過去との対峙 2
この時代、傭兵の主な仕事は輸送車両の護衛にハブ・ジャッカーの排除だ。
どこのシェルターも輸送車両を狙うハブ・ジャッカーと呼ばれる存在に悩まされている。
太陽系事変のあと、希望者は全て『大脱出』に参加できたのだが、指名手配中の重犯罪者、暴力的犯罪組織や麻薬カルテルの構成員など、脛に傷を持つ者たちはこぞって脱出を拒否した。出頭すれば逮捕されるのだから当然だろう。
地球に残った彼ら彼女らは、各シェルターを繋ぐ中継拠点を奪取して拠点化し、シェルター間を行き来する輸送車両を襲って食いつないでいた。
そんなハブ・ジャッカーから輸送車両を守るのが傭兵の任務だ。
バンコク・シェルターで雇われていたころ、護衛任務で輸送隊に随伴していた。
自前の氷上装甲車で随行していた俺は、油断なく周囲を警戒していた。この辺りは大規模なハブ・ジャッカーの縄張りだからだ。
やつらは軽装甲車どころか重武装の戦闘車両まで保持しているとも聞く。
まず間違いなく元兵士が関わっている。
突如警報音が鳴り響く。
先行している無人偵察車からの警告だ。
『ポイント三〇四、七五六に微弱な熱源反応。トランスポンダーの応答無し。待ち伏せの可能性大』
近いな。ここから十一時の方向、十キロメートルほど先だ。氷原に身を潜めている車両は、まず間違いなくハブ・ジャッカーだ。
……どうでもいいことだが、草木一本存在しない極寒の地でアンブッシュとは奇妙な表現だ。
「輸送隊長、どうやら待ち伏せされているようだ。迂回するか?」
『キースか、迂回は無理だ。燃料がぎりぎりなのだ。ずさんな補給担当の責任だ』
こいつは問題のある輸送隊長だ。補給担当のせいにしているが、燃料を余らせて横領しているとの噂もある。
「了解。先行して敵を叩く。輸送隊はここで待機」
会話は記録した。後でルートログを添えてシェルター評議会に提出してやろう。ちなみに出発前の全車両の燃料積載量も記録してある。犯罪の抑止も傭兵の嗜みだ。
どのみちこの距離だ。待ち伏せから逃げ切れる可能性は低い。積極的に排除に向かおう。
一旦、九時方向に移動、さらに進路を変換して待ち伏せ地点へと向かう。輸送隊の位置を悟られないためだ。
無人偵察車に指示を出して挟撃態勢をとる。偵察ドローンを射出、敵の正体を探る。
ドローンが待ち伏せ地点上空に到着したと同時に発砲音。ドローンの信号が途絶える。
CSの実地訓練でさんざん聞かされた陸戦用重ガトリング砲『ファラリス』の咆哮だ。
「なんてものを持ってやがるんだ……」
ドローンを撃墜するには過剰すぎる攻撃だ。力を誇示するためにわざと使ったのだろう。
ファラリスは、五五ミリ機関砲弾を秒間百二十発発射する。
大口径弾の超高速射撃は、雄牛の咆鳴のような独特の発砲音を伴う。人に恐怖をもたらすこの音は、示威にはもってこいだ。
ちなみに、こいつは携行型重機関砲に分類される。この巨大な砲身を携行するのは機械の腕だ。武器を把持する腕は『補助腕』と呼ばれている。
つまり、補助腕を備えた強力な兵器をハブ・ジャッカーどもは持っているわけだ。自走機関砲だろうか……。やっかいなことだ。
補助腕という名称は、政治的な婉曲表現らしい。俺も初めて聞いたときは、弾倉をちまちまと交換する細っこいマニピュレータをイメージしていた。だが、実際は重量一トン弱のファラリスを軽々と振り回す物々しい剛腕だった。
破壊される寸前のドローンから送られてきたセンシングデータの解析結果が出る。
「特殊戦闘車両、八〇式『センチネル』の輸出仕様か……。寒冷地改装済みだな」
最悪と言っていい相手だった。太陽系事変よりずっと以前の地球で、重武装ゲリラを狩りまくっていた怪物だ。
唯一の救いは、東南アジア向けのモンキーモデルだったことだ。フルスペックモデルなら、強固な装甲と高度な電子戦装備により手の出しようがなかった。
モンキーモデルでは透明セラミック製の透過装甲が露出している。
だが、正規モデルでは複合装甲で覆われ、センチネル唯一の弱点である透過装甲を塞いでいる。
操縦者は、透明セラミックに投影されるXRで外部の状況を見ながら操縦する形だ。




