戦いのあと
コハクにヴェリテの確保を伝える。
『そうかい、よくやったね。お疲れさん』
「今からセレスの救急救命室にヴェリテを移送する」
『拙も向かうよ。現地で合流しようかね』
「補助ユニット。敵性体を確保した。敵性体に取り込まれた調査課員の脳を、救急救命室で摘出する」
現在、セレスを管理している補助ユニットに告げる。
『了解。メインポートの遠隔操作機能を喪失。メンテナンスハブからの搬入を要請』
「アファーム。メンテナンスハブから搬入する」
ノワールと共にヴェリテを運ぶ。救急救命室に到着。
救命室はすでに与圧されていた。
そこでコハクは一人(一匹?)ぽつんと待っていた。
「ジーンは連れて来なかったのか?」
「自分の両親の脳と対面するのは衝撃的過ぎるだろう? 置いてきたさ」
「配慮に感謝するよ」
「それじゃ、始めるとするかね」
救命室の大型マニピュレータがヴェリテの体を固定する。
別のマニピュレータがヴェリテの胸部に液体を塗布している。
「何を塗っているんだ?」
「こいつは厄介な皮膚を持っているからね。医療用分子デバイスで柔らかくするのさ。しばらく待っていな」
ひとまず、暇ができたのでノワールに話しかける。
「ヴェリテの伝導装置を小さなニードルで撃ち抜くと聞いていたが、まさか、あんな巨大な砲身だったとはな」
「ヴェリテの目を盗んでセレスから資材を調達しました。仕様上あのサイズになってしまったのです」
「ふむ、ヴェリテの耐衝撃機能が作動していないな」
着弾時の状況を補助電子脳のストレージから再現。
「あの長い砲身でニードルを超高周波振動させているんですよ。電磁加速のためでもありますが」
「なるほどな。あっけなく貫けるわけだ」
「いやあ苦労しましたよ、ここの資材だけで作るのは。夜な夜な働いて何とか間に合いました」
昼間やれよと思ったが何も言わないでおこう。
猫は夜中に大運動会を開くものだ。
「そろそろ行けそうだよ」
コハクが言った。
「では私にお任せを」
ノワールが目を閉じる。集中しているようだ。
精密マニピュレータが動き出す。先端にはレーザーメス。
メスがヴェリテの胸郭をあっさりと切り開く。
鉗子を持った複数のマニピュレータが開口部を把持。
ほんのりと赤みを帯びた柔らかなピンク色の臓器が現れる。二人の脳だ。
透明な保護膜に包まれている。
精密マニピュレータが、鉗子とメスを丁寧に操り、血管や神経束を台座から切り離す。
一つずつ脳を取り出し、小型の停滞カプセルにそれぞれ慎重に収めた。
二人を無事に救出できた……。
残った空洞には、一本の円筒体がはめ込まれている。機械知性のコアユニットに酷似しているな。
よく見るとそれには文字が刻まれている。太陽系標準言語で『エトナ』と読める。
「これは、機械知性のコアユニットじゃないのか?」
「そうですね。そう見えます」
ノワールがマニピュレータを操作してコアユニットを取り出す。
「これは跳躍艇で解析しましょう」
「二人と会話できるか? 俺のときのように」
早く二人と話したい。
ジーンの想い、ジーンの努力、ジーンとの生活。話すことはたくさんある。
「体を再生してからにしましょう。あなたは異常に落ち着いていましたが、普通はパニックになりますからね」
「再生できるのか!?」
「二人の体細胞は保存してあります。跳躍艇の施設を使えば再生できますよ」
「そうか! それは良かった」
「あなたの体細胞も保存しています。この際、人間の姿に戻りませんか?」
「……そうか。それはありがたい話だ。だが九年も使っていたボディだ。少し考えさせてくれ」
実は、機械狼の姿に少し愛着が湧いてしまったのだ。




