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少年と宇宙  作者: 津本ジオ


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コハク 2

「そして、ノワールは俺に約束した。十年待てば強力な援軍が来ると。代わりに、セレスで知ったことは他言無用だと」

アルの言葉が続く。

「その援軍がコハクさん?」

そうだよ。拙(せつ)のことさ。

「そうみたいだな……」

何だアル。そのがっかりしたような雰囲気は。


どうやらアルの話が終わったようだ。

アルはジーンの本当の両親のことを除いて、全て話したようだ。

「話は終わったかい。そろそろ本気で加速するよ。これを見ると話どころじゃないだろうからね」

そう言いながら、コンソールを操作する。星々が後ろに流れはじめた。

どんどん正面に星が集まってくる。青白い。

宇宙空間でさえ、うっすらと青く光りはじめる。

青方偏移と光行差の影響だ。

ジーンは呆(ほう)けたようにその景色を見つめている。はっとしては、横を向いたり後ろを見たりと微笑ましい。


目の前に、古い友人たちの息子がいる。

ロキ・シノハラ元少佐とマルグリット・クロケット元曹長の息子が。

二人の間に子供ができるとは誰も思わなかった。ノワールの見解も同様だった。

過度に遺伝子改変された二人は受胎すら不可能と考えられたのだ。

ロキとマル、それに加え、ヒロ・ヤマガタ元特技兵の三人は、『シミラ』人科学者ラザードによって「造られた」存在だ。

遺伝子改変された生物特有の動的平衡の不均衡さゆえに、寿命の短さは確定的だった。

設計段階から、ほぼ二十五年でその生涯を終えると予測されていた。


拙(せつ)の種族も同様の問題を抱えていた。

鉱物資源採掘のために、隷属種族として製造された拙たちの種族は、五十年という寿命に縛られていた。

それを哀れんだ『尊き御方(とうときおんかた)』は、拙たちの寿命の制限を外された。

今後は繁殖も計画的に行う必要があるだろう。


三人の中で、すでにマルは身体崩壊の兆候が出ていた。

それを、拙と守護者は医療用分子デバイスで治療したのだ。

その結果、三人は寿命という呪縛(じゅばく)から解き放たれた。

まさか、そのデバイスが生殖細胞にまで効果を発揮していたとは……。

だが、そのままでは、胎児が正常に育つことはあり得ない。


二人と相談して、受精卵から異星種族の遺伝情報を排除、地球人の部分だけを残して育成を試みる。

その結果、ロキとマルの面影を宿した「普通の」地球人の嬰児(えいじ)を無事出産。ジーンと名づけられる。

ジーンが一歳になったころ、ロキとマルに『アライアンス』からの要請がかかった。

一触即発状態の『文明指標』Ⅱと定義される知的種族の保護だ。

二人は、寿命に縛られた自分たちの息子の扱いを決めかね、ひとまずは停滞カプセルに委(ゆだ)ねて地球に送りこむことにする。

そして、決断を先送りにして知的種族の星へと旅立った。


その後、ポイント・ズールーで、時間を止めて両親を待つジーンの前に現れたのは、ノーザンエンド調査課所属の、ナルヴィ、アリス、そしてキースだった。

結果的に、三人に加担する形となったノワール。

ロキとマル、ジーンの三人に待っているのは、息子の死を見送る両親の悲嘆。

ノワールは、ジーンが地球人の養子として、普通に生きていく方がいいと思ったのだろうか。


ノワールはセレスでの事件の直後、通信カプセルをプロキシマ・ケンタウリに向けて射出。

非常時の連絡手段として残した『ストラクチャ』と現実空間の相互作用を推進に利用した超高速の通信カプセルだ。

約四年でプロキシマ・ケンタウリの通信可能範囲に入った。

ノワールからの通信を受けとった拙は、即座にフェリシアを後にして、五年もかけて太陽系に戻って来た。

ストラクチャ航行以外での、恒星間航行など初めてのことなので、安全性に余裕が持てる速度を選択したからだ。


フェリシア星系から、プロキシマ・ケンタウリまではストラクチャ航行。

二万八千光年を移動するのに五日ほどで済んだ。

プロキシマ・ケンタウリから太陽系までは約四・二光年。これが長かった。

三百年ほど前に起きた太陽系事変。その影響で太陽系の『エッジ』は閉じている。

公表されている範囲では、数百年程度でエッジは復活するとされているが、それまでは恒星を渡るには現実宇宙を航行する以外の術(すべ)はない。つまりは光速の壁が立ちはだかるのだ。


プロキシマ・ケンタウリ到着後、約一万Gで連続加速。

〇・八五cに達した時点で慣性航行に入り、同様の手順で減速、合計約五年で太陽系に到着。

数万光年の旅程のうち、僅か四・二光年程度の距離が大半の時間を占めてしまった。

エッジの無い恒星とは、かくも遠いものなのかと嘆息する。

まあ、停滞カプセルを使用せずに、語学学習に明け暮れたおかげで、周りから指摘されていた「固い」口調も矯正できたように思う。

あらためて、太陽系標準言語(スタンダード)の奥深さを知った思いだ。


そう言えば、守護者(今はノワールか)も昔、何かマルに言われていた。

「猫の姿になったからには猫らしく話した方がいいです! 語尾に、ニャってつけるといいですよ」

「マル姉、守護者さん、じゃなかった……ノワールさんは丁寧な口調のままジョークを混ぜるスタイルが似合うと思うよ。謎の強者感が出そう」

「そうですね、慎重に検討することにしましょう」


あのころが懐かしい。三七小隊の皆は息災だろうか。

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