過去との対峙 1
「さあ、出発だ!」とジーンは微笑みながら言った。
特殊戦闘車両『センチネル』。
一対の強力な補助腕と、履帯を備えた伸縮可能な脚部を持つ、極めて威圧的な外観の車両だ。
悪路での四脚歩行と、履帯による高速巡航を両立した陸戦兵器である。地球連邦樹立前、世界連邦の時代に都市ゲリラの掃討戦で活躍していたそうだ。
太陽系事変に続く『大脱出』のさなか、カナダ自治軍の軍事基地で、武装と強化装甲を解除されモスボールとなっていた。
ノーザンエンド大規模セツルメントの建設を計画していたバンクーバー・シェルター評議会は、建設重機として『センチネル』を復活させた。
ガトリング砲を振り回した補助腕は、工事現場でバケットを振るい、履帯をうならせ市街地を駆けぬけた四脚は、凍結した地表をものともせずに走り回った。
―― 実は傭兵時代に、『センチネル』と対峙したことがある。バンコク・シェルターに雇われていたときのことだ。
『大脱出』の後、地球に残った人々はある決断をした。地球人類の悲願である軍隊の放棄だ。
今から三十年前のことだ。
正確には、正規軍を解体して警備部隊へと組織改編を進めた。
解体時の余剰人員は、軍人軍属を問わず手厚い再就職支援が行われた。
だが、民間で働くことに戸惑う者も多かった。
そこで軍は、戦闘力や人格面で問題のない者に限り、国際シェルター会議の承認下で活動する、戦闘員資格を用意したのだ。
コメンデッド・ソルジャーと呼ばれる存在だ。
コメンデッド・ソルジャーは、基本的には自由契約だ。どこで働くかは自分で選べる。
世界各地のシェルター、もしくはシェルターが大きく発展した、大規模セツルメントが雇用主となる形だ。
CSは世界を巡る存在だ。これは地域との癒着を避ける意図もあった。
あまり露骨ではないが、機械知性たちが暗に方向性を与えている。機械知性は、個々が明確な人格を持ち、人間と深い理解で結ばれた同盟種族である。
『カイロ・シェルターで子猫が生まれるそうです。今から向かえば出産に立ち会えますよ』など、興味を引きそうな話題で釣って、世界各地にCSを送り込む。
かくいう俺も、僅かながら生き延びた小動物たちとのふれあいを求めて世界中を旅していた。
機械知性が、地球人の論理や感情を理解する契機となった『人格オーバーレイ』を考案した人物には本当に敬服する。皮肉抜きで……。
機械知性の思いどおりに操られている気もするが、それも悪くないと思ってしまう。
軍の解体に当たって一番の懸念は、元兵士の流出による治安の悪化だった。
多種の武器を扱う技術、戦術的な判断力、厳しい訓練で鍛え上げられた肉体を持つ元兵士が、反社会勢力に流れることを危惧したのだ。
そういった元兵士が、シェルターに害をなす存在になったとき、対抗できる戦闘員が必要になる。
警備部隊員も元兵士だが、戦闘員としての能力が年々減少することは予想できる。
彼らの主任務は治安維持であり、捕縛術などの基本的な訓練は行われるが、厳しい戦闘訓練を課せられるわけではない。
そこでCSという存在が生まれた。
戦闘技能を磨きながら世界各地で活動を続け、理想の居場所を見つけたら、その地に根ざして後続を育てる。
現状に即した師弟制度がシェルター法に盛り込まれた。
あと数百年は続くとされる『エッジ』の閉鎖。再び『エッジ』が開くまで、太陽系は銀河文明から取り残されたままだ。
その長い期間に、CSの戦闘技術体系は過去の軍の枠を超え、この凍結した地球に適した存在となっていくだろうと機械知性たちの見解は一致した。
CSの活動は、国際シェルター会議所属の監察官たちが逐一チェックしている。
その行動が、CSにふさわしくないと判断された場合は、資格が剥奪されることもある。
俺の認識では、CSは法の下に犯罪者を追い詰める捜査官ではない。反社会勢力に加担した元兵士を狩る傭われた兵士だ。
他のCSたちも傭兵と自称しているところから、皆、似たような考えかもしれないな。




