表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/46

1 ちょっぴりハードな恋愛漫画の世界

 ◆


 バシンッと、殴打音が執務室に響く。


「お父様!!」


 私は衝撃で倒れ込んだお父様に、急いで駆け寄った。


「ショーン、あなた私に意見するなんて随分偉くなったものね。子爵家の次男の分際でっ!」


 お父様を平手打ちしたのは、私のお母様。


「……だがヘザー、シンシアだって君の娘だ。何故姉のポーラと差別する?」


 お父様は頬を抑えながら、その美しい顔を歪ませる。


「あなたとの子供なんて、いらないのだから仕方がないでしょう? 本当なら、()()()との子供しか欲しくなかったのに、うっかり避妊薬を飲み忘れるなんて……」


「ヘザー、子供の前でそのようなことをっ!」


 お父様は私に聞かせまいと抱きしめながら、お母様を止める。

 そのあたりはお父様も()()()()なので、無理しないでほしいです。


 ……私は()()()ですが。


「あなたが、理由を聞いたんじゃない。全く、身の程をわかっていないのね。──今夜、いいえ明日の晩は()()()()()


 お母様がお父様を睨む。

 夜──、つまりはお父様が夫婦の営みで、酷い目に遭わせられるという意味だ。

 お母様とのそういう事に()()()()があるお父様には、死刑宣告にも等しい。

 しかし、立場的にお父様に拒否権はない。

 今夜は忙しいので、その罰は明日の夜に持ち越されるようだ。


「……」


 嫌な行為(こと)が先延ばしになっただけで、地獄の時間が待っている事に変わりはない。

 お父様は、顔色を悪くして俯いた。


「お、お父様……」


 私は心配そうにお父様を見上げる。


「……大丈夫、シンシアは部屋に戻っていなさい」


 それでもお父様は、私に心配をかけまいと微笑んだ。


「お父様、ごめんなさい……」


 お父様が苦しんでいても、私は、何もできない。


 ()()()の感情に引っ張られて、涙が滲む。


「大丈夫、だから……」


 私はお父様にぎゅっと抱きしめられ、そして言われた通りに自室に戻った。


 どうすれば、お父様を助けられるだろう。

 五歳児の自分に何ができるだろう。


 たとえ()()()()()()あっても、子供の姿では何もできないということを改めて痛感した。



 ◆


 私はシンシア・ルビア。転生者だ。

 現在、五歳。

 おそらく、生まれた時から前世の記憶がある。

 ただ乳児期は赤ん坊の本能に引っ張られたのか、肉体や脳が成長していないからか、その頃は記憶は朧げだ。

 なので自分が転生者である事を自覚したのは、四歳頃のことだった。

 そして、現状を理解したのはつい最近。

 だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 家族はお母様のヘザーとお父様のショーン、それに父親の違う()のポーラ。

 尤も、私とお父様はお母様に家族認定はされていないので、戸籍(書類)上の家族だ。


 ルビア家は伯爵位でありこの国は条件はあるが女性でも爵位が継げるので、一人娘のヘザーが女伯爵としてこの家を継いだ。つまり最もこの家で権力があるのが、母親のヘザーなのだ。

 そんなお母様には本命の殿方がおり、ポーラはその人との子供。お父様は爵位を継ぐために婿入りさせた政略結婚の相手。

 本命の相手に会えない寂しさをショーンを使()()()紛らわせ、それでデキてしまったのが私。その時のショーンは、ほぼ襲われたようなもなので、ヘザーとのそういう行為には、少々トラウマがあるというわけだ。


 転生者とはいえ、何故ここまで夫婦の秘密を知っているのかといえば、前世で()()()()()()()()からだ。


 この世界はおそらく前世で読んでいたウェブ漫画『リザンテラ〜土の中に咲く花〜』の世界、もしくはそれに酷似した世界だ。

 というか、主人公とその家族の名前とお父様の境遇が同じという共通点が多すぎるので、多分そうなのだろうと思う。


 ウェブ漫画『リザンテラ』は、ちょっぴり(?)ハードな恋愛漫画だ。


 主人公は姉のポーラ。

 シンシア()は前半の学園編での敵役。

 悪役令嬢と言って良いポジションのキャラクターだ。


 主な内容は、彼女自身や彼女の周りで巻き起こる様々な愛憎劇。

 ポーラ自身も酷い目に遭うが、それ以上に周りの(モブ)達が酷い目に遭う。

 大抵は恋愛絡みで問題が起こり、横恋慕をして恋敵を亡き者にしたり、別れた元妻を無理やり閉じ込めたり、薬を使って無理矢理寝取ったりと、胸糞悪くなる展開が続く。

 救いなのは、やらかした相手が大抵報いを受けるのと、主人公のポーラは最終的に幸せにはなることくらいだろう。

 ただ、ざまぁ要素は薄味だったけど。どっちかといえば胸糞要素の方が強い。

 シンシア()主人公(ポーラ)周りの事以外は朧げだが、大体そんな話だったと思う。


 そしておそらく、最初に酷い目に遭うのが、ポーラの義父でありシンシア()の実父であるショーンだ。

 

 ヘザーは、元は優秀な女性だった。

 立派な女伯爵になるための努力は欠かさず、貴族や優秀な平民が通う学園では常に成績は上位。才女として名を残していた。

 また、ヘザーの一族は光属性の魔法が得意という特徴があり、聖女を輩出したこともある。

 ヘザーは聖女の力は持たなかったが、強力な治癒魔法を得意としていたので、女伯爵でなくても治癒師として重宝される人材だった。

 当時の婚約者とも相思相愛で、良好な関係を築いていた。

 

 しかし、卒業して二〜三年ほどした頃、女伯爵になる為に奔走していたヘザーは、運命の相手と出会ってしまう。

 学園時代の同級生でもあり、男爵家の次男でイケメンの男性。それまでのイケメン具合に大人の色気が加わり、より魅力的になった彼にヘザーはコロッと落ちてしまった。

 そしてあっという間に男女の関係になり、ポーラを孕ってしまう。

 それは婚約者と結婚する半年前の事だった。


 才女ヘザーは、ここからさらに転がり()()()


 当然、婚約はヘザー有責の破棄。

 公爵家の二男だった元婚約者には、多額の慰謝料が支払われた。


 しかし女性が爵位を継ぐ条件の一つが、夫もしくは確実に結婚予定の婚約者がいる事。

 急ぎ相手を探し、そして白羽の矢が立てられたのが、ショーンだった。

 その年、ショーンの実家の領地は、災害の影響でかなりの打撃を受けていた。

 資金援助をする代わりにショーンは文字通り、ルビア伯爵家に身売り同然に婿入りさせられたのだ。


 ヘザー二十三歳、ショーン十六歳の時だった。

 

 当時、ショーンはまだ学生だったのと、ヘザーのお腹の中にはポーラがいた為、書類上だけの夫婦となり、ショーンは学園を辞める事なく卒業はできたらしい。


 そしてポーラも生まれて落ち着いてきた頃。

 ショーンは長期休暇の度に、ルビア伯爵家のタウンハウスで過ごす事になった。

 最初の春の長期休暇の時。

 本命と愛し合えない寂しさを埋めるため、ヘザーはショーンを襲ってしまう。

 その際に、ヘザーは避妊薬を飲むのを怠ってしまった。

 結果、ヘザーはシンシア()を孕ってしまう。

 気づいた時には堕胎のできない時期であり、そもそも女伯爵が堕胎などあり得ない。それまでのやらかしもありヘザーは産むしかなかった。


 成人しているとはいえ、七歳年下の男子学生との間に子供ができた事も、社交界ではちょっとした醜聞となった。


 貴族であればこの歳の差も、在学中に婚姻を結ぶことも珍しくはない。それにより、中退することも。

 ただ近年ではどんなに急ぎの婚姻でも、相手が学生なら卒業まで待つのが主流だ。

 これは学園生活を社会勉強の一環と捉えられたのと、伴侶が学生なら学びの機会を与えることがスマートだという考え方が流行っているからだ。


 この考え方の元になったのは先々代の王弟で、婚約者の女性とは十歳差だったらしい。

 当然、婚約者が在学中は子供ができる行為は控えることになる。

 せっかく伴侶の学園生活を許したのに、孕らせてしまったら結局長期的に休むこととなるからだ。

 そもそも我慢ができなかったのかと、社交界で笑われるのだ。それなら最初から中退させればいいと。

 これは、相手が嫁入りした女性だったら、の話だが、性別が逆転しても適応される。だって女性でも爵位が継げるから。

 まあ、ヘザーが嫁入りする側なら、そこまで醜聞にはならなかったと思うけどね。


 あと、ショーンの見た目のせいでもある。

 当時、と言うか今もだが、ショーンはミルクティー色のサラサラの髪とマゼンダの瞳を持ち、線が細く美少女のような少年(今は青年)だ。背は女性としては高いが、男性としては少し低めなので、男らしさとは真逆の容姿と言える。

 多分、女装したら喪女だった前世の私よりも女の子してる。男の娘ってやつ?

 つまり、ショーンは儚げな美少女──、じゃなくて、儚げな美少年だったのだ。

 この為、世間一般ではヘザーが我慢できなかった、という事になってしまうのだ。実際にそうだし。

 ショーンの容姿がもっと筋骨隆々で男らしかったら、ここまで言われなかったのだろうけど。


 そういったことが積み重なり、ヘザーがショーンを虐げる要因となる。ヘザーの完全自業自得だけど。


 本命以外の子供を産む気のなかったヘザーは、シンシアが生まれても彼女を可愛がることも育てることもしなかった。

 私の世話は、年老いた侍女に丸投げされた。

 ショーンも率先して私の面倒を見てはくれたが、私が生まれた頃は学業とルビア伯爵家の婿となるための勉強で忙しく、なかなかそばにはいられなかった。まあ、これは仕方がないだろう。


 そうして、ショーンが学園を卒業するとルビア伯爵家の邸宅に一緒に住む事になったが、彼の()()()()()()()()()()

 

 昼間は仕事でこき使われ、夜はベッドで()()()()


 そのうち、ヘザーは本命の彼を従者として迎え入れ、ヘザーが彼と一緒の時間を過ごすために仕事は全て押し付けるようになる。

 まあ、今でも仕事の殆どをショーンに押し付けてはいるんだけど。

 そして、ヘザーの本命彼氏は戯れにショーンを襲う。すなわち男同士のアレだ。

 それに嫉妬したヘザーはショーンを虐待し(こちらは暴力)、結果、過労と暴力によって、ショーンは死亡。

 これはシンシアが七歳の頃の出来事で、シンシアが闇堕ちするきっかけとなるのだ。


 因みにこのエピソードは一話よりも前の話なので、作中では文章とイメージイラストで説明されるだけで終わる。


 物語はポーラが、王都にある貴族と特別な技能を持った平民が通う学園に入学するところから始まる。

 そして、シンシアは父ショーンの事もあり、ポーラを虐める。学園に入れば彼女を陥れる為、暗躍する。

 ちなみに、本命の彼と再婚したヘザーは愛し合う事に夢中で、ポーラのことも放置する。

 むしろ、学園ではシンシアの方が成績が良いので、手の平を返してシンシアの方を優遇し出すのだ。


 うん。ヘザー最悪じゃね?


 治癒が得意なのにショーン死なせるとか、その方が都合がいいからそうしたんじゃん。

 ちなみに、ウェブ漫画のコメントでも、ヘザーへのアンチコメントは多かった。

 ポーラの実家のお家事情は、彼女が卒業してしまうとフェードアウトしてしまうので、うやむやになってしまったのもヘイトを稼ぐ原因となった。シンシアは修道院に入れられたらしいけど、ポーラの両親は行方知れずとなって学園編は終わる。


 学園編が終わると、ポーラは学園で支えてくれていた婚約者と結婚する。

 しかし、あんなに優しかった婚約者にはポーラの知らなかった恋人がおり、ポーラとの結婚はルビア伯爵家を乗っ取る為のものだった。

 ポーラは白い結婚を強いられ、屋敷の使用人は全て彼に従順な者と入れ替えられた。

 誰も味方のいなくなった生家で、夫とその本命の恋人に虐げられる日々。

 そんな状況を打破し、本当の運命の相手と結ばれて物語は終わる。ハッピーエンドだ!

  

 ポーラの物語はそんな感じ。


 それに他のキャラクターのイザコザがあって、ポーラがその解決に関わっていく感じだ。

 ただ、ルビア伯爵家以外の登場キャラクターは、ほとんど覚えていない。なんかそういうエピソードがあったなぐらいにしか覚えていない。

 まあ、自分とお父様が助かるならそれで良いし、十分だろう。


 ヘザーやポーラの事はどうでもいい。

勝手に幸せになるなり、不幸になるなりすればいい。

 

 問題は、このままではお父様(ショーン)が、二年後には死んでしまうということだ。

 しかも、現在進行形で酷い目に合っている。


 正直、何にも非がない人物が理不尽に虐げられた挙句、死ぬとか放置するわけにはいかない。

 それが、唯一私を愛してくれているお父様なら尚更だ。

 なお、生まれてから育ててくれた高齢の侍女は、私が四歳の頃に体を壊して辞職した。



 ()()()()()()()()()()()()ので、今世ではどうしても大切な人を助けたいと思う。

 

 果たして五歳の私に、お父様を助ける事が出来るだろうか。






長編に挑戦してみました!

よろしくオナシャス!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ