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視える転生令嬢は悲劇のヒロイン(!?)なお父様を救う為に魔女様に弟子入りします!!  作者: 彩紋銅
一部 シンシア五歳

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2 前世と今世

 ◇


 前世の私は漫画やアニメ・小説などが好きな、ごく普通の一般人だったと思う。

 名前は覚えていない。

 何かの毒物と同じ響きだったので、自分の名前が嫌いだったことだけは覚えている。


 職業は日本という国で、中堅企業の事務員をしていた。

 最後の記憶は二十代半ば頃。

 だからそのあたりが享年なのだろう。


 何か特別な技能があった訳ではないが、他人(ひと)と違うことを挙げるとするならば、子供の頃は少々、波瀾万丈な人生を送っていたってことくらいだろうか。


 当時の家族は、両親と兄と私。

 父と兄はマトモな人だったが、母が最悪な人だった。

 専業主婦なのに家事はせず、ギャンブルと浮気三昧。さらにはホストにハマって生活費を勝手に使い込む。ついには()()の浮気相手まで作っていた。


 そしてどういう訳か、私だけに辛辣。

 虐待まではいかないだろうが、怒られて手を()()()()()()()、いつも私だけだった。

 もっとも、兄がいつも庇ってくれていたので、母の評価がマイナスになり、兄の好感度が爆上がりしたくらいで、特にトラウマにはならなかったけど。


 何故父がこんな人と結婚したのかといえば、両親はお見合い結婚で、母は私が生まれるまで猫を被っていたらしい。

 そして何故、こんなにやらかしているのに離婚しなかったかといえば、この頃は父の仕事が忙しく、家のことに気が回らなかったらしい。


 次第に母は、本命の浮気相手にのめり込み、家に帰って来なくなった。

 さすがに父も離婚を決断した頃、父の会社が倒産。同時期に兄が命に関わる病を発症した。


 父の退職金とそれまでの蓄えで、兄の治療費は捻出できるはずだった。

 しかし、無職になった父に、さっさと見切りをつけた母は、記入済みの離婚届を残して失踪。

 父の退職金と、それまでの蓄えも持ち逃げされていた。

 さらに、積み立てていた保険もいつの間にか解約されており、解約返戻金まで消えていた。


 そのせいで、兄はまともな治療も受けられなかった。治療を行えば、治る可能性の高い病気だったのに。

 一応、国からの補助金は下りたが、焼け石に水だった。


 父はいくつもの仕事を掛け持ちし、なんとか兄の治療費を捻出しようとしていたが、結局、間に合わなかった。


 兄が亡くなり、父も体を壊して新しい仕事を辞めざるを得なかった。

 母の行方は結局、分からなかった。

 離婚届は兄の死後に提出された。


 それからは父との生活。

 といっても、父方の祖父母と暮らすことになったので、不便も不自由もなかった。

 数年後には父も回復し、再就職にも成功。後に独立して会社も作った。

 私は中学、高校、大学と順調に進学し、就職もして、ごく普通の人生を送った。


 ただ同時に心には、どうしても母への憎しみが消えなかった。


 兄が死んだのは間違いなく、すべてのお金を持ち逃げした母のせいだ。

 父も兄の治療費を稼ぐために、過労で倒れた。

 やらかした母だけが、なんの制裁もなくのうのうと生きているなんて、許せるわけがない。


 そんな思いがどうしても消えなかった。


 そしてあの日、母が私に会いに来た。

 謝りにきたわけではない。生活に困り、金を無心しに来たのだ。


 記憶にあるよりも老いていた母は、まったく変わってはいなかった。そして、私たちの元を去ったあとに、どのような生活を送ったかを語った。


 出ていくきっかけとなった本命浮気相手とは、相手の浮気で早々に別れたらしい。

 再びホストを心の拠り所にした母は、持ち逃げした金をすべて推しのホストに注ぎ込んだ。


 金払いが良い時は母を恋人として扱ってくれたお気に入りのホストは、金が尽きると途端に冷たくなり()()()()を斡旋してきた。

 仕方なくその仕事を始めて金を稼いだが、当のホストは何かをやらかして怖い人たちに連れていかれたきり、姿を見なくなったらしい。


 その後は夜の仕事を続けて食い繋いだが、付き合う相手すべてがクズばかりで結局は幸せにはなれなかったという。

 そして、年齢的にも夜の仕事が厳しくなって、いまさら普通の仕事にもつけないため、私の元へ来たらしい。

 一体どこから、私の勤務先がバレたのか……


 結局、母の話は自分の不幸話ばかりで、父や兄への謝罪は一切なかった。


 もちろん、そんな母にお金を貸すわけもなく、私は無視してさっさと帰ろうとした。

 しかし、激昂した母に突き飛ばされた。

 運悪く倒れ込んだ拍子に、歩道にある花壇のブロックに頭を強打した。以降の記憶がないので、それが最後だったのだろう。


 いや、前世も今世も実母に恵まれていないな、私。


 あの後、どうなったかは知らないが、母だった人には相応の末路が用意されていますように!

 持っていたスマホに録音されているはずの会話が、母を制裁する材料になりますように!!


 まあ、()()()()()()()()()()ので、前世の母に対して身を焦がすような怒りはないけどね。

 でも物語の悪役に対するみたいな怒りというか、ムカつきはあるので、ちゃんと制裁は受けていて欲しいとは思う。


 さて、ウェブ漫画『リザンテラ〜土の中に咲く花〜』──長いので『リザンテラ』と呼ぶが、この作品は私が死ぬ前日に読んだ漫画だったはずだ。

 つまり、この作品が私が最後に読んだ漫画ということになる。


 だから、『リザンテラ』の世界に転生した?


 どうせ転生するなら、もっと平和でハートフルなラブコメ世界がよかったなぁーー!

 バナー広告に、まんまと釣られた結果がこれとか、酷すぎる〜。


 いや、嘆いていても仕方がない。

 転生してしまったものはしょうがない。


 というより、目の前に私以上に虐げられている人がいるので、前世とか今世とかどうでもいい。

 お父様(その人)を早く助けなくては、という想いが強い。


 ならどうするか? 


 物語、いや、〝原作〟と呼ぼうか。

 原作通りにお父様を死なせて、シンシア()が闇落ちするなんて展開は真っ平ゴメンだ。


 じゃあどうするか?


 ぶち壊すしかないでしょう、原作を!


 ◇


 といっても、今の私は五歳児だ。

 しかも、後ろ盾はほぼ無い状態だ。

 できることには限りがあるし、できることはかなり少ない。


 でも、原作では魔法を使う描写があったので、この世界には魔法があるらしい。

 それを利用すれば、五歳児でもやりようがあるかもしれない。


 ならば調べよう!


 私は早速書庫に向かうため、部屋を出た。


「お嬢様、どちらに?」


 部屋を出ると、すぐに専属侍女のドリーに声をかけられた。

 ビックリしたぁ〜。


「書庫よ。読む本を探しに」


 ドリーは、私の専属侍女だ。

 他の使用人のように私を冷遇することもないが、一切笑わず、余計な話もしない。聞かれたことには答えてくれるけど。

 蔑まれるよりは良いけど、なんだか人形みたいで少し苦手だ。

 お世話をしてもらっているので、こんなことを思ってはいけないんだけど。


 原作には確か出てこなかったので、多分モブだ。


「でしたら、お供します」


「そう? ポーラお姉様の誕生日パーティーの準備で忙しいのでは?」


 今夜は、ポーラの六歳の誕生日だ。

 だから、屋敷内が朝から忙しない雰囲気に包まれているし、お母様もお父様へのお仕置きを明日へと()()()()のだ。


 ちなみに、私は生まれてこの方、参加したことはないし、お母様に誕生日を祝われたこともない。


 あ、お父様には毎年、プレゼントは貰っているよ。

 去年は懐中時計をもらった。


 まあ、女児へのプレゼントとしてはちょっとずれているが、お父様が用意できる、精一杯のものだったのだろう。

 お母様の目があるから、女の子が好きそうな店には行けないし、屋敷にも呼べないだろうからね。


 でも、懐中時計のデザインは女性的で、花のデザインがされていて綺麗だし、私は気に入っている。蓋を開けると立てて置けるのも便利。

 魔力石で動いているので、相当なことがなければ狂わないし、半永久的に動くらしい。スゴイ!


 なお、この世界でも一日は二十四時間で、一週間は七日で、一ヶ月は三十日で、一年は十二ヶ月で、三百六十日だ。

  前世との齟齬があまりないのは助かる。


 ちなみに、さっきお父様がお母様に引っ叩かれたのは、今年こそシンシア()をポーラの誕生日パーティーに参加させるべきだと、お父様が意見したからだ。

 もっとも、お母様はそれを許すことはなかった。


「わたしは、シンシア様の専属なので、大した仕事は回って来ませんし、回ってきても断ります。面倒なので」


 断れるの? ていうか、面倒って……


「そ、そう? なら頼もうかな?」


「はい」


 私はドリーを伴って書庫に向かった。


「どんな本をお探しですか?」


「うーん。魔法に関するもの、この世界のこと、地図とか。あとは辞書かな? とりあえずは」


 お母様の見栄なのか、貴族の一般常識なのかは分からないけど、シンシア()も一応、家庭教師による教育は受けている。なので文字の読み書きはできる。

 さすがに難しい単語は、辞書を引く必要はあるけど。


「こんな物でいかがです?」


 ドリーが適当に本を見繕ってくれた。


「うん。ありがとう。部屋に運んでもらえる?」


「かしこまりました」


 分厚い本が五〜六冊。私だけでは運べなかったな。ドリーに感謝だ。


「重くない? 何冊かもつ?」


「大丈夫です」


 意外にもドリーは力持ちだった。


 部屋に戻る途中、遠目に姉のポーラを見かけた。

 ローズピンクの髪にネイビーの瞳の美少女。


 ポーラは、私に気付くことなく、大勢の侍女を連れて自室に入って行った。

 私の部屋は中央階段の東側にある。それ以外の家族は西側。だから、ポーラの部屋からは少し距離があるので無理もない。

 あの様子じゃそろそろ、パーティーの支度を始めるのかもしれない。


 お母様の意向で私とポーラの交流は禁止されている。なので彼女が私をどう思っているのかは、分からないし、挨拶すらしたことがない。

 それはお父様も同じで、誕生日パーティーなどの家族行事には出席するし、食卓も囲むが、まともな会話はしたことがないらしい。

 ポーラに声をかけると、お母様に烈火の如くキレられるらしい。


 自室に戻る。

 机に本を置いてもらって、私も机に向かう。

 それで、ドリーには退室してもらった。


 原作ではポーラは母親のヘザー同様、治癒魔法が得意でそれに加えて聖女の才もある。

 しかし、シンシアに関しては、よく分からない。


 魔法が使えないとは言及されていないが、原作では自ら魔法を使う描写はなく、大抵は()()()厄介事(事件)を起こしていた。


 学園編の終盤で罪を暴かれ、修道院に入れられて以降は出てこないので、シンシア(彼女)のことは前半のボスという情報しかなかったりする。


 まずは自分のできることを知りたいが、魔力の量と属性を知るには神殿か教会で調べてもらう必要があると、原作では描かれていた。

 年齢は確か五歳以上なら誰でも行える。

 果たして、誰かに頼んだところで私を神殿に、連れて行ってくれる人はいるのだろうか?


 お父様は頼めばなんとかしてくれるだろうけど、ただでさえ忙しくて自分の時間さえ取れていない。さすがに申し訳ない。


 ドリーは屋敷の中なら面倒を見てくれるけど、外は庭までが仕事の範囲内と以前言っていたので、望みは薄い。


 それなら一人で行くしかない?


 貴族の五歳児(子供)が一人で?


 誘拐される未来しか見えない。

 それはそれでお母様の望み通りでムカつくので、やめておこう。

 この件は保留だな。


 私は地理の本を捲る。

 この世界の世界地図や国ごとの特色などが載っている本だ。

 世界地図があるとか、結構文明が進んでいる世界なのかもしれない。まあ、魔法が発展すれば難しいことではないのか。


 世界地図は確かに前世の世界のものとは違う。

 大陸は六つに分かれており、それぞれルベル大陸、カエルラ大陸、フラーフム大陸、ウィリデ大陸、ニゲル大陸、アルブム大陸というらしい。

 特に気になるのは、獣人族の国や魔族の国。

 人間以外が治める国もあるんだね。


 現在、人間以外が治めている国で、()()()()()()()()()()()のは三カ国。


 その内、獣人族が治める国は二カ国。

 一つは蒼き竜人族が治める『セレスト竜王国』

 もう一つは(あか)き竜人族が治める『スオウ竜帝国』


 どちらも獣人の国で大国らしいが、セレスト竜王国は他種族にも友好的で積極的に交易している。移住者も積極的に受け入れている。

 スオウ竜帝国は獣人……というか皇族の竜人至上主義で、他種族を見下しているので排他的らしい。

 旅行に行くならセレスト竜王国だね。


 三つ目の国は、魔族の国で『ユウオウ魔王国』という。

 魔法が盛んで、最新の魔法や魔術が生まれるのはいつもこの国から、らしい。

 多くの国と友好関係を築いているらしく、移住者や留学生も多く受け入れているとか。

 私の知るファンタジー世界の魔族とはえらい違いだ。もちろん王様は魔王。魔族の王様だから。


 ちなみに魔族とは、人間族と獣人族以外の社会性のあるすべての種族が含まれるそうだ。


 獣人の国も魔族の国も魅力的だけど、ほぼ放置されてる五歳児の私が今すぐ行って、誰かに協力を取り付けるのは無理。現実的じゃない。


 他に何かないか?

 私はひとまず自分の住んでいる国のことを調べることにした。


 この国の名は、『クレメシヌス王国』。

 クレメシヌス王国は魔法技術、略して魔術の発展した国らしい。

 ()()()()()魔動具や()()()()()()使()()()魔法具の他に、ゴーレムなども人足の代わりに重宝されている。


 ルベル大陸の南の真ん中あたりにあり、国土は大陸内で三番目に広い。

 気候は、冬以外は過ごしやすいが、冬はドカ雪が基本。

 王都などの主要都市は対策しているので、都市機能が麻痺することはない。地方の場合は、対策が追いついておらず、冬はほぼ活動ができない場所もある。


 北側は山岳地帯。

 山には精霊がいるらしい。土地のほとんどが山で産業がしづらいため、国が管理している土地。

 隣接しているのは大陸で一番大きな国で友好国なので、比較的平和。

 雪の量はヤバイ。


 北西側は国境の向こう側が砂漠。

 北側とは別の国と隣接しているが、北の大国の属国なので、一応友好国。

 砂に潜る系の魔獣がいるので、辺境伯が置かれている。ただ、ここの魔獣は温厚らしく縄張り外の人を襲うのは稀。比較的平和な辺境。

 たまに密入国をしようとする人がいるが、大抵は魔獣のご飯になってしまう。


 西南側は陸の貿易の窓口。

 隣接するのは、北西側と同じ砂漠の国。

 辺境伯が置かれているが、こちらは魔獣ではなく主に人間相手となる。

 国境の向こうは砂漠ではなく穏やかな平地が広がっているが、たまに砂漠地帯や海の魔物が紛れ込む。


 南側から南東側は海に面している。

 船による貿易が盛んで、異国情緒あふれる街並みが広がっているらしい。

 観光地としても有名。海での戦闘に特化した青の騎士団の本部がある。


 北東側の国境付近には魔の森が広がっている。

 しかもその向こう側に隣接するのは、敵対こそしていないが、緊張状態にある国。

 魔素の強い土地なので魔獣も強力になる上、増えるのも早い。そこを掻い潜り隣国の刺客がやってくる。

 ヤバい魔の森を突破してくる猛者なので、相当強い。

 そんなのを日々相手にしているので、この国で最も殺伐とした場所となっている。

 重罪を犯したけど、死罪にならなかった者が行き着く場所でもあるそうだ。

 ここを治める辺境伯は、この国で最も強いかもしれない。


 国としての特色は魔動具や、魔動装置、そしてゴーレムの製作などの魔法技術(魔術)が盛ん。


 ゴーレムって、ファンタジー世界のロボットみたいなやつだっけ? 原作には出てきたっけ?


 えーと大昔、神話の時代に近い頃。

 戦と疫病で国民が減り、国力が損なわれる危機に陥った。

 そこへ一人の魔女が現れ、ゴーレムやクレメシヌス技術の知識を与えた。それらによって人足を賄い、国は持ち直したらしい。


 なるほど〜、魔女もいるのか〜。


 そういえば『リザンテラ』でも、魔女本人は出てこなかったけれど、彼女たちが作ったらしいアイテムはいくつか出てきたような? 魔女印のなんとか薬〜みたいな。いや、これは別作品だったか? ちょっとあやふやかも。


 多分ここは、『リザンテラ』の世界そのものというより、似た世界なのかもしれない。


 それでもお父様を助けるという目的は、変わらない。


 しかし、現状を打破するようなめぼしい情報はないか。


 その後も、調べ物を続けた……







前世母は、前世父によってきっちりがっつり制裁されました。


懐中時計にデザインされている花は、クルシアナシンシアという花。

チューリップの原種らしい。


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