされた。


「お嬢様、食器を下げにきました」


「あ、はい」


 机の上に置いてる懐中時計を見ると、一時間ほど経っていた。


「ドリー、魔女様が王都にいるって本当?」


 食器をワゴンに乗せているドリーに、質問の続きをする。


「本当ですよ。この国の国境などに設置されている、結界発生装置のメンテナンスの為に、しばらく駐在しているみたいです」


「駐在? 居場所は知ってる?」


 王都にいるなら、出会えるチャンスもあるね。


「流石に場所までは……。ああ、でも魔女様、普段は魔動具の修理も行なっているらしいですよ。確か新聞に広告を出してましたね」


「こ、広告!? マジで!?」


「マジですね」


「ば、場所は!?」


「さあ? でも新聞の広告にはいつも、掲載されいた様な気がします」


「すぐ調べたいわ!」


「あ、午後は私もパーティーの準備をするようにヘザー様に命じられているので、申し訳ないです」


「え!? そ、そう、なら仕方ないね」


「では失礼します」


 食器類をワゴンに乗せると、ドリーは部屋を出て行った。


 くっ、そういえば今日はポーラの誕生日パーティーだった。

 流石に雇い主の命令には従うか、ドリー。


 ん? 待てよ?


 誕生日パーティーだから、疲れてヘザーはお父様に無体をしない。

 誕生日パーティーだから、人の出入りが多く使用人はほぼ全てパーティーの方に駆り出される。

 つまり、冷遇されている私への監視はいつも以上に緩くなる。


 なら今夜魔女に会いにいけば、色々都合が良いのでは?


 毎年、ポーラの誕生日パーティーの時は夕食は運ばれてくるが、以降の時間は朝まで毎年放置される。食器も片付けに来ないし、お風呂もこの日はキャンセルだ。

 

 ならば都合が良い。


 それまでに魔女の工房の場所を調べて、夜に抜け出せば良い。

 

 新聞に広告も掲載されているのなら、住所もそこに記載されているはず。


 古新聞はどこにあるんだろう?

 ドリーに聞いておけば良かった〜。


 ◇


「新聞、でございますか?」


 普段会話する事のない家令に聞いてみる。部屋を出たら丁度近くに居たのでね。

 ……いや、五歳児をそんな冷たい目で見入るの、やめてくれる?


「調べ物をしているの。場所さえ教えてくれれば、あとは自分で取りに行くわ」


「普段は不要品をまとめて置く場所がございますので、そちらに集められております。後ほど回収されますので」


 つまりはゴミ置き場的な場所って事ね。


「ですが、丁度今日が回収日でしたので、ストックはありませんね」


「ええ!?」


 なんてこったい!


「ですが、本日配達された分は、まだあるでしょう」

 

「え? どこに?」


「奥様の執務室ですね」


「え゛?」


「本日はお忙しいので、読む暇は無いかもしれませんが、明日の分とまとめて読むのでしょう」


「な、なるほど。わかったわ。ありがとう……」


 困ったわ。

 自室に戻ってベッドに座りこむ。


 この世界で通信技術がどれだけ発展しているのかは分からない。前世でいうネット検索的なことができれば手っとり早いのだが、そんな技術があるかは分からないし、有っても冷遇されている五歳児が使わせてもらえるかどうか。

 だから、新聞はいい情報源だったのだが、タイミングが悪すぎる!!


 仕方がない、ヘザーの執務室に忍び込むか?

 いや、万が一バレたら百パーセント私が疑われるわ。家令に話しちゃったから。

 その結果、お父様が酷い目に遭うかも。それは不味い。


 なら、情報ゼロで無謀に行ってみる?

 無理だわー。


 現在の時刻は午後一時すぎ。

 まだ時間は有る!


 その時、部屋の扉をノックされた。


「はい!」 


「シンシア、大丈夫かい?」


「お父様!?」


 やって来たのは、お父様のショーンだった。


「どうしました?」


「いや、家令にシンシアの様子がおかしいと聞いてね。様子を見に来た」


 家令の爺さんめ! 余計な事を!! でも、ありがとう!!


「そ、そうですか? 調べ物をしたいので新聞が欲しいと伝えたのですが、丁度今朝、古新聞は回収されたみたいで……」


「ああ、それなら。ちょっと待っていて」


 お父様は一度出て行くと、すぐに戻ってきた。


「はい、これ」


「これ、新聞、ですか?」


 お父様から新聞が手渡される。

 質感も色も、前世の日本の物とあまり変わらない。


「うん。どうせヘザーは読まないし、僕は既に読んで必要な情報は頭に入れたからね」


 は? お母様新聞読まないの? 家令の爺さん、ホラ吹きやがった!!


「ありがとうございます!」


「役に立つなら良かった。それじゃあね。……ごめんねシンシア。僕に力がないばっかりに」


 お父様に頭を撫でられる。


「いいえ、お父様。私はお父様と一緒にいられれば、お父様が元気で健康に長生きしてくれれば、それで良いのです」


「……そうか、ありがとう。そろそろ行くね」


 お父様は、優しく笑って部屋を後にした。


 必ず助けます!


 早速私は新聞を開く。


 新聞の内容は世界情勢に、ゴシップに。読者の投稿欄。

 前世ともあんまり変わらないかも。

 でもテレビ欄とかラジオ欄はない。そういう娯楽はまだ発展していないのか?

 あ、今日の王室? 王政国家みたいな項目が……。

 いや、興味はあるけどそれよりも魔女様よ!


 ペラペラとめくっていると、ある広告ページにそれはあった。


 アゲートの魔女の工房。

 一般の方から専門の方まで、魔動具の修理の事なら──。

 ご丁寧に、工房までの簡易的な地図まで記されている。


 よし! これで魔女に会える!!


 ……いや待てよ?

 今更だけど、私が住んでるこの屋敷は、()()()()()()()()()

 貴族には領地というものがあり、そこが基本の拠点となる。

 その他にタウンハウスというのもある。

 タウンハウスは王都にあって、普段領地に住んでいる貴族などが夜会シーズンなどに利用する邸宅だ。

 王都で仕事をしているなら、こちらに定住する場合が多い。


 ヘザーは過去のやらかしの影響か王都で仕事している気配はないけど、ここは王都でいいのかしら?


 確か原作情報ではルビア伯爵家の領地は、王都に近かった筈。馬車で一日で行き来できるらしいけど。

 生まれてから五年、自分が住んでいる場所の住所なんて意識したことがなかったな。

 現在地が領地だと詰みだな。五歳児の足じゃ王都までは無理。お金も無いし。

 金目の物を売る? そもそも伝手がないし、金目の物を持っていないわ。

 お父様に貰った懐中時計? 売るわけないでしょ! 生涯大切にするわ!! 

 でも、お父様の命の危機なら、潔く売るわ!!


 ……とにかく、一応住所を確かめておこう。

 どうやって? 

 お父様に聞いておけばよかった〜。いや、聞いてたら怪しまれたな。

 いや、とりあえず地図でも探してみるか。書庫にあるかな〜。


 私は新聞を持って、書庫へ向かう。地理の本に王都の詳しい地図は載っていなかったからね。

 書庫で、王都の地図を探すとあったわ。

 引っ張り出してきて、確認する。

 地図はいくつかあった。五年ほど前までは毎年新しい地図が買われていたが、それ以降はない。

 別の部屋にあるのか、ヘザーが買うのをサボっているのか、発行されていないのか。

 因みに今日の日付は、新聞に書いてあった。


 とりあえず、年代が一番新しい地図を見てみる。

 おお、王都だけの地図だけど、結構詳しい。お勧めのお店の場所や貴族のタウンハウスの場所などが記されている。

 ……貴族のタウンハウス情報は載せて大丈夫なのか?

 いや、防犯に自信があるから載せているのか? ゴーレムが普及しているらしいし。

 そういえば前世でも、昔は電話帳に個人の電話番号が載っていたっていうし、そういう感覚なのかも?


 王都は周りを城壁に囲まれており、王宮あたりを中心に土地を、大通りで十字に区切られている。

 北西には貴族向けのタウンハウス街。特にお金がある家向け。上級貴族が多い。警備も強固。

 南西もタウンハウス街だが、北南よりはお値段が安いので下級貴族や裕福な平民向け。他に高級店の事務所や作業場などもある。

 南東は平民向けの街。平民向けの住宅や店、工場(こうば)や工房などがある。冒険者向けの店や宿もこの辺り。

 北東は神殿や大きな治療院、それと()()()の本部に劇場、植物園などが北の大通り沿いにある。しかし、奥には危険な廃墟もあるため、近づいてはいけない区域もある。

 王宮周辺には学園や美術館、図書館、貴族院の本部などが集まっている。


 大通りはそれぞれ、城門へと繋がっているが。北側、西側、南側は基本的に閉ざされており、東側が王都に出入りできる唯一の城門らしい。

 ちなみに南側が正門で、凱旋パレードなどは南側の大通りで行われるので、その時だけ開門する。なので南の大通り沿いには、高級店などの上品な店が立ち並んでいる。

 平民街に近い東側の門は常時開いており、東の大通り沿いには冒険者ギルドや商会ギルドの事務所や、冒険者向けの宿などが並んでいる。

 

 新聞の広告によれば、魔女様の工房は南西の平民街にあるらしい。

 ルビア伯爵家のタウンハウスは載っているかな?

 お、あった! 南西のお安めタウンハウス街! その端っこ。

 ならここは王都だな。いや、百パーセントそうとは言い切れないけど。

 ただなんとなく、あのヘザーならタウンハウスに住んでいる気がする。だってその方が本命彼氏と逢瀬をしやすそう。あと、彼女の見栄。


 ルビア伯爵家のタウンハウスは、大通り沿いにある。王宮までは一本道だ。

 王宮まで行けば、なんとか魔女様の工房に行けるか? 

 多分、大丈夫だな!


 今夜、行くぞ!


 そして、夜に備えて今から寝る事にした。

 五歳児が夜動く為には、たっぷりのお昼寝が必要なのだ。


 というわけで、おやすみ!






サンドイッチは大昔に別の転生者が作って広めました。


書庫に王都の地図が毎年分あったのは、ヘザーの父が毎年購入してたから。

五年前までしかないのは、ヘザーが購入をサボっているため。

あと、本命彼氏が流行に詳しいから必要ないのだ。

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