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少年と宇宙  作者: 津本ジオ


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コハク 1

コハク 1


早朝、アルに起こされる。

「おはよう、ジーン。朝食を食べたらセンチネルの整備、点検をするぞ」

「……おはよう、アル。準備するよ」

昨夜、ベッドに入る前に、死んだハブ・ジャッカーたちの冥福を祈った。

そのおかげか、悪夢を見ることはなかった。

顔を洗い歯を磨き、ダイニングテーブルにつくと携行食のパッケージがテーブルに載っていた。アルが用意してくれたみたいだ。


携行食をパッケージごと調理器に入れてスイッチを入れる。二十秒で「ピピン」と軽快なチャイムが鳴った。

テーブルに戻ってパッケージを開けると、ポタージュスープ、ベーコンエッグ、温野菜のサラダ、ふわふわのロールパン、紅茶が現れた。

調査課支給の携行食はとても美味しい。素直に嬉しい。

携行食に付属しているプラスチックのカトラリーで朝食を楽しむ。


アルはもう食べ物を必要としない体になった。

脳に栄養を補給する小さなカートリッジだけで生きていける。

機械狼の動力は超小型のリアクターだしね。半永久的に活動できる。

便利だけど、美味しいものが食べられないのは少し切ないな。

アルと一緒にわいわいと食事を楽しみたかったよ……。


朝食を食べ終わり、紅茶を味わいながらアルに話しかける。

「ねえねえ、アル。ドナルドさんが言ってたセンチネルのデータバンクに入ってる資料は見た?」

ドナルド爺から宇宙に出る許可をもらったことは、出発前夜にアルに伝えてある。

「ああ、確認した。セレスの異常に関しては、データに載ってないことも俺は知っている。そのことは道中話そうと思っていた」アルの様子が変だな。

ポイント・ズールーに来てから何となく落ち着きが無い。


「うん、分かった。じゃあ、センチネルのところに行こうよ」

休憩室のエアロックで簡易耐寒服を着て、三番格納庫に向かう。

格納庫に入った瞬間、アルが前に出る。

「気を付けろ。暖房が効いている……誰だ、出てこい!」アルが叫ぶ。

僕は簡易耐寒服を着ているから気づかなかった。暖房が入っていたんだ。


「おやおや。ごあいさつだねぇ」

そんな言葉とともに現れたのは……。

猫? 紛れもなく猫だ。

背中はグレー、お腹は真っ白、顔もグレーと白で上下に分かれている。

顔はグレーのお面をつけているようにも見える。

印象的なのは、アンバーの瞳。

ふかふかの毛皮でちょっと太ましい。


なんで太っていると分かるかだって? ノーザンエンドにも猫がいるんだ。二匹の親猫と三匹の子猫。

その猫の家族は、みんなシュッとしてスマート。

目の前の猫は、三割増しで大きく、五割増しで太い……。

「猫。太った猫だ」思わず口に出してしまった。

「おい、小僧。レディに対してなんてセリフだい」猫がしゃべった。

ちょっとハスキーな大人の女性の声で。

基礎学校の担任のおばちゃん先生に話し方がちょっと似ている。

いたずらをしてはが(・)み(・)が(・)み(・)と叱られたものだ。懐かしい。


「……猫のお嬢さん、一つお聞きしたいんだが、いいか?」アルが心なしか萎(しお)れた声で質問する。

「好きにしな」

「あんた、ひょっとして……ノワールが言っていた援軍か?」

「勘のいい犬っころだね。その通り。お前さんを助けるために駆けつけたのさ」

「ねえ、アル。この猫さんのこと知ってるの? それにノワールって僕たちが向かってる通信塔の……」

「たぶんな……」

機械狼に表情は無いが、嫌そうな顔をしている雰囲気。


「自己紹介でもするかね。拙(せつ)の名はコハク。フェリシア星系からは(・)る(・)ば(・)る(・)来たんだよ」

フェリシア星系って『大脱出(エクソダス)』の移住先じゃないか! 

たしか猫に似た知的種族が住む星だったはず。そっくりというか、猫そのものだ。

「……俺はアルファ、アルと呼べ」

「僕はジーン。ジーン・タキザワ。ノーザンエンドから来たんだ」

「お前さん、ジーンかい……。こんなにも立派に育って」

この猫、涙ぐんでいる。猫なのに器用だね。

それに、僕のことを知っているみたいだ。意味が分かんない。


「盛り上がっているところを悪いが、こいつの整備がある。あとにしてくれないか」センチネルをこつこつと叩きながらアルが言った。

「なんだい、感動の再会の邪魔をしなさんな。そんなものは放っておきな。もう必要ないよ」

アルとコハクさんが話しているが、全然頭に入ってこない。

だって、僕は重大なことに気がついたんだ。

三百年前の太陽系事変。その影響で『エッジ』が閉じたのは百五十年前。

それ以降、超光速航行が不可能になって……。

コハクさんはフェリシア星系から来たと言った。


どうやって?

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