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少年と宇宙  作者: 津本ジオ


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ヴェリテとの戦い

ヴェリテが接近してくる。

二対の腕の細い方、その両手にそれぞれ荷電粒子ガンを構えている。

ノワールの話では、鉄イオンを加速して発射する武器のようだ。

形状は、俺の愛用していたパルスロッドによく似た円筒形だ。

荷電粒子ガンの威力は身をもって知っている。

だが、この距離から撃ってくることはない。

奴は俺の脳を狙っているからだ。必ず近接戦に持ち込んでくる。


通信回線を開き、シェルター周波数で呼びかける。

「ナルヴィ、アリス、聞こえるか。応答しろ」

これは、事前の打ち合わせで決めていたことだ。

ヴェリテに呼びかけて相手の反応を見る。

予想どおり応答は無い。


続けて、ノワールに合図を送り、体表の装甲プレートを漆黒に変化させる。同時に真下方向に急機動。

即座に強力なライダー(LiDAR)波を浴びる。

わずかに装甲プレートの温度が上がる。見つかったな。

ヴェリテが反応、こちらを追尾してくる。視覚的な欺瞞は効果がないようだ。

彼我の距離が十キロを切った。目の前と言っていい。

ノワールは最初の指示を守り、俺を挟んでヴェリテの反対側に位置している。


俺が目指しているのは、セレス近傍の自動救難基地だ。

無人自動救難機を多数配備しているこの基地は『大脱出(エクソダス)』のあとも機能を維持している。

千年間は自己補修を続け稼働可能なシステムということだ。

今回、この基地を決戦の場に選んだのはノワールである。

俺たちと合流する前に罠を仕掛けたようだ。


基地の遠隔制御コードを使い、整備区画のハッチを開放。この区画は与圧されていないドライドックだ。

ノワールに別行動を指示して、俺はハッチをくぐる。

広大な整備区画には救難機がずらりと並んでいる。二十機ほどだろうか。大型マニピュレータが機体を掴み上げ移動させているのが見える。

足場は十分だ。

スラスターの最大推力である八Gを超える脚力が、この隊長機(アルファ)には備わっている。

ヴェリテの推定十Gも軽く凌駕する。

ここで奴を迎え撃つ。


ヴェリテが整備区画に飛び込んできた。

こちらを視認すると、すぐに荷電粒子ガンを向けてきた。

腹部は狙わないだろうと思っていた。予想どおり頭部を狙っている。

そこに脳が無いのは知っているはずだが、頭部に集中しているセンサー群を潰す気だろう。


ウルフパック型ロボットの、汎用フォトニック量子コンピュータは超小型だ。

しかし、極低温下で稼働するため冷却器はそれなりの大きさがある。

ちょうど人間の脳ほどの大きさだ。

ウルフパックの冷却器は腹部に設置されている。それを撤去して俺の脳を収めたのだ。

ナルヴィは、防衛計画の立案もこなすので、ウルフパックの構造には詳しい。

そして、ヴェリテに攻撃されて瀕死の俺が、その後どうなったかはアリスの知識でシガ・シェルターにハッキングして突き止めたに違いない。

二人の知識を合わせれば、移植された俺の脳がウルフパックの腹部に収められていることも想像がつくだろう。


荷電粒子ガンの先端が輝く。

サイドステップでかわす。金属製の床がプラズマ化する。

俺がさっきまで立っていた場所に直径二十センチほどのクレーターができている。

続いて二撃目。今度はもう片方の手に持っている荷電粒子ガンからだ。

真上にジャンプしてかわす。スラスターで体をひねり天井に着地。

一撃目と二撃目の発射と同時にそれぞれカウントを開始。

射撃間隔を調べるためだ。


そして、三撃目が来たのは、一撃目から四・二秒。交互に撃てば二・一秒間隔か。

余裕だな。

射撃のタイミングを計ってヴェリテに迫る。ヴェリテは最大加速で避ける。

ノワールの予測を裏付ける十Gでの回避。

俺は、進路上の大型マニピュレータをキック、軌道修正。

眼前に迫る俺に、ヴェリテは荷電粒子ガンを向けるが狙いはそ(・)れ(・)だ。

次の発射まで〇・三秒。

俺は右前肢を振り上げダイヤモンドの爪で荷電粒子ガンを切り裂く。

すれ違いざまにヴェリテの頭部を蹴り距離を取る。


これでヴェリテの射撃間隔は四・二秒になった。

ノワールが仕掛けた罠に誘いこむにはちょうどいい。

幅、高さともに十メートルはありそうな搬出入路に視線を向ける。

整備区画と格納庫をつなぐ通路だ。

格納庫までの距離は五百メートル。ヴェリテの射撃間隔四・二秒の間に走破できる。


格納庫は発着場も兼ねているため、整備区画よりも規模が大きい。

罠を仕掛けた待ち伏せ地点(アンブッシュサイト)はこの格納庫だ。

実行前にノワールに確認を取る。

返信は「Good to go(いつでもどうぞ)」だ。

こいつ、やたらと太陽系標準言語(スタンダード)に詳しいな。元は英語のスラングだぞ、この表現。


行動手順はこうだ。

ヴェリテの荷電粒子ガン発射と同時に搬出入路に飛び込む。

通路を抜け、格納庫に入り十時方向に転進。

そこにはノワールが罠と共に待ち受けている。


通路の前に位置取ると、ヴェリテが荷電粒子ガンを発射。カウント開始。

通路に飛び込む。ヴェリテが追ってきた。

ときおり壁を蹴りヴェリテとの距離を維持。

二秒経過。通路を半分ほど進んだ。


二・六秒経過。速度は時速九百キロを超える。

そのとき、ヴェリテが持つ荷電粒子ガンの先端が光る。

臀部の光学センサーが捉えた。

まだリチャージ中のはずだ。

はっと気づく。アリスにしてやられたのか。


アリスが前に言っていた「ハッキングは心理戦よ」という言葉が脳裏(のうり)をよぎる。

相手に自分の能力を誤認させて、油断を誘う。

もう大丈夫と相手が安心した瞬間に侵入を成功させるそうだ。

そのために、荷電粒子ガンの射撃間隔を抑えていたのか。

片方の荷電粒子ガンを犠牲にしてまで……。すごい忍耐力だ。


だが、騙(だま)していたのは俺も同じだ。

ヴェリテが奥の手を隠し持っていることは想定していた。

俺は今まで、荷電粒子ガンを向けられた瞬間から回避を開始していた。

鉄イオン粒子が放出されたら、それを避けることは不可能だからだ。

光速に近い速度、おそらく〇・九九c程度だろうとノワールが言っていた。


だが、ほぼ光速で飛んでくる粒子は避けられなくても、荷電粒子ガンには前駆発光という制約がある。

前駆発光から〇・二秒後に鉄イオン粒子束が放出される。

〇・二秒のタイムラグは粒子束の形成にかかる時間だ。

形成を開始する瞬間、莫大な電位差により発光するのだ。


俺は補助電子脳に、危険回避のための自律行動を許可していた。

今までは、俺の先読み回避で出番が無かっただけだ。

小脳に組み込まれた補助電子脳の性能は凄(すさ)まじい。

知覚から行動に移るまでの反応時間は〇・〇二秒。非常に速い。

俺は、回避行動が終わったあとに状況を認識しているに過ぎない。


補助電子脳の指令により、隊長機(アルファ)の瞬間最大脚力二十Gを解放して床を蹴る。

腹部スラスターが連動して作動、八Gを加算。

体の下を鉄粒子線が通り抜ける。

百八十度ロールして天井に着地。

ここまで全て補助電子脳が行った。


すばやく天井を蹴り、残りの距離を消化、通路終端の壁を蹴りノワールが待つ位置を目指して転進。格納庫に突入。

正面にノワール。呑気に手を振っている。足元の太い砲身がこちらを睨む。

事前の打ち合わせどおり、俺は上昇してノワールとすれ違う。

上から砲身を眺める形になった。長い。三十メートルはありそうだ。


そして、ヴェリテが格納庫に入った瞬間、視界にノイズが入る。

ノワールがニードルキャノンを発射したのだ。

長大な砲身に比して、発射されたのは直径三ミリ、長さ五センチの細い針。

それが正確にヴェリテを貫く。人間でいうとへその辺りか。

いつの間にか宙に浮いていたノワールが、ヴェリテにちょんとタッチ。

僅(わず)かにベクトルを変えられたヴェリテが砲身の脇を通り過ぎる。

その先にあったのは巨大な緩衝材のかたまり。ヴェリテが突っ込む。

スラスターで速度を殺しきれなかった俺も同様に緩衝材に包まれる。


「お見事」ノワールに賛辞を贈る。

『無事に伝導装置だけを破壊できましたね』


俺たちはヴェリテの回収に向かった。

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